5 / 19
就活生(SPIとヒラメ筋)
しおりを挟む天気の良い日は、外に出て大きく伸びをして、鳥の声を聞きながら爽やかな風を楽しむ。
その時には、お気に入りの本を一冊。時間を気にせずに、ゆったりと読む。
理想ですよね? ええ、俺もいつかそんな生活が出来るようになりたいと心から思っています。
本因坊店長が腹筋を鍛えながら、フンッフンッ! まだまだ! と掛け声をかけているのを、こんな日に聞く人生では、決してないのです。
本日もまた、俺は『マッスル書店』で、バイトをしている。
これでこの本屋、意外とバイト代をはずんでくれるのだから、分からない。一体どこで儲けているのか。
俺がいない時には、客があふれかえるほど押し寄せているとか? いやいや、まさかそんな訳ない。
「あのう……本が欲しいんですけれど……」
入り口で声をかけてきたのは、お姉さん。
「どんな本をお探しでしょうか?」
俺が声をかければ、
「就活用のSPI適性検査の本を……」
ということは、就活生か。
どんな就職先を求めているのかは知らないが、大変だな。
思うようなところに就職できるかどうか、ブラック企業に勤めないためには、どうしたら良いのか。
この間来た受験生のように、人生の分岐点に立っているのだろう。
「はい、お待ちください!」
腹筋のメニューをこなすことに夢中の本因坊店長が気づく前に、俺は倉庫に急ぐ。
突然始まる筋トレに巻き込まれたら、お姉さんが可哀想だ。
急いで何冊かの候補を持って、倉庫から店舗に戻れば……遅かった。
「ほら、もっと! 背筋を伸ばして!!」
「はい!!」
店備え付けのジャージに着替えたお姉さんは、しっかり筋トレ指導を本因坊店長から受けている。
「て、店長?」
俺がおずおずと声をかければ、
「就活生のようなんだ。この女性は! ということは、つまり、ヒラメ筋が必要だろう?」
自信満々に本因坊店長がサムズアップして笑う。
え、必要なんですか? ヒラメ筋……、ところで、それってどこですか?
俺が、きょとんとしていると、
「なんだ! 知らんのか! 仕方ないな。書店員の基本だぞ! ヒラメ筋は、ふくらはぎの筋肉だ!」
と、本因坊店長が、教えてくれる。
俺の常識が間違っていなければ、書店員の基本ではないと思うぞ。
「な、なんだか自信が湧いてきました!」
お姉さんがのたまう。
はい?
「だろう? ヒラメ筋を鍛えて、その足で道を切り開け!」
イイ感じにまとめる本因坊店長。
「はい! 頑張ります!」
お姉さんは、明るく笑顔で飛び出していった。
えっと、本は要らないのかな……? おーい!
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる