3 / 4
図書館から異世界へ第2部 その3
しおりを挟む
愁宋は綾香を気に入っている。ああやって心配してくれるところや気が強くて優しいところもすべて愛おしいと思っている。
このまま元の世界に帰らずに自分の元に残ると言ってほしい。
だが、それはそんなに容易でないことくらい愁宋にも分かっている。昔のがそうだったように。両親や、友人と引き離されることは身を切られるようにつらいことだ。
それを彼女に強要してはいけないと頭ではわかっている。
しかし、彼女が欲しいと強く願う自分がいる。
一体どうしたら彼女の心は自分のものになるのだろう。
最近考えるのはそのことばかりだった。
「はぁ、本当にうまくいかないことばかりだな」
(今はとりあえず南地区のことに集中しよう)
愁宋は手に杖を持った。柄長い杖で、中心となる棒に取っ手とその上部に3段に分けて、小さな鈴を15つけている。
そして柄には緑、黄、赤、白、紫の細い布がついている。
綾香の国で言うと、巫女舞の時に使うものに近い。
綾香は加賀と沙希に連れられ高台へと上がっていた。遠目に愁宋がみえる。
「沙希ちゃん、愁宋は・・・大丈夫かな?」
「はい、きっと大丈夫ですよ!」
「・・・」
加賀は黙ったままだった。
「加賀さん?どうしたんですか?」
「あっ、いや、なんでもありません」
(?)
「ほらそれより始まりますよ」
愁宋のほうを指さしてそう言った。
そう言われ綾香は愁宋の無事を祈りながら、彼を見た。
愁宋は宙に浮いていた。あの光の道の時のようにふわりと浮かんで杖を振っている。
まるで巫女舞でも舞うかのように。
シャランシャランと鈴を鳴らし、華麗に舞い続ける。
すると空が曇りはじめ、辺りは暗くなり冷たく湿った風が吹きだした。
(なんて綺麗なのかしら)
暗くなり始めても愁宋の周りは淡い光で包まれているように見える。
愁宋の舞は20分くらい続いた。
愁宋はひび割れた大泉の土に杖を突きさした。
すると空から雨が降ってきた。
雨だけではなく風も強い。まるで台風の中にいるようになった。
愁宋は杖を突き立てたまま動かなくなった。
(愁宋?)
「沙希ちゃん、私、愁宋のところに行ってくる」
沙希の返事も聞かず心配のあまり駆け出していた。
後ろから沙希の声が少し聞こえたが、そんなことを気にしている余裕もなかった。
(愁宋の様子がおかしい。あれから全然ピクリとも動かない)
慌てて高台を駆け下りたせいで足が痛んだ。それでも綾香は愁宋の元へ頑張って走った。
「愁宋!!」
「・・・」
「どうしたの?」
そう問いかけながら彼の肩に触れた。その瞬間愁宋の体は地面に崩れ落ちた。
愁宋の体はまるで氷のように冷たくなっていた。
(気を失っている!)
「加賀さん!沙希ちゃん!助けて!愁宋が・・・!」
そう言うと綾香を追ってきていた加賀が愁宋の体を担ぎ上げた。
「やっぱりこうなったか・・・」
彼はひとり呟いて愁宋を安全な幕屋に連れて行った。
綾香は加賀の独り言が妙に気になった。
(どうしようこのまま目を覚まさないなんてことないわよね?)
このまま元の世界に帰らずに自分の元に残ると言ってほしい。
だが、それはそんなに容易でないことくらい愁宋にも分かっている。昔のがそうだったように。両親や、友人と引き離されることは身を切られるようにつらいことだ。
それを彼女に強要してはいけないと頭ではわかっている。
しかし、彼女が欲しいと強く願う自分がいる。
一体どうしたら彼女の心は自分のものになるのだろう。
最近考えるのはそのことばかりだった。
「はぁ、本当にうまくいかないことばかりだな」
(今はとりあえず南地区のことに集中しよう)
愁宋は手に杖を持った。柄長い杖で、中心となる棒に取っ手とその上部に3段に分けて、小さな鈴を15つけている。
そして柄には緑、黄、赤、白、紫の細い布がついている。
綾香の国で言うと、巫女舞の時に使うものに近い。
綾香は加賀と沙希に連れられ高台へと上がっていた。遠目に愁宋がみえる。
「沙希ちゃん、愁宋は・・・大丈夫かな?」
「はい、きっと大丈夫ですよ!」
「・・・」
加賀は黙ったままだった。
「加賀さん?どうしたんですか?」
「あっ、いや、なんでもありません」
(?)
「ほらそれより始まりますよ」
愁宋のほうを指さしてそう言った。
そう言われ綾香は愁宋の無事を祈りながら、彼を見た。
愁宋は宙に浮いていた。あの光の道の時のようにふわりと浮かんで杖を振っている。
まるで巫女舞でも舞うかのように。
シャランシャランと鈴を鳴らし、華麗に舞い続ける。
すると空が曇りはじめ、辺りは暗くなり冷たく湿った風が吹きだした。
(なんて綺麗なのかしら)
暗くなり始めても愁宋の周りは淡い光で包まれているように見える。
愁宋の舞は20分くらい続いた。
愁宋はひび割れた大泉の土に杖を突きさした。
すると空から雨が降ってきた。
雨だけではなく風も強い。まるで台風の中にいるようになった。
愁宋は杖を突き立てたまま動かなくなった。
(愁宋?)
「沙希ちゃん、私、愁宋のところに行ってくる」
沙希の返事も聞かず心配のあまり駆け出していた。
後ろから沙希の声が少し聞こえたが、そんなことを気にしている余裕もなかった。
(愁宋の様子がおかしい。あれから全然ピクリとも動かない)
慌てて高台を駆け下りたせいで足が痛んだ。それでも綾香は愁宋の元へ頑張って走った。
「愁宋!!」
「・・・」
「どうしたの?」
そう問いかけながら彼の肩に触れた。その瞬間愁宋の体は地面に崩れ落ちた。
愁宋の体はまるで氷のように冷たくなっていた。
(気を失っている!)
「加賀さん!沙希ちゃん!助けて!愁宋が・・・!」
そう言うと綾香を追ってきていた加賀が愁宋の体を担ぎ上げた。
「やっぱりこうなったか・・・」
彼はひとり呟いて愁宋を安全な幕屋に連れて行った。
綾香は加賀の独り言が妙に気になった。
(どうしようこのまま目を覚まさないなんてことないわよね?)
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜
侑子
恋愛
小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。
父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。
まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。
クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。
その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……?
※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる