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46)気持ちいい時は
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「萎えるかどうか、聞いてみなきゃ分かんないじゃない。鳴いてみてよ、日和」
「…………」
そこまで言って頂けるのならば……。
そうは思うけれど、自分が声を出した途端、場の雰囲気がスッとしらけるあの感覚が脳裏につい蘇ると、下半身に与えられる気持ちよさとは裏腹につい臆病になって気持ちが萎んでしまう。
それは皮肉にも、詩月様の手の中で膨らみかけていた私の分身にも如実に現れてしまった。それに気がついたらしい詩月様の表情に、私は情けなくなって僅かに俯く。
「あらら……。まぁ、いいや。すぐにとは言わないから、そこは少しずつ慣れていこっか」
「はい……努力致します」
また、主人に気を遣わせてしまった……。
この家の皆さんは律火様も詩月様も本当にお優しくて、それなのにご期待に添えない自分が情けなかった。
そんな私の心情を察したのだろう。詩月様は私の髪に優しく口付けて、華奢なその体で私を抱きしめてくださった。
「もー、すぐそうやって深刻にとる。日和はすぐ反省し過ぎるんだから。せっかくの夜なんだし、もっと二人で楽しもう。ね?」
「――! はい」
いたずらっ子のように笑いかけて下さった詩月様につられて、私も少しだけ気持ちが楽になった。
「ところで日和。僕が面接の時に出した条件、まだ覚えてる?」
「はい、勿論です」
詩月様に初めて会ったあの日。詩月様は面接の最後に私にこう仰った。
『兄さん達の命令に反しない限り、僕の命令には絶対に逆らわないこと』
そんなことは、私にとっては当たり前だ。あの時も、二つ返事で条件を了承したことを覚えている。そのことを詩月様に告げると、詩月様は満足気に微笑まれた。
「ちゃんと覚えてくれてて良かったよ。じゃあさ、鳴けない日和のために、今夜は一つ、ゲームをしよう」
「ゲーム、ですか?」
「そう」
詩月様は人差し指を私の唇におあてになると、秘め事でも持ち掛けるように悪戯に片目を瞑られる。
「日和ってさ、見てるといつも『申し訳ございません』ばっかり言ってるよね。謝らなくていい時も。だから今夜はそれ、禁止」
「え……?」
自分の口癖を指摘されるほど詩月様が私を見てくださっていたことにも驚いたけれど、何より夜伽をゲーム方式で、という提案に驚いた。
「今夜は日和が僕に謝罪をしたら、僕は君には小さな罰を与える」
「えっ」
「その代わり日和が一晩謝らずにいられたら、何でもひとつお願いを聞いてあげる。……嫌だなんて言わないよね?」
意味深に目を細められた詩月様は、そう言って妖艶に微笑まれた。
詩月様は謝られるのがお嫌いなのだろうか? ゲームの意図は良く分からなかったけれど、立場的に私には従う以外の選択肢は無い。
「はい、承知しました」
「それと、これはお願い。今夜は、気持ちいい時は『気持ちいい』『もっと』って答えてほしいな」
「はい。努力致します」
「いい返事。努力してみてどうしても無理だったら、一回だけギブアップを許してあげる。そしたらその時は別のことで埋め合わせして貰うけどね」
このゲームに、ギブアップ……? それは一体、どういう状況なのだろう。ますますよく分からなかったけれど、私は素直に頷いた。
「OK。じゃあ日和。ちょっと準備をしてくるから、準備が終わったら始めようか。寒いかもだから、布団の中で待ってて」
詩月様はそう言い残して、お風呂場へと消えた。
詩月様は夕食後にシャワーは既に浴び終えていたようだったけれど、歯でも磨かれるのだろうか?
洗面所から僅かに響く水音に耳を傾けつつ、私は詩月様のお言葉に甘えて、布団を胸元あたりまで手繰り寄せ、静かに待つ。
詩月様は程なくして、手に洗面器を持ってお戻りになった。洗面器をベッドサイドのテーブルに置いた詩月様は、服を着たまま私の隣に腰を下ろされる。
「これは……?」
「なんだと思う?」
そう返されて洗面器の中を覗き込む。
中には透明な液体が張られており、室内の間接照明を受けてほのかに艷めいている。
中心には白く薄い布が静かに浮かんでいた。
「…………」
そこまで言って頂けるのならば……。
そうは思うけれど、自分が声を出した途端、場の雰囲気がスッとしらけるあの感覚が脳裏につい蘇ると、下半身に与えられる気持ちよさとは裏腹につい臆病になって気持ちが萎んでしまう。
それは皮肉にも、詩月様の手の中で膨らみかけていた私の分身にも如実に現れてしまった。それに気がついたらしい詩月様の表情に、私は情けなくなって僅かに俯く。
「あらら……。まぁ、いいや。すぐにとは言わないから、そこは少しずつ慣れていこっか」
「はい……努力致します」
また、主人に気を遣わせてしまった……。
この家の皆さんは律火様も詩月様も本当にお優しくて、それなのにご期待に添えない自分が情けなかった。
そんな私の心情を察したのだろう。詩月様は私の髪に優しく口付けて、華奢なその体で私を抱きしめてくださった。
「もー、すぐそうやって深刻にとる。日和はすぐ反省し過ぎるんだから。せっかくの夜なんだし、もっと二人で楽しもう。ね?」
「――! はい」
いたずらっ子のように笑いかけて下さった詩月様につられて、私も少しだけ気持ちが楽になった。
「ところで日和。僕が面接の時に出した条件、まだ覚えてる?」
「はい、勿論です」
詩月様に初めて会ったあの日。詩月様は面接の最後に私にこう仰った。
『兄さん達の命令に反しない限り、僕の命令には絶対に逆らわないこと』
そんなことは、私にとっては当たり前だ。あの時も、二つ返事で条件を了承したことを覚えている。そのことを詩月様に告げると、詩月様は満足気に微笑まれた。
「ちゃんと覚えてくれてて良かったよ。じゃあさ、鳴けない日和のために、今夜は一つ、ゲームをしよう」
「ゲーム、ですか?」
「そう」
詩月様は人差し指を私の唇におあてになると、秘め事でも持ち掛けるように悪戯に片目を瞑られる。
「日和ってさ、見てるといつも『申し訳ございません』ばっかり言ってるよね。謝らなくていい時も。だから今夜はそれ、禁止」
「え……?」
自分の口癖を指摘されるほど詩月様が私を見てくださっていたことにも驚いたけれど、何より夜伽をゲーム方式で、という提案に驚いた。
「今夜は日和が僕に謝罪をしたら、僕は君には小さな罰を与える」
「えっ」
「その代わり日和が一晩謝らずにいられたら、何でもひとつお願いを聞いてあげる。……嫌だなんて言わないよね?」
意味深に目を細められた詩月様は、そう言って妖艶に微笑まれた。
詩月様は謝られるのがお嫌いなのだろうか? ゲームの意図は良く分からなかったけれど、立場的に私には従う以外の選択肢は無い。
「はい、承知しました」
「それと、これはお願い。今夜は、気持ちいい時は『気持ちいい』『もっと』って答えてほしいな」
「はい。努力致します」
「いい返事。努力してみてどうしても無理だったら、一回だけギブアップを許してあげる。そしたらその時は別のことで埋め合わせして貰うけどね」
このゲームに、ギブアップ……? それは一体、どういう状況なのだろう。ますますよく分からなかったけれど、私は素直に頷いた。
「OK。じゃあ日和。ちょっと準備をしてくるから、準備が終わったら始めようか。寒いかもだから、布団の中で待ってて」
詩月様はそう言い残して、お風呂場へと消えた。
詩月様は夕食後にシャワーは既に浴び終えていたようだったけれど、歯でも磨かれるのだろうか?
洗面所から僅かに響く水音に耳を傾けつつ、私は詩月様のお言葉に甘えて、布団を胸元あたりまで手繰り寄せ、静かに待つ。
詩月様は程なくして、手に洗面器を持ってお戻りになった。洗面器をベッドサイドのテーブルに置いた詩月様は、服を着たまま私の隣に腰を下ろされる。
「これは……?」
「なんだと思う?」
そう返されて洗面器の中を覗き込む。
中には透明な液体が張られており、室内の間接照明を受けてほのかに艷めいている。
中心には白く薄い布が静かに浮かんでいた。
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