【完】真面目で苦労人の長男に、アラサー男が一目惚れした話。

唯月漣

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7)君が好き。

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 これって、もしかしてさっき告っとくのが正解だったパターンか?
 そんな事を思ったところで、今更なんだけれど。

 俺が妄想している間に、話題が途切れ、沈黙に包まれる車内。
 あ、まずい……。何か、話題……話題。


「あ、そう言えば。悟が料理始めたらしいな。簡単なやつだけらしいけど。悟はしっかりしてるなぁ。こないだうちでも、家庭科で習った野菜炒めと味噌汁を作ってくれて、ご馳走になったよ。俺が作るより断然美味いのな」


 俺は咄嗟に思い出した話題を将貴に振った。


「ああ、そう言えば家でもホットケーキミックスでカップケーキ作っていました。バナナのやつ……」
「そうそう。こないだ俺もお裾分けを貰った」


 他愛ない話題がうまく繋がって、俺は少し安堵しながら答える。


「悟、夏休みの自由研究『ホットケーキミックスの仕組みと活用術』をテーマにしようかなって張り切ってたな」
「なるほど。食費も浮いて一石二鳥の自由研究か。ふふっ、しっかり者の悟らしいな」



 後部座席で眠るあどけない寝顔の悟をミラー越しにチラ見して、将貴は頬を緩めて答えた。


「こないだ僕が倒れたので、食事とか、色々心配してくれたみたいです。最近は家事も良くやってくれてて」
「あぁ、さっき見たときに前より肉がついた気がしてたんだけど、そういうことか」
「えっ? 僕、太りました?」


 将貴はお腹の当りの膨らみを撫でながら、慌ててそう俺に問う。


「ああ、いや。むしろ将貴はもうちょい太っていいんじゃないか? まだまだ食べ盛りだし」


 俺の言葉を聞くと、将貴は安堵したような表情を見せた。


「今は食べてますよ。あの時は夜のバイトの方が二人いっぺんに辞めてしまって、昼のバイトの後に夜のバイトの遅番と夜勤を立て続けにやってたら、ご飯を食べる暇がなかっただけです」
「ひぇー、ブラックなバイト!」


 俺がそう言うと、将貴が軽く苦笑いをしながら答える。


「違うんです。僕が店長を放っておけなくて、自分からシフトに入ったんです。店長には母さんが倒れたとき、本当にお世話になったから……」
「将貴、ほんと君、良い子だな…!!」


 そんな話題で和やかな空気の中、三時間の運転を終えて将貴達のアパートに着く頃には、すっかり日も暮れていた。







「おーい、着いたぞー」


 後部座席の二人に声をかけるが、均は案の定起こしても起きない。

 俺は眠った均を抱き上げて、アパートの部屋まで運んでやる。
 寝室に布団を敷いて均を寝かせ車に戻ると、悟と将貴が車から荷物を運び出してくれていた。


「奏さん、今日はありがとうございました。こんなに楽しい夏休み、初めてです。本当に楽しかった。あ、将兄、僕先に部屋に戻ってるね」


 大きなあくびをしながら、悟はペコリと俺に頭を下げてアパートに戻っていった。悟も相当疲れているのだろう。
 

「奏さん。さっきの話……」


 悟がアパートに戻り、二人っきりになると、将貴が小声で言った。


「あー。ここだと蚊に刺されるから、車で話そーか」


 話すも何も、ハグとほっぺにチューをしてもらうだけなんだけど。
 流石にいつ誰が出てくるか分からないアパートの前じゃ、せっかくのチャンスが勿体ない。







 車に移動して、ドアを閉める。シートに体を預け、俺はふーっと深く息を吐いた。


「改めておつかれさん。コーヒー飲むか?」


 そう言って、俺は将貴に眠気覚ましに買っておいたコーヒーを渡してやる。


「あ、あの……」
「んーと。これ、前から何回か言ってるんだけど、改めて言ってもいい?」
「……? ……はい」


 俺は体を捩って、将貴を正面から見据えた。


「俺、将貴が好きなんだ。仲良くなりたいし、もっと将貴を知りたい。喜ぶ顔が見たいし、将貴が困っていたらできる限り助けたい」
「えっ……」


 いつになく真剣な俺に、将貴は驚いた表情だ。


「だから、これは『俺がしたくてしていること』。つまり、恩返しなんて要らないんだ」
「あっ……」
「そもそも。将貴、嫌じゃないのか? 俺みたいな男にキスするのとかさ。俺に恩返ししなきゃって思って、いやいやキスしようとしてるんだったら……」


 話の流れを悟った将貴は、ぎゅっと拳を握りしめるような仕草をして、俺を見上げた。


「……違います。嫌じゃない。むしろ、こんなことで恩返しになるなら喜んでしたいって思った。奏さんが前から冗談みたいに俺を好きって言ってくれるの、……嬉しかった。でも、僕こそ気持ち悪いですよね。迷惑ばっかりかけて、全然僕、奏さんと対等じゃないのに…………わっ……」


 俺は、気が付いたら将貴をぎゅっと抱きしめていた。


「俺の好きな子を『なんか』とか言わないの。将貴、対等ってなに? 将貴には、俺はどう映っている?」
「えっ、と。奏さんは……大人で、いつも笑って冗談とか言ってて。でも面倒見が良くて、困ってた僕達を受け入れてくれて。イライラとかしなくて、いつも気持ちに余裕があって……」


 えー? そりゃあ確かに良い男だ。そんな男がいたら、俺だって惚れる。
 俺はそこまで考えて、つい笑ってしまった。


「あー、なるほど。はは。そりゃ過大評価だな、完全に。アラサーにもなりゃちっとは人生の場数を踏んでるから、多少のことじゃ慌てなくなるよ。俺が面倒見が良いというよりは、慣れてるだけだ」
「慣れてる?」
「そ。今住んでる家、昔ばあちゃんがそろばん教室とかやっててさ、子供の面倒ごとには慣れてるんだ。受け入れてるのは、将貴が好きだからだよ」


 そう言ってから、将貴の右頬に軽く唇を当てて掠めるようにキスをした。それから肩に腕を回して、そっと将貴を抱き寄せる。


「あっ……」


 息を呑んだ将貴との、まるで時が止まったかのような数秒間。何をされたかを将貴が理解したと同時に、俺は抱き寄せていた手を離す。


「俺と『喜んでキスしたいって思った』んだろ? じゃ。今日はお疲れさん」


 にっこり笑って冗談めかせ、将貴を車からおろして俺は帰路につく。


 ……将貴は今、どんな顔をしているだろう?


 "いつも余裕があって"……ね。


 好きな子に頬にキスしてハグしただけで、下半身のそれはじんわりと芯を主張して熱を持ってしまっている。

 初めて抱きしめた将貴の感触。潮の混ざったお日様の香りの髪。
 柔らかい、紅潮した頬。

 思い出すだけで、鼓動が早くなる。
 もしかして、両想い? 将貴って、ノンケじゃないのか?



 そんな淡い期待が暴走して、思わず本気で告っちまったけど。

 普通に俺、気持ち悪かったかな……。

 将貴は十八歳。
 人の良さにつけ込んで、前途ある若者をこっちの道に引きずりこもうとしている悪い大人の俺。そんな罪悪感もある。

 はー。一体俺のどこら辺に余裕があるって言うんだ。

 将貴の語る俺のイメージは、実際本物の俺には程遠かった。
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