上 下
22 / 38
1章 最強のウィザード様

嗚呼、私のウィザードさま 「私のウィザード様」

しおりを挟む
会社

マリアが作業を止め溜息を吐く
「… はぁ~…」

マリアが間を置いて周囲を見てから 視線を落とす

自宅

マリアが玄関を開けて言う
「ただいまー」

マリアが通路の先を見てから思う
(お母さん まだ帰ってないよね?…いつも帰って来るのは9時くらいだもん …朝は6時から 夜は9時まで 毎日 …ずっと ”お母さんのウィザード様”と 一緒に居たんだ…)

マリアの脳裏に記憶が思い出される


マキが微笑して言う
『ずっと 傍に居て 支えてあげたいんだ…』


マリアが言う
「マキも 同じ… あのお部屋で ”マキのウィザード様”と 一緒に居てあげるんだ…」

マリアが息を吐き 表情を落として自室へ向かう


マリアの部屋

マリアが部屋に入ると 部屋に進み入る マリアが荷物を置き椅子に座ると視線を向ける 視線の先に奉者講習会の資料がある マリアが手に取って見ながら言う

「”奉者様”か… そっか 毎日 朝から晩まで… きっと お母さんもマキも お掃除とか… 食事の用意だってするんだろうな… だって ウィザード様は お米の焚き方さえ 知らないんだから…」

マリアが資料を閉じ息を吐いて言う
「…私 どうして やってあげなかったんだろう…?”マリアのウィザード様”だったのに… 私 あの人の奉者だったのに… 灯魔儀式の手配だけで 他は… 何も…」

マリアが視線を向ける 手帳がある マリアが手帳を見ながら言う
「あ… いけない 明日は午前中にミレル商事との商談入れたんだった 朝は少し早く行かないと…」

マリアがふと気付いて言う
「そっか… 掛け持ちなんて 出来るものじゃなかったんだ… あんなに楽しみにしていた お迎えの前日だって 仕事が忙しくて お母さんに聞くのも忘れちゃって… …あ、違う 私、お母さんに 奉者になった事 言わなかった… 私が ウィザード様に お願いする事が お母さんを傷付けると思ったから …それに 私も 奉者として自信が無くて」

マリアが手帳を閉じて言う
「最初から駄目だったんだ… 私 奉者失格だった …ウィザード様は 物凄いウィザード様だったのに… …でも 何でだろう?私 それなら…」

マリアの脳裏に蘇る


レイが言う
『俺は”マリアのウィザード様”だからな!』


マリアが苦笑して言う
「そっか… ”私のウィザード様”だったから 私… ずっと甘えちゃってたんだ… 私が何もご奉仕しなくても あの人は ずっと ”マリアのウィザード様”だったから…」

マリアが頭を抱え 息を吐いて言う
「…でも もう 居ないんだ… ”私のウィザード様”は 私のせいで…」

マリアが俯く


会社

マリアが商談中に言う
「こちらとしましては それ以上の ご提供は出来かねると… どうか この条件で」

客が言う
「いえ 我が社としましても この商品開発には 並々ならぬ投資をしての 開発に漕ぎ着けた訳ですので そこに掛けた 費用はもちろん 人材も…」


マリアが席に戻り 資料を置きつつ息を吐いて言う
「…あの感じじゃ きっと駄目だろうなぁ やっぱり あれだけの技術を譲ってもらうのに うちの会社からの提供がこれじゃ… 釣り合わないよねぇ…?」

マリアが息を吐いて言う
「はぁ… しょうがない この取引は 潔く手を引こう これ以上お願いしても きっと無理だろうから…」

マリアが視線を向けると時計が正午を回ろうとしている マリアが気付いて言う
「あ、お昼だ 丁度良いかも?お昼を食べて 気を取り直して… 午後は午後で もう1件 商談が入ってるし…」

マリアが荷物を探りながら言う
「…やっぱり 2人が居ないと厳しいなぁ お昼だって 1人じゃ 寂しいし… …ん?」

マリアが携帯を手に取ってディスプレイを見て言う
「着信だ… 誰だろう?」

マリアが携帯を操作して驚いて言う
「あ… リナからっ!」

マリアが荷物を持って立ち去る


中央公園

マリアが周囲を見渡してから気付き 微笑して小走りに向かいながら言う
「リナー!」

水の無い噴水のふちに腰掛けているリナが マリアの声に顔を向ける マリアが微笑して言う
「ごめんね 待たせちゃった?」

リナが微笑して言う
「ううん 大丈夫よ マキも居たから」

マリアが一瞬驚いて言う
「…え?」

マリアが顔を向けると リナの横にマキが座っていて マリアを見て微笑して言う
「お疲れ様ー マリア!」

マリアが僅かに表情を困らせつつ言う
「あ、お… お疲れ様 マキ…」

リナが言う
「マキがね?お昼休憩だって言うから マリアも丁度良い時間じゃないかと思って 電話したの」

マリアが言う
「あ… うん 私も そう!丁度お昼休憩!…隣良い?」

リナが言う
「もちろん」

マリアが苦笑しつつリナの横に腰掛け 手作り弁当を取り出す リナが微笑して言う
「こうして3人で食べるの 久し振りね?」

マリアが言う
「うん 本当に …会社に2人が居なくて 凄く寂しいよ」

リナが言う
「それなら マリアは会社じゃなくて いつもここで お昼にすれば マキと一緒に食べられるじゃない?」

マリアが言う
「え?」

リナが言う
「マキは最近 お昼はいつもここで 1人で食べているんだって さっき話をしていたの」

マリアが言う
「あ… そうなんだ?」

マキが言う
「うん だって ウィザード様は 修行の為に お昼は食べないからさ?その彼の前で食べる訳に行かないし …マリアも そうしてたんじゃないの?」

マリアが言う
「あ… うん… そうだね」

リナが言う
「まさか マキまで 奉者様になるだなんて 話を聞いた時は 驚いちゃった」

マリアが言う
「リナに 話したんだ?」

マキが言う
「うん!この前 マリアが休みを取った 月曜日に!」

マリアが言う
「そうだったんだ…」

マキが言う
「うん、丁度あの日 セ… あぁ 危ないっ ”私のウィザード様”が この町に配属になるって分かってね?それで 私を 奉者に選んでくれたんだ~」

マリアが驚いて言う
「え…?ウィザード様が 奉者を選んだ?」

マキが言う
「うん そうだって 聞いたよ?奉者のリストに 私の名前があって 驚いたって!」

マリアが一瞬の後 ハッとして言う
「…奉者のリストに?…え?それじゃっ まさかっ ”私を” 選んだのはっ!?」

マリアが思う
(私は… 奉者の娘だから 奉者協会が それで選んだと思ってた…っ!でも違うのかもしれないっ …もしかして!?)

マリアが思い出す


レイが言う
『だから俺は マリアに会うまで 全然 何もやらなかったもん 素質も力も全部あったけど ウィザードにさえならなかった …マリアに会って マリアがウィザードさまに お願いするから  俺はマリアの力になれる ウィザードさまに なろうと思った』

ウィザードが言う
『君を守ったのは 14年前も 彼だ』


マリアが驚きに言葉を失ってから俯く リナが気付き疑問して言う
「マリア… どうしたの?元気ないわね?」

マリアが苦笑して言う
「…うん」

リナがマリアの弁当を見てから言う
「食欲も無いの?」

マリアが苦笑して言う
「うん… ちょっと…」

マリアが弁当を片付ける リナがマキと顔を見合わせてから リナが苦笑して言う
「もしかして ”マリアのウィザード様”と喧嘩?」

マリアが一瞬反応する リナが続けて言う
「マリアは いつも ウィザード様の事で 溜息ばかり吐いてて… ふふっ 何だか懐かしいわね?マキと一緒に マリアをからかって」

マリアが苦笑して言う
「うん…っ」

リナが言う
「マリアはマキと違って 意地っ張りだから ムキになっちゃって 可笑しかった …その点 マキはちょっと詰まらないかな?マキは自分の性格に 素直だから」

マキが笑んで言う
「えっへへ~」

マリアが沈黙する マキが言う
「あ、そうだ マリア!」

マリアがマキを見る マキが資料を出しながら言う
「私 マリアに確認しなきゃいけなかったんだ!もうすぐ 私のウィザード様が この町の管轄にある 灯魔台の灯魔儀式を開始するから」

マリアが呆気に取られて言う
「灯魔儀式を…?」

マキが資料を出して言う
「うん 今日で5日目で …でも やっぱり 無理はさせたくないから 後2日休ませて あさってから始めるつもりなんだけど …それで マリアたちで アウターサイドの村は全部終わらせてあるみたいだから 次は 何処をやるつもりだったのかなー?って 一応 聞いておこうと思って!」

マキがマリアを見る マリアが呆気に取られた状態から 視線を落として言う
「…アウターサイドが終わった後は …まだ決めてなかったんだけど …でも」

マキが言う
「でも?」

マリアが思い出す


レイが言う
『それじゃ マリアは?マリアは何か無いのか?俺にお願いとか?』

マリアが考えながら言う
『お願い?私の…?あ、それなら ウィザード様!』

レイが微笑して言う
『うん!』

マリアが微笑して言う
『中央公園の灯魔儀式を やってもらえませんか!?』

レイが呆気に取られて言う
『は?』

マリアが衝撃を受けて言う
『あ…っ』

レイが噴き出して笑う
『ぷっ …あっははははっ!』

マリアが呆気に取られる レイが言う
『やっぱ マリアは マリアだよな?こんな時くらい もう少し 違う お願いしてくれるかと 思ったのにサ?』

レイが苦笑して言う
『けど、その方が 俺たちらしいかもな?』

マリアが言う 
『え?でも…』

レイが言う
『大丈夫だって 俺にとっては マリアのお願いが優先だもん 俺は ”マリアのウィザード様” だからな?』


マリアが涙を堪え手を握り締めて言う
「次の灯魔儀式は ここをって…」

マキが言う
「ここ?あーそっかぁ なるほどぉ アウターサイドが終わったから 他をやる前に 町の中心をって言うのは重要かもしれない!流っ石 マリア大先輩ー!」

リナが軽く笑って言う
「マキは 奉者様としても 頼れる先輩を持ったわね?」

マキが言う
「はいー!」

マリアが視線を落とす リナが言う
「所で この町の管轄が マキのウィザード様になったって事は マリアは?”マリアのウィザード様”は 今は何処の町の担当になったの?マリアも休日には 相変わらず 奉者様をしに行ってるんでしょう?」

マリアが両手で顔を覆う リナが一瞬驚いてから疑問して言う
「マリア?」

マリアが言う
「居ないの… 私のウィザード様は …もう居ないのっ 私のせいでっ!」

リナが呆気に取られて言う
「…え?」

マリアが言う
「私が何も分かっていなかったせいで 私のウィザード様は ウィザードじゃなくなっちゃったっ …大切な杖を奪われてしまったの 折角仲良くなって…っ この中央公園の灯魔をしようって 約束したのに…っ マキとリナにも 灯魔儀式 見せるって… 約束してたのにね?…ごめんねっ」

リナが呆気に取られてから 表情を落として言う
「マリア…」

マキが言う
「…やっぱ それ 本当だったんだ?…話聞いた時には 信じられなかったけど …でも マリアが言ってた事 改めて考えたらさ?自分のウィザード様に 苦労しているみたいだったから それでかな~…?って…」

マリアが言葉を飲んで顔を左右に振ってから言う
「違うのっ 何もかも私のせい…っ!だから もう一度会って… 会いたいって マキが居たあの部屋に行ったの…っ でも やっぱり居なかった…っ だから もう… 私はっ  私のウィザードさまには もう 二度と会えないのっ!」

マリアが涙を流す リナとマキが言葉を失う 鳥たちが一斉に飛び立つ リナとマキや通行人が驚くと 次の瞬間 周囲に魔力が集まる リナとマキが驚いて周囲を見渡す 周囲に水の魔力が集まる マリアの涙が水の魔力に収集され マリアが呆気に取られ周囲を見てから ハッとして上を見上げると 噴水の上部に大量の水が終結している リナが言う
「な… 何…っ?」

リナがマキを見る マキが分からないと言った様子で顔を左右に振る マリアがハッとして言う
「これは… 水の灯魔儀式…っ!?」

マリアが振り返り目を見開く

リナとマキが驚くと 噴水の上部に集められた水が マリアたちとは反対側に居る 人物へ襲い掛かる リナとマキ、通行人たちが驚いて息を飲む 水が杖に防がれ その杖が振り上げると 水が弾かれて噴水の上部へ叩き込まれる

マリアが呆気に取られ 他の人たちが驚きに言葉を失っている 沈黙の一瞬の後 噴水に水が灯る 通行人たちが呆気に取られてから わっと拍手をする

マキが言う
「こ、これが… 灯魔儀式…っ!?」

マリアが言う
「ウィザード… 様…っ」

リナとマキが驚いてマリアを見る マリアが言う
「ウィザード様… 私の ウィザード様っ!」

魔法使いのローブと とんがり帽子を纏った人物が 背を向け立ち去る マリアが思わず踏み出して言う
「あ…っ」

リナが言う
「”マリアのウィザード様”なのっ?」

マキが言う
「マリアっ 早く行かないとっ!」

マリアが怯えて言う
「で、でもっ 私…っ」

リナとマキが言う
「マリアっ」 「早くっ!」

マリアが踏み出し 追い掛けながら思う
(声を掛けなきゃっ!でも 何て…!?ごめんなさいって?ありがとうって?…分からないっ!でも…っ!何か言わなきゃっ!?何かっ!!)

マリアが言葉を掛けようとした瞬間 魔法使いの持つ杖が砕け散る マリアが驚く 魔法使いが立ち止まり杖を持っていた手を押さえて言う
「っ痛…」

マリアが魔法使いの手を見ると 杖の破片が手に刺さっている マリアが驚き慌てて言う
「だ、大丈夫ですかっ!?ウィザード様っ!?」

マリアが駆け寄って 手に触れようとすると レイが慌てて言う
「あっ 触るな!マリアっ」

マリアとレイが同時にハッとして顔を見合わせ 互いに驚いて見詰め合う マリアがレイの変化にハッとする レイがマリアの反応に気付き顔を逸らしてから言い辛そうに言う
「その… 杖の破片って 結構 鋭くて… 危ないから」

マリアがハッとして言う
「あっ で、でも…っ」

レイが手から破片を取って言う
「活性魔法を掛けておけば すぐ治るし…」

レイが魔法を掛けていると マリアがハンカチを取り出し レイの手に巻くレイが呆気に取られる マリアが手を見つめたまま微笑して言う
「…有難う御座います」

レイが言う
「え?」

マリアがレイを見て言う
「ここの灯魔儀式 やって下さいって… 私がお願いしたのを…」

レイが言う
「ああ…」

マリアが表情を悲しめて言う
「それから ウィザード様…っ」

マリアがレイの顔を見つめて表情を落とす レイが視線を逸らして言う
「…もう ウィザードじゃ ないけど」

マリアが驚く レイが言う
「ここの灯魔儀式をやろうって言ったのは… それは 俺が ”マリアのウィザード様”の時に 約束した事だったから… けじめとして終わらせただけで… だから礼はいらない」

マリアが困って言う
「でも…っ」

レイが微笑して言う
「マリアが あの”ウィザードさま” の奉者になれて …良かった」

レイが歩き出す マリアがハッとして思う
(ち、違うっ それは…っ それに 私は そんなつもりじゃなくてっ!)

マリアが遠退いて行くレイを見て 一歩踏み出して思う
(だ、駄目っ!…今、行かせてしまってはっ 今度こそ 二度と会えなくなってしまうっ!だからっ!!)

マリアが言う
「ま… 待ってっ 待って下さいっ!ウィザード様っ!!」

レイが立ち止まる マリアが言葉を捜してから言う
「あ、あの…っ …それじゃ!一緒に…っ 一緒に!お茶を飲みましょうっ!?私も約束しましたっ!あの灯魔儀式が終わったら 一緒にお茶を飲もうってっ!」

マリアがレイを見て言う
「ですから…っ」

レイが沈黙してから言う
「…そうだな 分かった」

マリアがホッと微笑する


喫茶店

マリアとレイが店に入り席へ向かう マリアが苦笑して言う
「2人で お店に入るって 初めてですね?」

レイが言う
「あの姿じゃ目立つし 話も出来なかったからな」

マリアが言う
「…はい」

マリアが席に座る レイが帽子を取って席に座る マリアが一瞬驚いてから微笑して言う
「髪… 切ったんですね…」

レイが一瞬反応してから言う
「ああ… 3日もしたら色も戻ったし 魔鉱石の効力が無くなれば 髪から魔力を吸収する事も なくなるから…」

マリアが一瞬驚いてから 視線を落として言い掛ける
「あ… ご ごめ…」

レイが言う
「って言っても 髪から取り入れる分なんて 本当に微量で 俺にとってはどうでも良い事だったけど 長い方が ウィザードらしいだろうって?…それだけだよ」

マリアが言う
「ウィザードらしい… そう… ですね」

レイが言う
「うん」

マリアが思う
(それじゃ… やっぱり それも… 私の為… だったのかな…?私が…)

マリアが言い掛ける
「私が…」

店員が来て言う
「ご注文は お決まりでしょうか?」

マリアがハッとして店員を見る レイがメニューを軽く見て言う
「セイロンティー」

店員が言う
「はい」

マリアが慌てて言う
「あっ 同じのでっ」

店員が言う
「はい 畏まりました」

店員が去る マリアが思う
(あ… でも 今更 私の為だなんて… そんな事…っ …あ、それよりっ!)

マリアがレイを見て言う
「あ、あの… 私 ウィザ… あ、貴方に 何と お詫びをしたら 良いのか…」

レイが言う
「俺に お詫びって?」

マリアが言う
「はい 私… 私が あの時 考えていたのは あのウィザードさまに… ”お母さんのウィザード様”に 認定票を入れないと 不認定の評価を受けて もう 会えなくなってしまうって…」

レイが言う
「うん」

マリアが言う
「それで 私は… 私のウィザード様に 他の人の不認定票が入る事は 無いと思って 安心していたんです… だから 自分の認定票で ”お母さんのウィザード様”を助けよう…って」

レイが言う
「そっか…」

マリアが言う
「ですから 私は…っ」

店員が来て言う
「失礼します」

マリアが言葉を止め視線を泳がせる 店員がテーブルにティーセットを2つ置いて言う
「ごゆっくり どうぞ」

店員が立ち去る レイが2つのティーポットに お湯を入れながら言う
「マリアが認定票を あのウィザードに入れなかったら あいつは杖を失ってた …そうなれば 大灯魔台の灯魔儀式には もう出ないから そこで会う事は 無かっただろうな?」

マリアが言う
「それに 私…」

レイがティーポットに魔法を掛ける マリアがそれを見詰めながら言う
「あのウィザードさまに… お礼をしたかったから…」

レイがカップに紅茶を入れつつ言う
「お礼?」

マリアが言う
「あっ でも それは違ってっ …それより私っ あの時 認定票を入れなかったら それが ウィザード様への不認定票になってしまうなんて事っ 知らなくて… 考え付かなくて…っ!だからっ 本当は… 貴方から ウィザードの称号を奪うつもりなんて 無かったですっ!」

レイが反応し マリアへ譲ろうとしていた紅茶を持つ手を止めて言う
「ああ… そっか ごめん」

マリアが疑問して言う
「え…?」

レイが紅茶を持つ手を引いて言う
「勝手に作っちゃって… もう 俺は ”マリアのウィザード様”じゃないんだから こんな事されたら 迷惑だよな?」

マリアが呆気に取られて言う
「あ、いえっ そんな…っ!?」

レイが自分の側にあった ティーセットに片手を置いて言う
「こっちなら 使ってないから…」

マリアが慌てて レイの引こうとした紅茶を押さえて言う
「こ、こちらを 頂きますっ!」

レイが呆気に取られてから苦笑して言う
「そっか…?悪いな?」

マリアが言う
「え?」

レイが自分の分を作りながら言う
「だって 魔力の掛かったお茶は 自分の仕える ウィザードのしか貰わないのが道理だろ?”マリアのウィザード様”は あいつになったんだから」

マリアが言う
「そ、それは…」

レイが言う
「あの時は 驚いたけど 普通は既に奉者を従えているウィザードの 2人目の奉者になんか なれないから …最初から そのつもりだったんだろ?俺は考え付かなかったよ… マリアはやっぱ 頭が良いな?」

マリアが言う
「そ、そうじゃなくて…」

レイが紅茶を飲む マリアが困って思う
(どうしよう…っ!?上手く説明出来ない…っ だって 謝る事が多過ぎて…っ 何処から言ったら良いのか… 私は…っ)

マリアが紅茶を見て言う
「…頂きます」

レイが微笑して言う
「うん どうぞ」

マリアがレイの微笑を見て一瞬驚いてから紅茶を飲んで思う
(あ… いつもの紅茶だ… ウィザード様が入れてくれる紅茶は いつも美味しくて… それに)

レイが微笑してマリアを見詰めている マリアが思う
(ウィザード様は いつも嬉しそうにしてくれるから 私も 何となく 嬉しくなっちゃって…)

マリアが苦笑して言う
「ごめんなさい 私… ずっと… 14年間 勘違いをしていて…」

レイが言う
「え?勘違い?」

マリアが言う
「はい… それに… そのほかにも 一杯… 私… 貴方に数え切れないほど 謝る事があって… 正直 何からお詫びしたら良いのか 分からないんです」

レイが言う
「マリアが 俺に謝る事なんて 1つも無いよ?」

マリアが驚いてからレイを見上げる レイが微笑して言う
「俺が勝手に ”マリアのウィザード様”になりたいって思って やった事だから マリアが謝る事なんて 何も無いだろ?」

マリアが言う
「で、でも… 私のせいで ウィザードじゃなくなっちゃって…っ」

レイが言う
「別に良いよ ”マリアのウィザードさま”じゃ 無いんだったら 俺は ウィザードだろうと 魔法使いだろうと 何でも良いんだ …俺が やりたかった事は 14年前から マリアの力になる事だったから」

マリアがハッとして言う
「…そのっ!14年前っ 大灯魔台の暴走した魔力を収めてくれたのはっ 私のお願いを聞いてくれたのは ”お母さんのウィザード様”じゃなかったって…!?」

レイが言う
「ああ あれは 俺がやったよ?」

マリアが言う
「な、何でっ 言ってくれなかったんですかっ!?それなら 私っ!」

レイが言う
「俺はあの時 ウィザードじゃなかったから 杖も無くて あのウィザードの杖を借りて 魔力を収める事は出来たけど… その後 魔力反動受けて 3日間昏睡状態だったんだ …おまけに 自分が吹き飛ばした 瓦礫の破片で怪我してさ?カッコ悪いだろ?」

レイが軽く左前髪を上げて見せる 額に傷跡がある マリアが一瞬驚いた後ハッとして思い出して言う
「あ…っ」

マリアが思い出して思う
(あの時 私の後ろに居たっ あの 男の子っ!?)

レイが苦笑して言う
「ウィザードになれば 杖もあるし デカイ魔法を2つくらい使っても 倒れたりしないし… それに あの時 マリアは何度も ”ウィザードさま”に お願いしてたからさ?それなら 名実共に 俺が ”マリアのウィザードさま”に なってやろうって思ったんだ …けど」

マリアがレイを見る レイが苦笑して言う
「マリアにとっての ”ウィザードさま”は 14年前からあいつで 俺がウィザードになっても 意味が無かったんだな?」

マリアが表情を落として言う
「そ、そんな事っ それに 私の為に…っ」

レイが言う
「最初から全部 俺が勝手にやった事だ でも、短い間だったけど マリアと一緒に灯魔儀式をやったり 話をしたり… 楽しかったよ 本当に… それに、その間は 俺も ”マリアのウィザード様”を やれたもんな?だから 俺は ウィザードになって良かったよ」

マリアがレイを見る レイが微笑して言う
「…それじゃ」

レイが立ち上がる マリアが言う
「え…?」

レイが伝票の上に金を置いて言う
「どっちの仕事をしてるにしても もう 昼休憩は 終わりだろう?俺のせいで マリアが怒られたら 嫌だからな?後、一緒に お茶を飲んでくれて ありがとな?マリア」

レイが帽子を取って立ち去る マリアが慌てて立ち上がり ハッとして伝票と金を持って向かう


喫茶店 外

レイが道を歩いている マリアが喫茶店から出て走って来て言う
「ま、待って下さいっ!ウィザード様っ!…ウィザード様っ!」

レイが疑問して立ち止まり 振り返って言う
「ん?俺を呼んだか?マリア」

マリアが言う
「そうですよっ」

レイが言う
「そっか… まぁ いっか…?で 何だ?もう…」

マリアが言う
「勝手に 話を終わらせないで下さいっ 私 何も お詫び出来ていないのにっ!」

レイが言う
「え…?だから マリアが謝る事なんて 何も無いって」

マリアが言う
「そうじゃ無くてっ」

レイが言う
「”そうじゃ無くて”?」

マリアが言う
「そ、その… わ、私 確かに 14年間勘違いしてましたけどっ でも やっぱり…」

レイが言う
「”やっぱり”?」

マリアの脳裏に 走馬灯の様にレイとの思い出が蘇り マリアが言う
「”私のウィザード様”は ウィザード様だけですっ!」

レイが一瞬驚いた後疑問して言う
「…え?…あ、えーっと?」

マリアが言う
「だ、だから 私は… ”お母さんのウィザード様”の 奉者にはなりませんし… それに…っ!」

レイが呆気に取られて言う
「え…?そうなのか…?それじゃ…?」

マリアが言う
「私が ウィザード様って呼ぶのは 貴方しか居ないですっ!ですから…っ こ、これからも… 私の… ”ウィザード様”で 居て下さい…っ」

レイが驚く マリアが表情を落として言う
「駄目… ですか?」

マリアが視線を落として思う
(…そうよね?こんな勝手な事を言って …今更 何を言ってるんだ って… 怒るよね…?)

レイが言う
「駄目な訳無いだろ マリア!マリアがそう言うのなら 俺はそうするに決まってる!」

マリアが驚いて顔を上げて言う
「えっ?」

レイが言う
「でも 良いのか?マリア?俺 ウィザードじゃないぞ?」

マリアが一瞬呆気に取られた後 微笑して言う
「…良いですよ 私なんて… 奉者失格ですから」

レイが言う
「え?そうなのか?」

マリアが言う
「だって 私、奉者の仕事 何も出来ていなくて… ウィザード様に 全然 ご奉仕しなくて…っ」

レイが言う
「そんなの 気にする事無いだろ?」

マリアが言う
「え?」

レイが言う
「マリアはマリアで良いんだよ 俺は ”マリアのウィザード様” だったんだから マリアの力になる事だけを考えてたよ だから マリアのお願いを聞くのが 俺は嬉しかったんだ」

マリアが驚く レイが言う
「だから これからも 俺は ”マリアのウィザード様”なら 何でもやってやぞ マリア!だって…」

マリアが疑問して言う
「だって…?」

レイが笑んで言う
「俺は 魔法使いでも 実力は ウィザード以上 だからな!」

マリアが驚いて言う
「えっ!?」

レイが言う
「言っただろ?マリアのウィザードは最強だって 魔法使いになったって そこらのウィザードになんか 負けないよ!…ただ 杖は負けるんだ だから マリアが どうしてもって言うならさ?」

マリアが言う
「”どうしてもって言うなら”?」

レイが言う
「そこら辺の弱いウィザードを ぶっ倒して そいつの杖を―!」

マリアが衝撃を受け慌てて言う
「だ、駄目ですよっ!!」

レイが言う
「何で?」

マリアが言う
「な、何でって…っ 駄目なものは駄目ですっ!」

レイが言う
「ん?そうなのか…?じゃ しょうがないから …また 魔法使い用の杖でも買うかなぁ」

マリアが呆れて言う
「そうして下さい…」

レイが言う
「所で マリア?」

マリアが言う
「何ですか?」

レイが言う
「本当に 昼休憩の時間は 大丈夫なのか?」

マリアがハッとして時計を見て衝撃を受けて言う
「きゃぁあっ!大変っ 商談の時間がっ!ここからじゃ 会社まで間に合わないっ!」

レイが言う
「それなら 任せとけっ!マリア!」

レイが植え込みに落ちている 木の枝を取って マリアを軽く抱く マリアが呆気に取られて言う
「え!?枝でっ!?」

レイとマリアが浮き上がり 風に消える


会社前

レイとマリアが現れる マリアが呆気に取られた後周囲を見渡す レイが言う
「ほら 到着!」

マリアが呆気に取られた後微笑して言う
「あ、有難う御座います!ウィザード様っ!」

レイが喜んで言う
「礼には及ばないよ!それじゃ お仕事 頑張ってな!マリア!」

マリアが喜んで言う
「はい!いってきます!ウィザード様!」

マリアが会社の入り口へ走り 自動ドアを抜けてからふと振り返る 振り返った先レイは居なくなっている マリアが一瞬言葉を失った後微笑して思う

(きっと 大丈夫…っ だって あの人は 何があっても ”私のウィザード様” なんだから!…うん!)

マリアが頷きエレベータへ向かう


続く
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

記憶の先に復讐を

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:30

ツンデレ深瀬クンは愛される。

BL / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:8

現代文学 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

貴方の初恋は死んだのです。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:9

幾星霜の呪いの子 ~下町駆け込み寺の怪異譚~

ミステリー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:5

VRMMOでスナイパーやってます

SF / 連載中 24h.ポイント:406pt お気に入り:183

零れ落ちる

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:3

堤防にて

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

後宮にて、あなたを想う

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:127pt お気に入り:128

掴みかけた未来

青春 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

処理中です...