狗飼君と私

えりー

文字の大きさ
5 / 9

執着する理由

しおりを挟む
一限目が終わると右頬を赤くした狗飼が保健室から帰って来た。
「・・・お帰り、何で怪我しているの?」
(保健室は本来治療する場で怪我をしに行く場所ではなかったはず)
「まぁ、いいんだ。これは、いつものことだから」
「あ、ちょっと待って」
有希はハンカチをポケットから出して狗飼に渡した。
「?」
「口の端が切れてるから」
そう言い、口の端をハンカチで押さえてやった。
「やっぱり、有希は優しいな」
「何か言った?」
「有希は優しいな~って」
狗飼は嬉しそうにそう言った。
一瞬その笑顔にドキンっと胸が高鳴った。
(な、なんで今ときめいちゃったの!?)
「さすが幼馴染だね。あつあつで皆遠巻きに見てるよ」
そう声をかけてきたのは美香だった。
美香はなかなか入りにくい雰囲気の中に遠慮がちに入って来た。
「狗飼、頑張って口説けよ」
「渡辺はなかなか落とせないぞ」
など様々な言葉が教室中に飛び交っていた。
(・・・)
有希はこういういうのが苦手なのだ。
どう反応していいかわからない。
とりあえず今わかっているのは自分の顔が真っ赤になっていることだけだ。
そんな有希を見て美香が声をかけてくれた。
「ごめんね、なかなかいい雰囲気だったからなかなか入り込めなかったの」
いい雰囲気を作ったわけではなかったのだが周囲から見たらそのように見えたらしい。

学校も終わり家へ帰るとき有希は言ってみた。
「ねぇ、もう学校がどういう所かわかったんなら学校に来なくてもいいんじゃない?」
「え?だって、ずっと有希と一緒ににいたいもん」
(もんって・・・そんなに可愛く言われても)
有希は照れた。昨日までは不気味な存在だったのに慣れとは恐ろしいものだ・・・。
「どうして私と・・・」
「それは自分で思い出してほしい」
どうして私とそんなに一緒にいたいのかと聞こうと思ったが途中で遮られてしまった。
ぎゅうっと後ろから抱きしめられた。
「早く思い出してー・・・」
抱きしめられたまま有希は狗飼に言った。
「・・・じゃあ、ヒントを頂戴」
「うーん。ヒントねぇ・・・ルール違反にはならないか」
(ルール?)
「うん。いいよ。じゃぁ、ヒントをあげる。山、子犬、功様」
「え?それがヒントなの?」
「ああ、この三つしか言えないかな~・・・」
「これ以上言うとルール違反になるから」
さっきからルール違反という言葉が出てきている。
「ルールって何?何の話?」
「それは内緒。功様との約束で言ってはいけないことになっているから」
しまったという顔をして狗飼は有希から目を逸らした。
その横顔はどこか悲しそうにも見えたが彼は笑っていた。

その晩有希は夢を見た。
どうやら、昔の記憶のようだった。
子どもの頃の自分が子犬を抱えて山を彷徨っている。
犬の色は黒い色で薄汚い。
(ああ、そうだった。昔、犬を拾って家に連れて帰って飼いたいって言ったら)
「だめ、捨てて来なさい!」といわれて有希は子犬を捨てきれず、暗闇の中山に入って出れなくなったのだった。
その時、紫色の髪の毛の男の人が現れて、自分が飼うからお前は山を降りろと言ってくれたんだった。驚いた私は慌てて山を駆け下りて、両親からこっぴどく叱られた。
それから暗闇が怖くなった。
(どうして忘れていたのだろう)
そうか、あの時の子犬が狗飼だったのだ。
朝目覚めた有希はベッドの中にまた彼が潜り込んでいるのを見つけた。
「・・・」
(私、思い出したわ)
「ねぇ、起きてる?私、貴方たちのこと思い出したの」
「本当か!?」
(やっぱり起きていたのね)
「どうして、狗飼が私に執着しているのかもなんとなく分かったような気がする」
自分が狗飼と同じ立場だったら同じことをしたかもしれない。
狗飼の顔が近づいてきてキスされると思った予感は見事に的中した。
狗飼は有希にキスをした。
それほど嬉しかったのだろう。
犬に舐められるのと同じレベルのつもりなのかもしれないが、じゃれすぎだ。
ただのキスじゃなかった。狗飼の舌が有希の口に入って来た。
少しじゃれつくように有希の舌を捕らえては離し、それをしばらく繰り返した。
何故か有希は抵抗できずにされるがままになっていた。
最後は啄むようなキスをされた。
・・・きっと・・・狗飼が私に執着しているのは恩と恋慕からだ。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いや、無理。 (完結)

詩海猫(8/29書籍発売)
恋愛
細かいことは気にせずお読みください。 もはや定番となった卒業パーティー、急に冷たくなって公の場にエスコートすらしなくなった婚約者に身に覚えのない言い掛かりをつけられ、婚約破棄を突きつけられるーーからの新しい婚約者の紹介へ移るという、公式行事の私物化も甚だしい一連の行動に、私は冷めた瞳をむけていたーー目の前の男は言い訳が終わると、 「わかってくれるだろう?ミーナ」 と手を差し伸べた。 だから私はこう答えた。 「いや、無理」 と。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

妹の身代わりだった私に「本命は君だ」――王宮前で王子に抱き潰され、溺愛がバレました。~私が虐げられるきっかけになった少年が、私と王子を結び付

唯崎りいち
恋愛
妹の身代わりとして王子とデートすることになった私。でも王子の本命は最初から私で――。長年虐げられ、地味でみすぼらしい私が、王子の愛と溺愛に包まれ、ついに幸せを掴む甘々ラブファンタジー。妹や家族との誤解、影武者の存在も絡み、ハラハラと胸キュンが止まらない物語。

お久しぶりです旦那様。そろそろ離婚ですか?

奏千歌
恋愛
[イヌネコ] 「奥様、旦那様がお見えです」 「はい?」 ベッドの上でゴロゴロしながら猫と戯れていると、侍女が部屋を訪れて告げたことだった。

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

二十年以上無視してきた夫が、今さら文通を申し込んできました

小豆缶
恋愛
「お願いです。文通から始めてもらえませんか?」 二十年以上会話もなかった夫――この国の王が、ある日突然そう言ってきた。 第一王妃マリアは、公爵家出身の正妃。だが夫はかつて、寵愛する第三王妃の話のみを信じ、彼女を殴ったことがある。その事件が原因で、マリアは男性恐怖症が悪化して、夫と二人きりでは会話すらできなくなっていた。 それから二十年。 第三王妃はとある事故で亡くなり、夫は反省したらしい。だからといって――今さら夫婦関係をやり直したいと言われても遅すぎる。 なのに王は諦めない。毎日の手紙。花を一輪。夜食の差し入れ。 不器用すぎる求愛に振り回されるうち、マリアの中で止まっていた感情が少しずつ動き始める。 これは、冷えきった政略夫婦が「文通」からやり直す恋の話。 ※本作は「存在されていないことにされていた管理ギフトの少女王宮で真の家族に出会う」のスピンオフですが、単体で読めます。

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

【完結】逃がすわけがないよね?

春風由実
恋愛
寝室の窓から逃げようとして捕まったシャーロット。 それは二人の結婚式の夜のことだった。 何故新妻であるシャーロットは窓から逃げようとしたのか。 理由を聞いたルーカスは決断する。 「もうあの家、いらないよね?」 ※完結まで作成済み。短いです。 ※ちょこっとホラー?いいえ恋愛話です。 ※カクヨムにも掲載。

処理中です...