元・愛玩奴隷は愛されとろけて甘く鳴き~二代目ご主人様は三兄弟~

唯月漣

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25)口付けられて

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「んん、ふ……っ、ん……」



 受けなれない口付けに困惑する私を導くように、水湊様が舌で優しく唇を割る。優しく舌を舐められて、いざなうようにちゅっと吸われた。

 よろけた拍子に壁に背中を押し付けられる形になると、水湊様に顎を押さえられて歯茎を入念に舐められた。
 歯列をなぞるように滑る熱い舌が、一度はなりを潜めたはずの私の劣情をゾクゾクと掻き立てる。


「っは、ぁ……み、なと、……さま…っ」


 呼吸のタイミングが分からず、唇が離れる僅かな隙に酸素を求めて大きく口を開く。すると、私が息継ぎをするタイミングで今度は頬に流れた涙の跡を舐め取られる。

 両腕を突っ張って僅かに抵抗してみるものの、水湊様は強い力で私の腕を壁に押さえつけて、なおも私の唇を貪った。
 
 閉じた瞼の上から濡れた睫毛をも舐められて、へなへなと両腕の力が抜けていく。
 
 そうしてしばらく顔のあちらこちらを蹂躙じゅうりんされて、ようやく開放される頃には、私は気持ちよさと恥ずかしさ、酸欠で、頭がぼーっとしてしまっていた。


「水湊、さま……っ」


 困ったことに、私の秘所は水湊様の甘すぎる口付けで、再びじんじんと熱を持っている。
 
 けれども主人の許しなく自分で慰める訳にもいかず、かと言って奴隷である私が主人を差し置いて、己の快楽のために自ら主人へ愛撫をねだるのも気が引けた。

 私は今夜、水湊様に体を拓かれるのだろうか……。

 そう思うと、私の中で強い興奮と僅かな恐怖心が頭をもたげた。
 約束の折檻を終えたのだから、この後に待つのはきっと……。


「ああ、すまない。すっかり身体が冷えたな。今、湯船に湯を」
「――――え……?」


 唐突に我に返ったようにふっと体を離した水湊様は、そう仰りながらおもむろに風呂場の片隅にあった操作盤へと手を伸ばされた。
 
 明るい浴室内で隠すもののない私の欲望。
 
 それに気付かないはずはないのに、水湊様は興味を失われたかのように視線を外して私へ背を向けた。
 
 折檻が終わった途端、唐突に終わりを迎えたらしきその行為。気持ちの整理がつかぬまま、私はその場に立ち尽くした。

 やがて浴槽内に湯がたまると、数分湯に浸かったのち、水湊様は先に風呂から上がってしまわれた。
 
 私が緊張しながら一緒に上がろうとすると、水湊様は振り返ってそれを制する。


「私は先に寝る。日和も温まったら今日はもう自室へ下がりなさい」
「…………はい。ありがとうございます」


 そう言って、水湊様の温かく大きな手が私の髪をくしゃりと撫でた。
 私が呆然としていると、水湊様は浴槽内に私を残して本当にお一人で上がってしまわれた。
 
 慌てて水湊様の後を追いかけたけれど、この部屋はどうやら水湊様の寝室ではないらしく、部屋はもぬけの殻だった。

 折檻を与えられ、この屋敷に居ることを許して貰えたし、褒めても貰えた。
 けれども私は、結局また主人に抱いて頂けなかったのだ。

 その事実が悔しくて、悲しくて……。
 
 胸の奥にはただどうしようもない寂しさと、苦い疼きだけが残った。






***





 悔しさと悲しさの入り交じる気持ちでほとんど眠れぬまま、迎えた翌朝。

 窓の外はしんしんと雪が降っていた。
 屋敷の中は全館暖房らしく、外の景色とは裏腹に室内は廊下の隅々に至るまで暖かい。
 
 私は仕事にお出掛けになるであろう水湊様を一目お見送りしようと、朝七時に部屋を出た。
 
 行き先に迷っていつか律火様とお会いした食堂に出向いてみたけれど、そこにいたのは律火様と執事の初老の男性のみだった。


「おはよう、日和さん。早いね。良かったら一緒に朝ごはんを食べる?」


 私の顔を見た律火様は少し驚かれた表情の後、そう優しく声をかけてくださった。


「あれ? その目……。日和さん、夜更かしでもした?」
「いえ……。あの、水湊様は……?」
「兄さん? 兄さんなら、今朝早くに発ったよ。確か今日から三日ほど、四国の方へ出張だったと思うけど……」
「出張……」


 律火様はそう言いながら執事に何やら指示すると、私の分らしき食事がトレーに載せられて運ばれてきた。


「元気がないね。日和さん、兄さんに会いたかったの?」


 律火様の向かい側の席に食事が並べられ、座るように促された。私は恐縮しつつその席に座ると、律火様の質問にこくりと頷く。
 

「ええ……その。朝のお見送りをしようと思ったのですが……」 
「見送り? ……それってもしかして、その腫れた瞼と何か関係ある?」
「…………」
 

 優しくそう問われたけれど、まさかまた、奴隷としての初めての勤めを最後まで果たさせて頂けなかった、などとは言えない。
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