25億光年先のクエーサー

ねこ沢ふたよ

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貴子の母

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「奈美は、観測会の帰り道に、貴子の遺体を見て怯え切っていた紗栄を、『どのみち貴子は死んでいたんだから、助からない』と慰めたのよ」
「え、何だよその微妙な言葉」
「でしょ? 聞いたときは、ああ、紗栄と奈美も救急車を呼ばなかったことに少しは後悔があったのかと思ったのよ」
「違うよな。あいつら、全くそんなこと思ってもいなたかったよな、あの時」
「そうなのよ! だから理人は、一番怪しい慎也だけでなく奈美と紗栄も誰も信用するなって言っていたのよ」

 おいっ! と、慎也がツッコミを入れるが、そこを相手にしている場合ではない。
 今こそ、ちゃんと物事を整理しなければ。

「いい? まず、紗栄と奈美が貴子の死に関わることをしたの」
「何だよ。その曖昧な言い方」
「仕方ないでしょ、プロの探偵でも何でもないんだから、そんなのすぐに思いつかないもの。ともかく、貴子の死に関わる何かを……そうね、屋上に閉じ込めるとか、そんな悪戯をしたとか?」
「なるほど、奈美と紗栄のせいで、貴子が足を滑らせた的な事故に遭ったと」

 ポンコツ推理感は満載だが、分からないことは、仕方ない。

「そう! 詳しく何をしたのかは、これから探らなきゃ……てか、奈美に聞くけど、それで貴子は、奈美と紗栄が知らない間に死んでしまった」
「で、遺体を見つけた理人が、怒ってランタンで貴子の遺体を見せつけて犯人を炙り出そうとしたと」
「そうそう! ほら、話がつながる!」
「まぁ……分からないことだらけだけどな」

 苦虫を噛み潰した顔というのは、今の慎也の顔を言うのだろう。
 何かとんでもなく不満を抱えた表情を、慎也が浮かべている。

「どうしたの? どこか変?」
「いや……そうじゃないけれど、それだと紗栄を殺したのは……理人?」
「え……」
「だって、そうだろう。理人が、貴子を死に追いやった人間に復讐していると考えたら自然だろう?」
「じゃあ、紗栄が死んだ時に、理人が積極的に手伝ってくれたのは……」
「自分が、紗栄を殺した痕跡を消すためだ」

 慎也が断言する。
 ぼんやりと、思ってはいたのだ。
 今回の事件は、天文部の内部に犯人がいると。
 でも、具体的な名前が上がると、心が痛くなる。
 否定したくなる。

「まさか……」
「いいや、そうだよ。だって、理人は何であの時にカッターを持っていたんだ?」

 紗栄の遺体を見つけた時に、理人が紗栄を吊っていた縄をカッターで切ってくれた。
 それは、覚えている。

「あのカッターは、元々紗栄を殺すために準備したもので、体育倉庫で縄を見つけたから、急遽、自殺に見せかけて殺す方法に切り替えたんじゃないか?」
「なるほど……」
「紗栄を脅すのにもつかったのかもしれない」

 慎也の言う通りな気がする。
 理人は、もう犯人を見つけていた。
 そして、復讐を始めていたのだ。

「ああ!」

 慎也が急に叫ぶ。

「今度は何よ」
「奈美だよ。奈美が危ない!」
「え、まさか理人が奈美を殺しに行くの?」
「ともかくだ。奈美に理人が来ても付いて行くなって、連絡しないと!」

 慎也が奈美にメールする。
 既読が付かない。

「奈美、どこにいるんだ?」
「ええっと、今日はたぶん塾だわ。奈美は、自習室にいるはず」

 真剣に東京の大学を目指している奈美は、塾の自習室に入り浸っている。
 田舎のことだから、東京の大学を目指せるような塾は限られているし、奈美の行っている塾もそこだ。

「いくぞ、ミライ」
「う、うん」

 慎也は言わないけれども、行き先は分かっている。
 奈美のところだ。奈美が電源を切っているのならば、直接行って話をしなければならない。
 理人の犯行を食い止めたいのはもちろんだが、奈美と紗栄が貴子に何をしたのかも、はっきりと奈美の口から聞きたい。
 私達は、席を立って喫茶店を出た。
 喫茶店を出たところで出会ったのは、貴子のお母さんだった。

「話があるの」

 低い声。貴子のあ母さんが、私の腕を掴んですごむ。
 
「あの、今急いでいるんで……」

 奈美の命が掛かっている。
 理人に罪を重ねさせたくない。
 貴子のお母さんとも話はしたいけれども、今は無理だ。

「逃がさないわよ」

 貴子のお母さんの指が、私の手首に食い込む。
 髪を振り乱し、化粧もしていない貴子のお母さんの鬼のような形相に、私は、背筋が凍る。
 完全に私を貴子を行方不明にした犯人だと思い込んでいる。

「お前! ミライを離せよ!」

 慎也が私を守ろうと、貴子のお母さんの手を引っ張る。

「いいから! 慎也は、奈美のところへ急いで!」

 こんなことで、奈美が死んでしまっては、きっと後悔する。

「貴子のお母さんとは、私が話す。慎也は、絶対に奈美を助けて」

 貴子のお母さんは、貴子の居所を探している。
 すぐに私を殺すようなことは、しないはずだ。
 
「すぐ戻って来る! 絶対に人の少ない場所へは行くなよ!」

 慎也が、駅前の塾に向かって走って行った。
 私は、貴子のお母さんを真っ直ぐに見る。

「喫茶店で話をしましょう」

 喫茶店の中ならば、人目が絶対にある。
 ここでならば、貴子のお母さんも逆上して私を刺すなんてことはしないはずだ。
 私が、貴子のお母さんと店内に戻って来たのを見て、店員さんがギョッとしている。
 ギョッとしているのは、ひょっとしたら、貴子のお母さんの様子をみてかのだけれども、なんだか気まずい。

「あ……ええっと、アイスのレモンティー二つで」

 私は、貴子のお母さんには断らずに勝手に注文した。
 ホットは困る。
 突然、熱い紅茶をぶっかけられて大やけどとかは、嫌なのだ。
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