大江戸町火消し。マトイ娘は江戸の花

ねこ沢ふたよ

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足場の上で

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 足場の上でお七と祐は一緒に、加代の用意してくれた握り飯を頬張る。
 
 今日は建設中の作業現場で祐と居合わせた。
 鳶のお七と大工の祐。並んで足場の上に座って握り飯を食べながら休憩している。

「そうよね。祐は大工だもの。同じ現場の時もあるわよね」
「なかなか一緒になるタイミングはないけれどもな」

 快晴の空の下。
 力仕事をした後の塩むすびは美味い。
 竹水筒に入れた水と一緒に流し込めば、ほのかに香る竹の匂いと共に、塩を利かせた米が胃に落ちていく。

「明日の上棟式には来ないんだろう?」
「うん。だって女は上棟式に出られないしきたりだから」

 と組の皆は、そんなの気にしないでくれているが、完成した建物の主である施主が気にするなら無理強いなんてできない。
 女人禁制の山、相撲の土俵……理由はよく分からないが女が入ってはいけない場所がある。
 そんなの迷信だとお七は思うのだが、こればかりはどうしようもない。
 もし何か凶事があった時に、あの時に女が入ったからだと責任を押し付けられたら面倒だ。
 お七と言えどもさすがにそこは、強行突破できない。

 まあ、その内に気にしないような施主が現れるのを待つばかり。
 考えても仕方ない。
 お七は、もやもやする気分と一緒に、残りの握り飯を胃に流し込む。

「それよりもさ、これ」
「お、何だよ。宗悟の地図じゃないかよ」

 お七は地図を取り出して広げる。

「うん。宗悟に写しを作ってもらったの」
「へえ」

 祐が地図をのぞき込む。

「ねえ、これ見て思ったんだけれども……どうして、ここに火をつけたんだと思う?」

 お七が指したのは、火元と言われている場所。
 この足場からも実際の場所が景色の中に見ることが出来る。

「さあ……人通りが少ないからとか?」

 祐が地図の場所を見渡しながら返答する。
 お七も目を凝らしてみるが、明らかにそこは人通りが少ない。
 どうしてだろう?
 ここからではその理由は分からない。

「後さ。ここが、火元でしょ? で、この範囲が火の回った範囲。ここが大通りと川で分断されているから、その先に延焼しなかったのは分かるんだけれども、こっちは? こっちはどうして延焼しなかったの?」

 火の回った範囲の中心に火元がないのは明らかだ。
 お七は首をひねる。
 祐も分からない。

「風の向きだよ」

 後ろから声を掛けられて振り返れば、辰吉がいる。

「わ、辰吉! 突然話しかけないでよ」
「本当だ。勝手に登ってくんな!」
「なんだよ。テメェらが休み時間にウンウンと唸っているから、助け船に来てやったんだろう?」

 貸してみな。と、辰吉が出した手の上に、お七は地図を乗せる。
 地図を広げて、辰吉が感心する。

「良い地図じゃねぇか。しっかり勉強しろよ。これを覚えていて、町火消として損はねぇ」

 確かにそうだ。
 お七は思う。
 火事の際には混乱している。街を俯瞰で覚えておけば、消火の動きも早くなりそうだ。

「なあ。風ってどういうことだよ?」
「ああ、今の季節は、こっちから向こうへ風が流れているだろう? じゃあ、火は自然とこちらへ流れるんだ」

 祐の問いに応えて、地図の上で長い辰吉の指がすうっと火事の延焼した方向をなぞる。
 なるほど。確かにそうだ。
 風下から風上へは、火は延焼しにくい。

「じゃあ、季節が変われば、逆になるの?」
「そうだ。お七。案外察しが良いじゃねぇか」
「『案外』って何よ。あたしだってちゃんと考えているのに」

 ははっと、辰吉が笑う。

「お七。マトイ持ちたきゃ、火の動きを知るんだ。どんな風に広がって、どこを止めれば収まるのか。風、雨,木の生え方、家の並び、そういうのから先々の火を読むんだ」
「火を読む……」

 難しい……。
 お七は、地図を見つめる。

「なぁ、あそこ行ってみないか?」

 佑が指さすのは、出火した路地。

「あそこ……火元ね」

 行けば、何か分かることがあるのかも知れない。
 お七も首を縦に振って同意した。
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