黒虎記~たかが占いと伝承のせいで不吉の虎と呼ばれ迫害され暗殺されかけた王子だが、商人の家で得た知識で巻き返す

ねこ沢ふたよ

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立ち向かう者達

壮羽の心

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 意識を取り戻した時、西寧は、葉居の敷地の中で、幽閉するために建てられた塔の中に閉じ込められていた。
 男物の服が着せられていたのは、有難い。ボロボロの服でも、無いより数倍マシだ。体中が痛いのは、気を失っている間に、ずいぶん乱暴に扱われたのだろう。

 石造りの塔の最上階。
 小さな小部屋一つに簡易的な水回りが付けられている。大きな窓には、古いカーテンが吊り下げられている。きっと、何世代も前から、言いなりにならない者を閉じ込めて置くために作られたのだろう。何もかもが古ぼけて時代掛かっている。埃っぽい。それなりに調度品が贅沢なのは、時には身分の高い者を閉じ込めたからかもしれない。何人の者が、ここで辛い思いをして死んだのだろうか。大きな窓に鉄格子も入っていないのは、流石にここから落ちれば、命がない高さだからか。下をみれば、兵士達がゴマ粒のように見える。

 西寧が、外を眺めていると、遠くに鳥が飛んでいる。幼い頃に王宮の木の上から見た光景を思い出す。結局俺は、この年になっても、こんな場所にいる。何もかもがまだ上手くいかない。 
 結局、壮羽には会えなかった。兵士達の話では、奴隷の身分で未来の無い毎日。決して幸せとは言えないようだった。折角の綺麗な翼。飛ばせてやりたい。壮羽と話がしたい。心の傷があるようだったから、それを癒して未来を考えるようにしてやりたい。未来さえ希望を持てれば、きっと自力でも逃げられる実力があるだろう。

「あなたは、アホですか? なんで、わざわざ捕まるような真似をしたんですか!」

「壮羽!」

 扉から、壮羽が入ってきた。怒っている。いや、呆れている。
 壮羽に会えて、西寧の表情はみるみる明るくなる。

「壮羽が着せてくれたのか? この服。そのまま転がされているだろうと思っていたのだが、身綺麗にされて服まで着せられていた。こんな場所でそんなことをしてくれるのはお前だけだろ?ありがとう!」

 西寧の喉がゴロゴロ鳴っている。壮羽に会えたのがよっぽど嬉しいのだろう。

「まあ、そのくらいは。……いや、それよりも、今は、どうしてこんな所に来たのかを聞いているのです」

 壮羽は怒っている。
 西寧が無鉄砲に自分を捕えようとしている人間の屋敷に潜り込んだことが、気にくわないのだ。

 壮羽にとって、西寧はたった一人の希望だった。ほんの一時会っただけだったが、西寧に惹かれた。生きてくれていて元気でいてくれれば、それだけで良かった。なのに、その西寧が自ら死にに行くような真似をすることが、許せなかった。

「お前が心配で話がしたかった。葉居は、お前が好むような主ではないだろ?」
西寧が、叱られてシュンとする。

「それは、そうですが。しかし、わざわざその為にこんな危険を? 命を失うところだったのですよ? 本格的にイカれていますね」

 壮羽はかなり怒っているらしい。先ほどから、言葉がきつい。

「なんとか今のところ命は助かっただろ。俺は太政大臣の獲物だ。勝手に連絡もなしに殺しはせんだろ? たぶん」

 西寧に確証はない。
 腕や足を食いちぎられて葉居が怒り狂って勢いで殺してしまうことも考えられた。気を失っている間に、ずいぶん痛めつけられたようで、体中が痛い。誰が何をしたのかなんてもう知りたくもないが、取りあえず骨も折られずに今生きていることで十分だった。

「なあ。どうして逃げ出さない? 見ず知らずの町娘を捉えて太政大臣への貢ぎ物にしようとするような奴だぞ? 主と認める必要がどこにある?」

 西寧の瞳が、真っ直ぐ壮羽を見つめる。
 壮羽は、言葉につまる。

 西寧の言う通り、葉居は良い主ではない。だが、主は主だ。裏切る訳にはいかない。もう主殺しはしたくない。

「前に、主を殺したのだと言っていただろ? それだって、壮羽のことだ。何か理由があったからだ。俺は、お前を信じている」

 西寧の強い言葉。真っ直ぐな信頼を向けられて、壮羽はたじろぐ。

「どうして信じられるのですか? 会って間もない私を」

「会って間もないただの子どもの俺を助けてくれたのは、お前だ。それだけで十分だ」

 西寧の言葉に、壮羽は緑蔭を思い出す。
 何もない子どもの自分を助けてくれた緑蔭。
 
 自分が殺した。心が痛む。
 
 うろたえる壮羽を西寧が抱きしめる。

「今度は、俺がお前を助ける。俺が、お前の罪を許す。俺がお前を全部認めてやる。だから、お前は、自由に空を飛んでいいんだ。俺が、お前を飛ばしてやる」

 壮羽の目から涙がこぼれる。
 もう何年空を飛んでいないだろうか。

 奴隷となり翼には切込みを入れられて、無茶な要求や嫌な仕事ばかりを押し付けられてきた。翼の切込みは、主が自分を信頼していない証。いつ裏切っても簡単に逃げ出せないように入れられたもの。

 烏天狗に産まれ誰よりも高く速く飛ぶ壮羽が、地を這って生きてきた。奴隷の身分であることを、壮羽にいつも思い知らせてきた。
 
 階下から、焦げ臭い匂いと煙が上がってくる。閉じられた扉の隙間から、煙が溢れる。

「西寧様。残念です。始まってしまったようです」

「何がだ」

「処刑ですよ。あなたは、ここで私と死ぬのだそうです」

 壮羽は、涙を拭って寂しそうにニコリと笑った。
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