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2章 ファナエル=???

【ファナエルSIDE】 私は今日という良き日に報われた

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 左肩をベトリと生暖かくドロドロとした液体が浸してゆく。
 未だに慣れることの無い気持ちの悪い感触。
 完璧な生命体で人間を導くはずだった私が人間と同じ不完全な生命体にまで堕ちたことを表す証。

 天界の仲間はこの姿を見て憐れみを、知り合いになった人間はこの姿を見て恐怖を示す。
 羽を失い、光輪が欠けたあの日から私は孤独だった。
 その孤独を埋めてくれる存在を求めて私は長い間歩き続けた。

 『堕天使だと……ふざけるな、こんなバケモノが居てたまるかよ』
 『何なのです……あの禍々しい姿は、こんな恐ろしいものにお兄さんは目を付けられていたのですか?』

 天界に見切りをつけた私は人間界をさまよっていた
 一体いくつの月日が経過したことだろう。
 その間に私はどれほど恐怖と敵意をむき出しにした人間達の心を聞いた事だろう。

 数えきれないほどの絶望を味わって、心がカラカラになってしまうほどの孤独を味わって……そして私は今日という良き日に報われたのだ。

 『ファナエル……あんなに血を出して怪我とかしてないのか?!』

 薄暗い廃墟の中、こんなに醜い姿の私を見て心の底から心配をしてくれる人間がここに一人。
 私はクルリと振り返ってそんな彼の顔をじっと見つめた。

 「大丈夫だよアキラ。別にここから血が出たとしても人間みたいに死ぬことはないから」
 「そ、そうなのか……で、でも痛かったりしないのか?」
 「全然痛くないよ。そんなに心配しなくても大丈夫だから」

 アキラの声はどこかぎこちないものだった。
 彼だって人間、当然堕天使である私の姿を見て困惑するものだ。

 でも彼はその困惑を『私を心配する気持ち』として出力してくれているのだ。

 今まで出会ってきたどんな人間も、天界に居る神や天使も、私の両親でさえ恐怖を感じ、果てには私を拒絶して自らの安全しか考えていなかったというのに……アキラだけは私の事を第一に思ってくれている。

 ねぇアキラ、きっと今もこの心の声を聞いてるんだよね。

 私ね、ずっと信頼できる誰かの胸に顔をうずめて泣きたかったの。
 この姿の私を拒絶しない人と一緒に居て孤独を埋めたかったの。
 今までの辛い思い出を全部聞いてほしかったの。
 
 アキラ……私の大事な大事なアキラ。
 この世界でたった一人、私と言う存在を受け入れてくれた私だけの宝物。

 今すぐ二人でこんな廃墟を抜け出そう?
 そしたら私の家に行って沢山話をしよう。
 アキラの言葉で……この世界でアキラしか私に言ってくれない優しい言葉で、私を絶望と孤独が渦巻くこの運命から連れ出して。

 「堕天使なんておぞましいもんなら……なおさら後には引けねぇ!!」

 ムードもへったくれも無いような声が私とアキラを遮った。
 ビョン!!と言う音が響いた直後、私の目の前にサングラスをかけた男が瞬間移動した。

 この男の心からは私に対する恐怖心と氷雨と言う修道服の少女に対する強い思いが聞えてくる。
 ここで私を止め、アキラを化け物にさせないという強い強い思いが私の脳に直接響いてくる。

 せっかくいい気分だったのに……こいつのせいで台無し。


 今はもっとアキラの心を聞いていたいというのに、なんて邪魔な事をするのだろう。
 人を殺すと天界での法に引っかかるからさっきは少し手を抜いてあげたけど……

 『###########』
 『###########』
 『###########』

 私とアキラの邪魔をするなら、その心の身体も再起不能になるレベルで叩き潰してあげるよ。
 
 体中からノイズ交じりの光りが溢れ出る。 
 その光はサングラスの男を逃すことなく食らいつき、何度も何度も廃墟の壁にその身体を叩きつけてた。

 きっと後数分もすればあの男は立ち上がれなくなる。
 そしたら今度こそ私はアキラと一緒にー

 『後は頼んだよ……ボス』

 瞬間、妙な心の声をキャッチした。
 急いで辺りを見回すと、そこには壁にもたれながらも宝石のように赤い左目を輝かせている一人の女子高生が立っていた。

 「あれは何?」
 「私の大切な仲間なのです」

 気づけば至近距離で聞いた事のある少女の声がする。
 目の前にはいつぞやに見た修道服を着た少女が立っていた。

 「どうして?!私はこんな至近距離に近づかれるまで気づかないはずが」
 「雄二ゆうじとるるちゃんの魔眼があなたを引き付けてくれたおかげなのです……いくら堕天使のあなたでも、夢の中でなら!!」

 少女はそう言ってポケットから一つの札を取り出した。
 その札には私のほぼ同等の力を持つ悪魔文字が記されてる。

 札の文字は妙な光を放ちながらうごめき、『シンガンは君を見つめている』と言う日本語を完成させた。
 
 その文字を見た瞬間、私と目の前にいる少女はふっと力が抜けたかのように地面に倒れ……意識は深い深い夢の中へと落ちていった。
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