元・愛玩奴隷は愛されとろけて甘く鳴き～二代目ご主人様は三兄弟～

９８）ずっと欲しかったもの

「多分僕は、こういう駆け引きに向いてないんだろうな……」
　
　律火様は困ったように、そう自嘲なさった。
　一呼吸置いて、今度は私の期待を込めた視線に真っ直ぐ向き直る。

　
「日和さん――ごめん」
「え……」


　やんわりと肩を押されて、私はおずおずと引き下がる。
　『ごめん』ということは、つまり……。
　
　けれども落ち込みかけた私を慰めるように、律火様は優しく頬を撫でる。
　再び照れたような微笑みを見せて、色っぽく小首を傾げた。


「そうしてあげたいけど、今日は職場から真っ直ぐ来ちゃったからね」
「……？」
「その……スキンがないんだ」
「スキン……？」


　スキンというワードに首を傾げる私に、律火様は小声で「コンドーム」と囁く。

　
「……！　そんなの、私の中に出して下されば……っ」
「――それは駄目」
「何故ですか……！？」
「日和さんの体に、負担をかけちゃうからね」
「そんなのっ……」


　行為が終わったらすぐに洗い流せば……！　そう思った私の言葉を遮ったのは律火様だ。


　　
「感染症のリスクもある。日和さんが大切だから、僕が嫌なんだ」
「……」
「だから、今日は我慢出来る？」


　子供に諭すようにそう言われてしまうと、私は言葉に詰まる。
　
　前の主人の元では、中に出されるのが当たり前だと思っていた。けれど、それは本当は危険な行為であったことを教えてくれたのは律火様だった。
　
　自分の無知を恥ずかしく思った記憶が、ふと蘇る。

　
「はい……。わがままを申し上げてすみませんでした」


　俯いた私を見て、落ち込ませたとでも思ったのだろう。律火様は少し考えるような仕草をしつつ、私の頭をポンポンと撫でて下さった。
　
　
「ごめんね。その代わりと言ってはなんだけど……こんなのはどう？」
「え……？」
「四つん這いになって、僕にお尻を向けてくれる？」
「…………！」


　私が言われるままに律火様へお尻を向ける形を取ると、律火様は傍に落ちていたエネマグラを拾い上げた。

　十分に慣らされた双丘の中心に突き立てられたそれは、律火様が軽く力を入れただけで、すんなりと中へ飲み込まれてしまう。

　奥まで挿入された後、内側の良い所を探すように角度を変えて抜き差しされ、私は思わず声を漏らした。



「んっ、は…………っ、律……っ、そこ……ぁっ」
「ここかな。ふふ、気持ちいい？」
「んっ……ふ、また私だけ……こんな……んんっ」


　たまらなく気持ちいいのに、一人だけ喜んでいるようで、寂しさに胸が痛む。

　ここで私が『気持ちいい』と答えたら――律火様は私が満足したと安心して、行為を終えてしまいそうだと思ったから……。

　
「ふふ、そんな顔をしなくても大丈夫。今日は僕も一緒だよ」
「――！」
「足、しっかり閉じてて」
「えっ……？　ひ、あっ……！？」


　突然背後から、両の太ももの間にローションにまみれた温かい何かが侵入してくる。
　
　それが律火様の性器であることに気が付いた私は、心臓が騒いだ。


「律……、火……さま？」
「ん……日和さん、ごめん。僕ももう、あんまり余裕ないかも……」
「あっ……、ふ、ぁっ」


　両腿の間にある硬くて熱いモノが、律火様の動きに合わせてぬるぬると擦れる。

　律火様の吐息や柔らかな髪が、私の背中をくすぐった。
　私はもう……一人じゃない。

　背面から揺れるような動きで当たる律火様の下腹が、くるりと突き出たエネマグラの持ち手部分に当たる。
　それが奥を苛むたび、まるで律火様のペニスで体の奥を突かれているようで……。

　性器同士がローションで擦れる感覚だけでも堪らないのに、こんな……こんな……。


「あっ、あっ……奥、がっ、んん……っ」
「苦しい？」
「ちが……」
　

　そう問う律火様の息が、僅かに上がっている。


「――――なら、気持ちいい？」


　私の腰を抱き寄せ、わざと自身の腹部を持ち手に押し付けるようにしてピストンされると堪らない。
　
　内側の良いところを狙うように刺激されて、同時に擦られたペニスの先からポタポタと先走りが滴る。
　
　
「はい……、気持ちいい、ですっ。――ぁ、やっ……」


　恥ずかしさに逃げかけた腰を引き寄せた律火様は、振り返った私の背中に宥めるようなキスをして下さった。　

　
「日和さん、可愛いよ。もう少しだけ足、ぎゅってしててね」
「んっ……はい」


　律火様にずん……と奥を突かれるたび、エネマグラを介して体の奥で疼くような甘い快楽が生まれ、お腹の中に溜まっていく。
　射精の快楽とは違う、疼き痺れるようなその感覚は、トロトロと体の内側を蝕むしばむ。


「苦しくない？」


　律火様が心配してそう声をかけて下さる。
　快楽に痺れた腕から力が抜けて、私はパフンと額から布団に崩れ落ちた。


「すご……、く……気持ちい、です。あの……律火、様は……？」
「ん……僕も、とっても気持ちいいよ」


　二人分の淫らな吐息と、皮膚のぶつかる甘い音。
　初めて主人と共有する快楽が堪らなくて、私はシーツにしがみついた。