【完】真面目で苦労人の長男に、アラサー男が一目惚れした話。

唯月漣

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8)誕生日。

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「えっ。奏さん、今日誕生日だったの!?」


 夏の終わり。
 均が唐突に大きな声を上げた。

 溜め込んだ宿題をやるという名目で、均は朝から我が家に来ていた。
 そこに家事を済ませた悟が合流し、今はキッチンで、お中元でもらったそうめんを茹でてくれている。


「うん。俺も忘れてた。免許の更新だけは、忘れずに行かなきゃなー」


 リビングの机に置きっぱなしになっていた、自動車免許の更新時期を知らせるハガキを、均が目ざとく見つけたのだ。


「そうめん、出来たよー。二人でなんの話?」


 めんつゆの器を配りながら、悟が聞いた。


「奏さん、今日誕生日なんだって! 悟、知ってた!?」
「え、いや……。何歳になったんですか?」
「えーっと、三十一?」
「うっわー、ちょー大人だ……」
「こら」


 俺の年齢に素直な感想を述べる均をたしなめつつ、悟は言った。


「お誕生日、おめでとうございます。そんな日に押しかけてしまって、その」
「あはは、ありがとう。俺もさっきまで忘れてたし、祝われるよーな年でもないからね。家族も恋人も居ないし、二人が来てくれて嬉しいよ。今年は誕生日が一人じゃない。まして人様の手料理が食べられる誕生日なんて、最高、最高」
「いや、手料理っていうか、ただのそうめんですけど……」


 悟はそう言って、困ったように笑った。


 この年になると、家族や恋人でも居なけりゃ、そうそう毎年誕生日を祝われるなんて習慣はない。
 最後にきちんと祝ってもらったのは、何年前だっただろうか。

 だから、これは心からの言葉だった。

 それから均はハッピーバースデーを歌ってくれたし、悟は『ちょっと買い出し!』なんて言って出て行き、材料を買ってきて、炊飯器で作るりんごのケーキを作って出してくれた。

 バイト帰りの将貴が合流して、サラダや唐揚げ、ピザなんかがテーブルに並び。

 気付けば、我が家のテーブルには、置ききれないほどいっぱいの料理が並んでいた。


「改めて、奏さん。お誕生日おめでとうー!!」
「ありがとう。なんか、照れくさいけど」


 三人に祝われて、にぎやかな夕食を囲む。
 こんな事になるなんて全く思っていなくて、なんだか幸せな気持ちになった。

 俺は三人を抱きしめて、感謝を伝えた。久しぶりに冷蔵庫にあった缶ビールをあけ、くいっと喉に流し込む。今夜は最高に気分が良くて、幸せな気持ちだった。







 ふわふわした心地よい酔い方。
 ついつい楽しくて、何本か缶ビールを空けてしまい、みんなでゲームをやったり、料理を食べたり。

 酔いに任せて遊んで騒いで、気付けば深夜になっていた。

 見ると、均と悟はいつの間にかソファで眠ってしまっている。

 将貴もバイト帰りで疲れているだろうに、深夜番組を見ながらあーだこーだと話す俺の相手をしてくれていた。


「あー、悪い。こんな時間だな。あっちの二人も寝ちゃってるし、将貴も今日は泊まってって」
「あ、はい。あの、奏さん」
「んー? って、わっ」


 俺は空いた皿を下げようと立ち上がった途端に将貴に呼ばれ、振り向くと将貴がすぐ間近に立っていた。

 ちょ、君のパーソナルスペースはどーなってんの!?
 ただでさえ深夜に二人きり。しかも、酒のせいで俺の理性は弛んでいるというのに。

 思わず後ずさりで距離を取ろうとする俺に、
 将貴は頬を赤くしながら、恥ずかしそうに視線を逸らせて両手を広げていた。


「あの、よかったら……ハグ、しませんか」
「……する」


 そう言われた瞬間、俺は将貴を抱きしめていた。華奢な体をぎゅっと抱きしめ、両腕を背中にまわす。体を密着させて肩口に顔をうずめ、将貴の匂いを鼻腔いっぱいに吸い込んだ。

 俺ががっつき過ぎたせいか、一瞬怯んだようにビクついた将貴だったが、少しの間をおいてから、おずおずと背中に両腕を回し返してくれた。

 二人の体の密着した部分から、じんわりと将貴の体温が伝わってくる。酒を飲んでいる俺のほうが、少しだけ体温が高い。

 密着した体からは将貴の心臓の鼓動が伝わってきて、それがとても早くて。

 ついつい俺まで、ドキドキしてしまった。
 出来る事ならずっと抱きしめていたかったけど、そうすると俺の理性が保たなくなりそうだった。
 将貴の背中にあった両腕を弛め、頭をくしゃっと撫でてから、将貴を解放する。

 俺の顔からわずか二十センチほどの距離から、将貴が紅潮した頬で俺を見つめていた。


「奏さんは、その。ゲイ……なんですか?」
「えっ? あー、いや。一応バイ……だけど」


 唐突な質問に思わず正直に答えてしまってから、俺はドキッとする。見れば、将貴は俺の股間に視線を送っていたからだ。

 し、しまった……。
 酒も入り、大好きな将貴と触れ合った俺の股間は、いつの間にかやんわり勃ち上がっていた。


「あー……。……ははっ、悪い。さすがにこれは気持ち悪かったよな。シャワーに行って冷ましてくるよ」


 気まずい空気に、俺は慌てて将貴から体を離す。

 そんな俺のシャツを、後ろから引っ張るやつがいる。

 それは勿論将貴で、俺は『デジャヴかよーさすが兄弟!』なんてアホなツッコミを心の中で入れてしまった。


「えーっと、将貴君? この手は何でしょう?」


 期待してはいけない。相手はノンケ。
 落ち着け自分。
 落ち着け、息子っ。
 そう己に言い聞かせる俺に、将貴は絞り出すような小さな声で答える。


「気持ち悪くない。だからここにいて……」
「えっ」


 うう。そんなこと言われたら、やっぱり俺は期待してしまう。

 だって、将貴は相変わらず頬が赤くて、恥ずかしそうに視線を逸らせていて。なのに、その手は俺のシャツをしっかりと掴んでいて。

 俺は理性を総動員して、笑顔を作った。


「そう言うなら、ここにいるけど。あー……なにかあった?」


 ドキン、ドキン、どきん……。
 心臓がうるさい。

 違う、きっと。俺の、勘違い……。

 そう……思おうとする。だって、だって……。





「僕も、奏一郎さんが好きです」


 聞いた瞬間、俺は理性が途切れる音を聞いた気がした。
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