竜王と契約の花嫁

えりー

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来客

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竜王の統治する異世界に来てからどれくらい過ぎたかもう数えるのもやめた。
多分竜王は自分を元の世界へは帰すつもりはないはずだ。
(もう帰れない・・・)
(お母さんとお父さんは心配していないかな)
せめて手紙でも渡せれば、スマホも持ってきていない。
持ってきていたところできっと通じないだろう。
召使の人が部屋の前にいる事に気が付いた。
慌てて美乃梨は戸を開き、召使の1人に訊ねた。
「竜王は?」
「今はお会いできません。来客中ですので・・・」
「でも、今会いたいの」
召使は困った顔で言った。
「来客は男性です。花嫁の印を持っている美乃梨様ならお分かりになりますよね?」
(そうだ・・・この印は、異性を惹きつける効力を持つものだった)
思わず鱗の痣を押さえた。
「後程、この部屋でお会いできるように手配いたしますので今はお待ちください」
両親の事が急に心配になったので来客中でも会いたくなった。
「お願いします・・・」
必死な様子の美乃梨を見て余程急用だと察してくれた。
ふぅ・・・っと召使が溜息をつき客間へ案内してくれた。
「いいですか?粗相の無いようお願いします」
「はい」
「あと、身の危険を感じたらすぐに退出してください」
召使は美乃梨の身を案じてくれた。
「ありがとうございます」
大きな扉の前に連れて来られた美乃梨は息をのんだ。
「こんな部屋もあったんだ・・・」
美乃梨は客間には来たことは無かった。
「竜王様、美乃梨様が御用があるそうです」
「・・・入室を許可する」
いつもより低い声音でそう言われ少し入るのに勇気がいった。
ギィっと重たい扉を開けるとそこには1人の男性がいた。
目を見開き驚いていた。
「美乃梨こっちへ来い」
「は、はい」
いつもと雰囲気の違う竜王は威厳があり空気もピリっとしている。
「はー・・・最近の神々は人間を娶るのが流行っているのですか?」
「山神も海神も軍神も皆人間の娘を娶っているみたいですよ」
(そうなんだ・・・)
「は、初めまして。美乃梨といいます」
美乃梨は男に向かい挨拶をした。
「美乃梨、ここへ座れ」
(え!?)
「でも・・・そこはー・・・」
「早くしろ」
美乃梨は遠慮がちに竜王の膝の上に座った。
「御寵愛なさっているんですね」
「愛しい花嫁をずっと立たせておくほど気の利かない男ではない」
(恥ずかしい!!ってかまだ結婚してない!)
あのまま立ったままだといけない気がして美乃梨は膝に座ったが落ち着かない。
「それで用件は何だ?」
「私は正龍国の使者でございます」
「ああ、確か日照りが続いていたな・・・」
「はい、あのままだと作物に影響が出てしまいます」
「それで俺の力を借りたいと?」
「はい。お手数ですが正龍国までお越し願えませんか?」
何故か竜王はチラリと美乃梨を見た。
「美乃梨、どう思う?」
「行くべきだと思います」
「よかろう花嫁に免じて今回は特別にそちらの世界まで行ってやる」
(私に発言権と決定権を与えないで~!!)
使者は喜んでお礼を言った。
「美乃梨様ご慈悲をありがとうございます」
美乃梨の方を見つめ男は平伏した・・・。
「あ、いえ・・・顔を上げてください・・・」
2人のやり取りを見ていた竜王は少し不機嫌になっていた。
「話は済んだ。もう良いであろう」
「はい。自分の責務を果たせましたので戻ります」
「さっさと行け」
「失礼いたしました」
そう言い男は去って行った。
「美乃梨、こんなところまで俺を追ってくるなんて余程の用事なのだろう?」
美乃梨はそう問われて思い出した。
「私の両親が心配しているんじゃないかと思って・・・」
「何だそんな事か」
美乃梨はムッとした。
竜王にはそんな事でも美乃梨にとってはとても大切な事だった。
「元いた世界でのお前の存在は無かったことにしてきた」
「え?」
「だから誰も美乃梨の存在を覚えている者は1人もいない」
(なんてことをしてくれたんだ・・・)
「そんな事されたら私の居場所がなくなるじゃない」
「お前の居場所は俺の傍だけで良い」
気が付くとパチンっと竜王の頬を殴っていた。
「ひどい・・・」
竜王は泣き出した美乃梨をどう慰めていいのかわからず途方に暮れた。
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