マッスル書店へようこそ!

ねこ沢ふたよ

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ヨガマスター(谷川俊太郎と大腰筋)

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 本日も重い足を引きずって、俺はこのマッスル書店へ出勤する。

「なんだ? 元気がないぞぉ!!」
ヒンズースクワットで出迎える本因坊店長は、きょうもゴリゴリに元気だ。

「佐々木君久しぶり!」
爽やかな笑顔は、中百舌鳥真希なかもずまきさん。

 俺の入る前にこのマッスル書店でバイトをしていた女性だ。就職を機に、バイトは卒業したが、ここで四年もバイトをし続けていた強者だ。

「今ね、本因坊店長と、ヨガマットについて熱く議論を交わしていたところなの。佐々木君はどう思う? やっぱり、本因坊店長と一緒で、ヨガマットの色彩には、こだわりはない方?」
目を輝かせて、真希さんは俺に聞いてくる。

 そう、真希さんは、こんな可愛い顔をして、『ヨガマスター』なのだ。ストリートファイターのヨガファイヤーをさく裂する、あの手の伸びる強面のおっさんキャラと同じ属性なのだ。

「知りませんよ。俺、そういうのどうでもいいんです」

「え~っ! ここで働きだして、もう半年にもなるのに、まだ自分のマッスルスキルに興味ないの?」

「マッスルスキル……そんなの最も興味ありません」

「はっはっはっ! 佐々木君は手ごわいであろう? この本因坊の傘下となって、いまだ自分のポリシーを崩さない! これは、大物になるしかないな! 末は、この書店の後継者か?」
本因坊店長が、俺の肩をガッシと掴みながら、大笑いする。

 俺が、どんな大物になるというのだ? この書店の後継者? そんなのまっぴらごめんだ。

 俺は、平和に過ごしたいだけだ。ただ、ここを訪れるお客様の幸せな笑顔。それが忘れられなくて、ついバイトを続けてしまっているだけの、可哀想な子羊の一人なのだ。

「ふふ、楽しみね。佐々木君が次期店長となったら、私、英雄のポーズで祝辞を述べてあげる」

 もう、何をどうツッコんでいいのやら。
 だから、俺は次期店長なんてならないし、どうして祝辞に英雄のポーズが必要なのか。

「あ、そうだ。今日は、これを買いに来たの」

真希さんの手には、谷川俊太郎の詩集。

「中百舌鳥君。これを所望ということは、大腰筋の強化に来たのかな?」

「さすが店長♪ 何でもお見通しなのね!」

谷川俊太郎のどこに大腰筋の要素があるというのか?
えっと、あの『かえる』や『いるか』の、とんでもなく純真無垢な感じが、大腰筋を連想させるとか?
いや、ないだろう。どう考えても結びつきはしない。


 俺には何一つ理解など出来はしないが、ウキウキとマイヨガマットを広げて店長と楽しくストレッチを繰り広げ、
真希さんは、インナーマッスルを鍛え上げて、楽しくお帰りになられた。

 とりあえず、またのご来店お待ちしております。

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