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番外編)小さな魔王様と、執事。①*
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「またこんなにご無理をなさって……」
二人の背後で、寝室のドアが閉まる音が聞こえる。それと同時にそう溜息を付いたのは、魔王である碧を抱き上げていた執事、サクだった。
「ごめん。でも、これは魔王としての僕が至らなかったばかりに起きた事件だ。僕には魔王として、彼らを助ける義務がある。……そうでしょう?」
サクの腕に抱きかかえられたまま、碧は真剣な目でそう言って、それからふっと脱力した。
「ちょっ、碧様っ!?」
サクと呼ばれた執事は慌てて碧をベッドに横たえると、冷や汗で濡れる額に手を当てた。熱はないようだが、碧の顔は青白く、疲れ切っている。
「大丈夫。ちょっと魔力を使い過ぎて疲れただけ。悪いんだけどサク、ゼンリツ泉の水を汲んできてくれる?」
「もうご用意してありますよ」
サクはため息混じりにそう言って、たっぷり液体の入った水差しを取り出した。水差しの中には、酸味の強い柑橘系の果実と、ハーブが何種類か漬けこまれていた。
ゼンリツ泉の湧き水は古より魔力回復、精力増進の効果があるとされ、その希少さから代々魔王のみが口にすることを許されてきた。
少々癖があって飲みにくかったその代物を、果汁や茶葉などで飲みやすく加工する方法を提案したのは、十年前魔王城に雑用係として雇い入れられたばかりの、若かりし頃のサクだった。
「うわー美味しい! コレ気に入った! ねぇ君、名前は? 僕の側近になる気はない?」
好き嫌いを克服した子供のようなキラキラした碧の瞳は、今でもサクの目に焼き付いて離れない光景の一つだ。
以来十年、サクはずっと碧の側にいる。
苦しそうにベッドに横たわる碧の小さな体を、サクはそっと抱き起こした。
「失礼します」
そう小さく声をかけると、サクがゼンリツ泉の水を口に含む。そのまま口移しで碧にその水を飲ませると、ややあって碧が目を開けた。
「……すっごく甘い。サク、駄目だ。君の魔力が無くなっちゃう」
「良いのです。私の魔力が碧様のお役に立つのなら……」
サクもまた、ある日突然この世界へ飛ばされた。
1年ほどこの世界を彷徨って、どうやら自分程度の魔力では到底元の世界に帰ることなど叶わない事が分かった。
愛する恋人、両親、まだ幼かった弟や妹たち。
彼らにはもう2度と、会うことはできない。
そんな絶望からサクは自暴自棄になった。
自分の魔力を込めた体液が闇市で売れるらしいと知ってからは、体液を売って僅かな金を得るその日暮らしをした。
栄養状態が良くなかったせいか、はたまた精神的なものか。
ある日サクの体から、魔力が消えた。俗に言う、不能者になったのだ。
手持ちの金は底をつき、やがて食うことすらもままならなくなった。
サクは王都の裏路地の片隅で、いよいよ野垂れ死のうとしていた。
その頃から城下をお忍びで遊び歩く癖のあった碧の目にあの日偶然留まる事ができたのは、幸運だった。
「私は貴方だけのモノなのです。もっと私を味わって下さい、碧様……」
そう言って何度も魔力を込めた泉の水を口移しするうち、徐々にそれは情熱的な口付けに変わる。
「あっ……駄目だ、サク……っ、んん」
口では駄目だと言いながら、碧はとろりとした視線でサクを見つめた。
サクは形ばかりの拒絶を真に受けることはなく、目の前の愛しい魔王をぎゅっと抱きしめる。
抱きしめられた華奢な体は、繰り返された口付けによって既に火照り始めていた。
「大丈夫、私の生命力に影響しない範囲で行いますから。どうぞ、お許しを……」
サクは碧の返事を待つ気はないらしく、彼の纏う薄いシャツのボタンに指をかけた。
慣れた手付きで身に纏う布を剥かれて、碧は諦めたようにその身をシーツに横たえた。
碧の白く細いその身には赤い果実が二つ、彩りを添えている。それを掠めるように顔を近付けたサクは、敢えてそこを避けて鎖骨に唇を付けた。
僅かに浮き上がる鎖骨の硬さを確かめるように唇で食むと、汗に濡れる首筋に舌を這わせてゆく。
「ひぅ……っ、ん」
「……少し甘いですね」
愛おしそうに首筋を舐めたサクは、そう言いながらペロペロと碧の顔へと舌を這わせる。くすぐったいその快楽やサクの甘い囁きは、碧の中の官能の塊をゆるりと擽っていく。
「ぁ、やぁ……っ」
魔王の魔力は、欲情を帯びたときのみ、その体液を甘くする。
先程目の前で魔王候補であった鷹夜に碧が口付けたときから、サクは気が気ではなかったのだ。
業務上必要な行為として、碧が鷹夜へ魔力を渡したのは分かっている。
分かっていても、碧の甘い体液の味を知っているのは、自分だけでありたい。
たかが執事の身でありながら、恐れ多いことを考えているという自覚がサクにはあった。
現魔王である碧は、珍しく側室を持たないタイプだった。かと言って、王妃や特定の相手がいるという訳でもない。
遊びや気まぐれ、魔王業務の一貫で誰かと戯れる事はあるようだったが、決まった相手がいるだとか、誰かに抱かれたという話は知らない。
そう、サク相手以外には……。
「ぁ……、サク……そこは……っ」
サクの舌の先が耳朶にかかると、碧が弱々しく吐息を漏らして身じろいだ。困ったように小さく声を上げた碧が、サクに与えられるその快楽に、あっさりと陥落していく。
「碧様はここがお好きなんですよね」
サクは耳の中に直接声を吹き込むようにして囁くと、唾液を絡めた舌先でくちゅくちゅと音を立てて耳を舐めた。
コリコリとした軟骨のくぼみを丁寧に舌先でなぞると、ひんやりした耳朶を唇で優しく挟む。
そのままチュッと音を立てて耳朶を吸うと、碧の震える手がサクの上着の肩にすがりつく。
「ああ、失礼しました。上着を脱いでも?」
唇を離したサクは、無言でコクリと頷いた碧に微笑みかけると、身に纏っていた執事服を脱ぎ捨てた。
下着姿になったサクは、改めてぎゅっと碧を抱きしめる。これは以前、上着ごしでは体温すら分からず、寂しいと碧に窘(たしな)められた事によるものだ。
そんな可愛らしいことを言われたら、魔力授受のための行為だと分かっていても、割り切れなくなってしまいそうだ。
「ん……サクの体温だ。安心する。気持ちいい……」
「魔力を分けるだけなのに、碧様は変わっていらっしゃいますね……」
「バカ……」
碧のこの台詞はいつものことだ。そして、自分を律するための、サクの台詞も。
二人の背後で、寝室のドアが閉まる音が聞こえる。それと同時にそう溜息を付いたのは、魔王である碧を抱き上げていた執事、サクだった。
「ごめん。でも、これは魔王としての僕が至らなかったばかりに起きた事件だ。僕には魔王として、彼らを助ける義務がある。……そうでしょう?」
サクの腕に抱きかかえられたまま、碧は真剣な目でそう言って、それからふっと脱力した。
「ちょっ、碧様っ!?」
サクと呼ばれた執事は慌てて碧をベッドに横たえると、冷や汗で濡れる額に手を当てた。熱はないようだが、碧の顔は青白く、疲れ切っている。
「大丈夫。ちょっと魔力を使い過ぎて疲れただけ。悪いんだけどサク、ゼンリツ泉の水を汲んできてくれる?」
「もうご用意してありますよ」
サクはため息混じりにそう言って、たっぷり液体の入った水差しを取り出した。水差しの中には、酸味の強い柑橘系の果実と、ハーブが何種類か漬けこまれていた。
ゼンリツ泉の湧き水は古より魔力回復、精力増進の効果があるとされ、その希少さから代々魔王のみが口にすることを許されてきた。
少々癖があって飲みにくかったその代物を、果汁や茶葉などで飲みやすく加工する方法を提案したのは、十年前魔王城に雑用係として雇い入れられたばかりの、若かりし頃のサクだった。
「うわー美味しい! コレ気に入った! ねぇ君、名前は? 僕の側近になる気はない?」
好き嫌いを克服した子供のようなキラキラした碧の瞳は、今でもサクの目に焼き付いて離れない光景の一つだ。
以来十年、サクはずっと碧の側にいる。
苦しそうにベッドに横たわる碧の小さな体を、サクはそっと抱き起こした。
「失礼します」
そう小さく声をかけると、サクがゼンリツ泉の水を口に含む。そのまま口移しで碧にその水を飲ませると、ややあって碧が目を開けた。
「……すっごく甘い。サク、駄目だ。君の魔力が無くなっちゃう」
「良いのです。私の魔力が碧様のお役に立つのなら……」
サクもまた、ある日突然この世界へ飛ばされた。
1年ほどこの世界を彷徨って、どうやら自分程度の魔力では到底元の世界に帰ることなど叶わない事が分かった。
愛する恋人、両親、まだ幼かった弟や妹たち。
彼らにはもう2度と、会うことはできない。
そんな絶望からサクは自暴自棄になった。
自分の魔力を込めた体液が闇市で売れるらしいと知ってからは、体液を売って僅かな金を得るその日暮らしをした。
栄養状態が良くなかったせいか、はたまた精神的なものか。
ある日サクの体から、魔力が消えた。俗に言う、不能者になったのだ。
手持ちの金は底をつき、やがて食うことすらもままならなくなった。
サクは王都の裏路地の片隅で、いよいよ野垂れ死のうとしていた。
その頃から城下をお忍びで遊び歩く癖のあった碧の目にあの日偶然留まる事ができたのは、幸運だった。
「私は貴方だけのモノなのです。もっと私を味わって下さい、碧様……」
そう言って何度も魔力を込めた泉の水を口移しするうち、徐々にそれは情熱的な口付けに変わる。
「あっ……駄目だ、サク……っ、んん」
口では駄目だと言いながら、碧はとろりとした視線でサクを見つめた。
サクは形ばかりの拒絶を真に受けることはなく、目の前の愛しい魔王をぎゅっと抱きしめる。
抱きしめられた華奢な体は、繰り返された口付けによって既に火照り始めていた。
「大丈夫、私の生命力に影響しない範囲で行いますから。どうぞ、お許しを……」
サクは碧の返事を待つ気はないらしく、彼の纏う薄いシャツのボタンに指をかけた。
慣れた手付きで身に纏う布を剥かれて、碧は諦めたようにその身をシーツに横たえた。
碧の白く細いその身には赤い果実が二つ、彩りを添えている。それを掠めるように顔を近付けたサクは、敢えてそこを避けて鎖骨に唇を付けた。
僅かに浮き上がる鎖骨の硬さを確かめるように唇で食むと、汗に濡れる首筋に舌を這わせてゆく。
「ひぅ……っ、ん」
「……少し甘いですね」
愛おしそうに首筋を舐めたサクは、そう言いながらペロペロと碧の顔へと舌を這わせる。くすぐったいその快楽やサクの甘い囁きは、碧の中の官能の塊をゆるりと擽っていく。
「ぁ、やぁ……っ」
魔王の魔力は、欲情を帯びたときのみ、その体液を甘くする。
先程目の前で魔王候補であった鷹夜に碧が口付けたときから、サクは気が気ではなかったのだ。
業務上必要な行為として、碧が鷹夜へ魔力を渡したのは分かっている。
分かっていても、碧の甘い体液の味を知っているのは、自分だけでありたい。
たかが執事の身でありながら、恐れ多いことを考えているという自覚がサクにはあった。
現魔王である碧は、珍しく側室を持たないタイプだった。かと言って、王妃や特定の相手がいるという訳でもない。
遊びや気まぐれ、魔王業務の一貫で誰かと戯れる事はあるようだったが、決まった相手がいるだとか、誰かに抱かれたという話は知らない。
そう、サク相手以外には……。
「ぁ……、サク……そこは……っ」
サクの舌の先が耳朶にかかると、碧が弱々しく吐息を漏らして身じろいだ。困ったように小さく声を上げた碧が、サクに与えられるその快楽に、あっさりと陥落していく。
「碧様はここがお好きなんですよね」
サクは耳の中に直接声を吹き込むようにして囁くと、唾液を絡めた舌先でくちゅくちゅと音を立てて耳を舐めた。
コリコリとした軟骨のくぼみを丁寧に舌先でなぞると、ひんやりした耳朶を唇で優しく挟む。
そのままチュッと音を立てて耳朶を吸うと、碧の震える手がサクの上着の肩にすがりつく。
「ああ、失礼しました。上着を脱いでも?」
唇を離したサクは、無言でコクリと頷いた碧に微笑みかけると、身に纏っていた執事服を脱ぎ捨てた。
下着姿になったサクは、改めてぎゅっと碧を抱きしめる。これは以前、上着ごしでは体温すら分からず、寂しいと碧に窘(たしな)められた事によるものだ。
そんな可愛らしいことを言われたら、魔力授受のための行為だと分かっていても、割り切れなくなってしまいそうだ。
「ん……サクの体温だ。安心する。気持ちいい……」
「魔力を分けるだけなのに、碧様は変わっていらっしゃいますね……」
「バカ……」
碧のこの台詞はいつものことだ。そして、自分を律するための、サクの台詞も。
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