【完】ちゃーちゃんの牛乳

唯月漣

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8.命の価値

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 ある時、ユイちゃんは繁殖犬を保護する番組を見ました。
 ゲージに閉じ込められ、子供を立て続けに産まされて、ボロボロにされた母犬を保護し、ペットとして引き取られるようにするという趣旨の番組です。

 番組では、大きな文字で『動物虐待』と出ていました。

 ユイちゃんの家のちゃーちゃんは、牛乳を採るための牛でしたから、この母犬と同じように毎年妊娠出産搾乳を繰り返していました。
 だってそれがあの家での、ちゃーちゃんの『お仕事』だったのです。
 
 ユイちゃんの家が特別な訳ではなく、酪農家の大半はやっていて事です。

 
 確かに、ネズミを捕れなくなったマーちゃんや番犬ができなくなったチャーミィは、ユイちゃんの家が酪農を辞めたあとも、ペットとして自宅へ移り、殺されることはありませんでした。
 
 ですが、歳を取って乳が出なくなった牛は食用として出荷されましたし、卵を埋めなくなったコッコは殺されて食用のお肉になりました。

 
 犬や猫は『可哀想』で『動物虐待』なのに、とうして牛や鶏は誰も『可哀想』と言ってくれないのか。

 殺したあとにお肉さえ食べたら、その死は可哀想じゃなくなるの?
 
 最初から食肉用、経済動物っていう名前で飼ってたら、酷いことをしても虐待にはならないの?


 
 小さかったユイちゃんは、今はすっかり大人になりました。
 ですが、その答えは大人になった今も分からないままです。

 むしろ、大人になっていろんなことを知ることで、益々分からなくなってきた気すらします。

  
 そんなユイちゃんがちゃーちゃんのためにできることは、毎日沢山の牛乳や国産の乳製品を買い、まだ乳を絞れる牛が一頭でも本来生きられる年数に達することができるよう、神様に祈ることだけでした。


 皮肉にも、国がまだ乳を絞れる牛を殺したら15万円給付するというお達しをしたことがSNSで話題となり、現在ではこの問題に関心を持つ方がとても増えました。

 このままこの問題が好転することを願いながら、ユイちゃんは今日もスーパーで乳製品を買います。

 
「あのちゃーちゃんの最後の牛乳、どんな味だったのかなぁ……」


 お店で買った牛乳を飲む度。
 ユイちゃんは今でも、あの日飲めなかったちゃーちゃんの最後の牛乳の味を想うのでした。
 
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