元・愛玩奴隷は愛されとろけて甘く鳴き~二代目ご主人様は三兄弟~

唯月漣

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35)デートしようよ

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「そうなの?」
「ええ。奴隷の人数が増えたここ数年はありませんでしたが、私が幼い頃はまだあの御屋敷で飼われている者も少なく、前のご主人様は初めて買った奴隷である私をとても可愛がって下さっていました」


 そう。
 前のご主人様は、元々はお優しい方だった。
 
 幼すぎて記憶は朧気おぼろげだけれど、ご主人様の大きなお膝に乗せていただいて飲むクリームソーダはとても美味しくて、私はしょっちゅうクリームソーダをねだっては、通いの家政婦さんに作ってもらっていた。

 主人の温かく大きな手で優しく頭を撫でて貰ったあの頃。私は自分の置かれた境遇など知りもせず、本物の祖父に甘えるかのようにご主人様に甘えて……。

 決して良い主人とは言えなかったはずの前の主人。なのに、今となっては楽しかった思い出ばかりが浮かぶのは何故だろう?


「じゃーさ、コーラフロートは知ってる?」
「えっ? ええと……」


 思い出に浸りかけた私を現実に引き戻したのは、再び楽しそうな詩月様の声だった。


「コーラフロート。メロンソーダじゃなく、コーラの上にアイスクリームが乗ってるんだよ。ホラ」


 そう言って詩月様が見せてくださった画面には、なにやらクリームソーダの色違いのような物が映し出されている。


「へぇ……初めて見ました」
「ならさ、今度飲みに行く?」
「??? お店に出掛ける、ということですか? 調理場の方に作っていただくのではなく」


 律火様と食べたケーキと違い、こちらはそんなに専門的な技術がいる飲み物のようには思えない。
 そう素直に伝えた私に帰ってきたのは、美しいドールのような微笑みと、悪戯なウインクだった。


「日和、鈍い。今度僕とも、デートしよって言ってるの」
「えっ……」


 私の手からコーラを受け取った詩月様は、ストローに口をつけながら笑う。


「良いじゃん。律兄とはしたんでしょ? 僕、日和と行きたいところがあるんだ。今度付き合ってよ」
「か、かしこまりました」
「じゃ、約束ね」


 コーラを飲み干した詩月様は、コップをお盆の上に戻すと、再び本のページに視線を戻された。




コップを下げに厨房へ戻った私は、廊下で再び佐倉さんと鉢合わせる。


「あれ? 日和、早いな」
「ええ……お飲み物をお届けしただけですから」
「体は大丈夫なのか?」
「ええっと……? 先程仰っていた、『疲れていないか?』という質問の件でしたら、私は大丈夫ですが」
「あー、違うんだが、まぁ無事だったんならいい」
「無事……?」
 

 佐倉さんの質問の意図が分からず、私は首を傾げる。
 けれど佐倉さんは忘れてくれと言わんばかりに手をヒラヒラ振ってそれ以上は何も答えず、代わりに屋敷内の使用人の仕事について色々と教えてくれた。

 厨房担当数名、庭師兼運転手、清掃・洗濯係が数人。
 水湊様の秘書、律火様付きの執事がそれぞれ一人。
 それと、側近兼ボディーガードが数名に、それを束ねているらしい樫原さん、佐倉さんだ。


「これでこの屋敷に勤めてる奴らはほとんど紹介したと思うぜ。今日休みの奴と、坊っちゃま達と出先に行ってる運転手やら、不定期で屋敷に来るやつも何人かいるから、それはおいおい紹介する」
「ありがとうございます。それにしても」


 廊下の数歩先をゆく佐倉さんに、私は迷った末に率直な質問をぶつける。
 
「お屋敷の規模の割に、働いている方々が少ないような気がするのですが、何か理由が? それにあの……先程も思ったのですが、詩月様だけ側仕えがいらっしゃらないのは何故です?」
「あー……」


 佐倉さんは困ったように立ち止まると、頭をかきながら私の顔を見下ろす。


「色々あるんだよ。それに詩月坊っちゃまは難しいお方だからな。そこら辺は、ちょっと訳ありなんだ」
「訳あり?」
「ん、まぁ……俺の口からは簡単にそーゆーの、言えないっつーか……」
「コホン。佐倉金侍きんじクン」

 突然背後から現れた人物が、佐倉さんの肩に手を置いた。佐倉さんは樫原さんの顔を見るなり小さく「ゲッ……」と声を上げたかと思うと、私の傍から慌てて離れる。
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