黒虎記~たかが占いと伝承のせいで不吉の虎と呼ばれ迫害され暗殺されかけた王子だが、商人の家で得た知識で巻き返す

ねこ沢ふたよ

文字の大きさ
34 / 40
加護

西寧の書状

しおりを挟む
「虎精……な。大丈夫なのか? 白虎がいなくなって久しいあの国。ずいぶん利己できな支配者が出てきている。烏天狗が、黄虎の国と交流を絶ったのは知っているだろう?」

「ええ。ですが、西寧様は、信頼のできるお方です。虎精の内で誰よりも蔑まれ、苦労して育ったためか、誰よりも懐深い方です……まあ、時々、思ってもみない破天荒で無謀な作戦に突っ走るので、苦労はしますが」

 自分の命を軽く考えているところは西寧に早急に直してもらいたいが、それ以外は、何も不満はない。

「……ふうん。よき主を得たのだな」

 悠羽は、少し寂しそうな表情を浮かべる。
 悠羽の盾になると息巻いていた子供の烏天狗が、自らの主を見つけて仕えている。かつての壮羽に想いを馳せているのだろうか?

「では、ここに戻ったのは? その主の使いか?」

「ええ。それが無ければ、ここに足を向ける気はありませんでした」
壮羽は、主の西寧からの書状だと、悠羽に一通の書状を渡す。

 目を通して、悠羽が悩む。

 書状の内容は、分かっている。
 軍の組織編成を改変している青虎の国。虎精の中では、武力に長けた国で長年の剣技を培ってきたが、どうにも国内の技術だけでは、画期的な進歩はない。
 だから、武芸に長けた烏天狗の国から、指導者を得て、進歩のきっかけにしたいと。

「壮羽一人では足らんか?」

「私一人では、軍全体を見切れませんので。数名お借りできればと思うのですが」

「虎精の国にねぇ……」

 黄虎の横暴な所業に、虎精の国全体の信頼を失っているのだろう。
 悠羽が簡単にヨシと言わない気持ちは分かる。

「兄上。黄虎の国を制するためにも、必要なのです。黄虎は、勢力を強めて、緑虎の国、青虎の国、それに赤虎の国をも手中に収めようとしている疑いがあります。ですので、青虎の国と烏天狗の里で、武芸交流という名目で親睦をはかり、いざという時には、烏天狗全体の力を借りたいのです」
壮羽は、悠羽に頭を下げる。

 壮羽は、自分が体験した、黄虎の国が緑虎の国を得ようとした作戦のこと、奴隷として生活をしている時に見聞きした明院の人柄、所業。青虎の国の太政大臣にまで、すでに明院が通じていることを訴える。

 静かに悠羽は、それを聞いてきた。
 壮羽が話し終わっても、悠羽はじっと黙っている。

 ……駄目であったか。そう簡単に大切な仲間を、信頼のおけない者に任せることは出来ないということだろう。

「壮羽が信頼している主、西寧王であったか?」

「はい」

「噂では、黒虎の精であるとか」

「いけませんか? 烏天狗の方が黒いくらいですが?」
きょとんとする壮羽に、

「いや、色はどうでもいい。古の占いババアの妄言も信用していない。だが、虎精の間では、問題なのであろう? そんな指導者で、虎精達が付いて来るのか? 肝心の虎精が付いてこなければ、勝機はない」
と、悠羽は指摘する。

 兄の言う通り、西寧が黒虎の精であることで、きっと敵は、悪は西寧の方だと主張して、軍の士気を下げにくるだろう。

「ええ、ですから、烏天狗の権威を使うのです。烏天狗が味方をしているということで、悪しき黒虎の精であるという忌まわしさは軽減されるだろうと」
ニコリと笑いながら、壮羽は言う。

「なんと。はっはっはっ! それは……そうだな。いっそ、四神獣、朱雀様、玄武様、青龍様にも権威を借りに行くか?」

「それも我が主は考えております。自分に正義があるかどうか、それは命がけで戦う兵士には、大切なことです。ですから、四神獣様にも、意向をお伺いに行こうと思っておりますが、そのためにも、烏天狗のお墨付きが必要なのです」

「なるほど……ずいぶん利用しようと言うのだな。まあ、いい。交代で数名、青虎の国に指導に行かせる。それに朱雀様には、この里から使いを出してお伺いを立ててやろう。他の四神獣様は知らん。自分でいたせ」

 悠羽は、サラサラと紙に西寧への返事を書いて、渡してくれた。

「ありがとうございます。……では」

「お、おい? もう帰るのか?」

「ええ、西寧様は、目を離すと何をしでかすのか分かりかねる方ですので、心配でならないのです」
壮羽は、そう苦笑いを悠羽に返して、烏天狗の国を立ち去った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!

ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。 ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!? 「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」 理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。 これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

外れスキル【畑耕し】で辺境追放された俺、チート能力だったと判明し、スローライフを送っていたら、いつの間にか最強国家の食糧事情を掌握していた件

☆ほしい
ファンタジー
勇者パーティーで「役立たず」と蔑まれ、役立たずスキル【畑耕し】と共に辺境の地へ追放された農夫のアルス。 しかし、そのスキルは一度種をまけば無限に作物が収穫でき、しかも極上の品質になるという規格外のチート能力だった! 辺境でひっそりと自給自足のスローライフを始めたアルスだったが、彼の作る作物はあまりにも美味しく、栄養価も高いため、あっという間に噂が広まってしまう。 飢饉に苦しむ隣国、貴重な薬草を求める冒険者、そしてアルスを追放した勇者パーティーまでもが、彼の元を訪れるように。 「もう誰にも迷惑はかけない」と静かに暮らしたいアルスだったが、彼の作る作物は国家間のバランスをも揺るがし始め、いつしか世界情勢の中心に…!? 元・役立たず農夫の、無自覚な成り上がり譚、開幕!

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

処理中です...