マッスル書店へようこそ!

ねこ沢ふたよ

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筋肉よ永遠に

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 俺@マッスル書店。
 俺は粛々と作業を進める。
 少しずつ慣れてきたドジっ子新人の太秦さんも、無事にレジを爆破させずに業務に勤しんでいる。

 辞めるなら今かなぁ。
 後続も育って来ているし、店長も元気ハツラツでフンフン言いながらトレーニングしているし。
 なんだかんだ言いながらも、中書島先輩はよく店に顔を出すし。

 俺がスッと抜けたところで、この異世界マッスル脳筋書店は、何一つ変わらないだろう。

「あの……店長」

 俺は一つの決意を胸に、ローイングマシンで全身の筋肉をイジメまくっている本因坊店長に話しかける。

「店長、私、明日からインドに行くの!」

 後ろから中書島先輩の声。
 え、インド?

「やっぱり、ヨガやるならインドで武者修行もしないと!」
「素晴らしいな! 中書島君! 全身の筋肉が喜んでいるぞ! だが、海外には思っているよりも危険な地域もある! 武者修行と言えども気をつけてな!!」

 良い感じの笑顔でサムズアップして返す本因坊店長。

「大丈夫よ! 現地人と行くし!」
 
 ヨガ仲間だと言うインド美女の写真を見せられる。スマホの中で中書島先輩と肩組んでいる。
 これは安心だ。
 海外と言えども、現地に詳しい友人と行くならば、これ以上安心なことはないだろう。

 しかし困った。
 中書島先輩が、店に顔を出さなくなるならば、辞めるとは言い出しにくくなる……かな?

 いやいやいや。
 ここで怯んではいけない。
 一度決意したのだから初心貫徹だ。

「あ……」
「きゃー!!」

 聞こえてきたのは、太秦さんの悲鳴。

「せせせ先輩! これ!!」

 なぜだ? 何をどういじったら、こんな風にレシートが噴水のごとくに溢れて止まらなくなるんだ!

 瞬く間に床がレシートの長い長い帯でいっぱいになる。

「ご、ごめんなさい……」

 蚊の鳴くような声の太秦さん。
 なんとかマニュアルを引っ張り出して、レシートの噴水は止めたけれど。これは、後始末が大変だ。

「佐々木君が居てくれて良かったな!」

 ニカッと微笑む本因坊店長の歯がキラリと輝く。筋肉を最大限活用するには、歯を喰いしばる必要がある。だから、本因坊店長は、歯の健康には人一倍気をつけている。そりゃもう、芸能人かよと思うくらいに真っ白な歯をキープしている。

「ええ。前に本因坊店長に助けていただいたときには、レジがダメになってしまいましたから」

 知っている。俺が休みの日、レジが何らかのトラブルを起こして、本因坊店長は筋肉で解決してしまったのだ。
 俺が後日、店に来た時には、レジは真っ二つ。レジの上半分と下部分が分かれた状態になっていた。
 その時俺は初めて見た。アジではない、「レジの開き」ってヤツを。何言っているかは、俺も分からない。

「全くだ! 佐々木君のおかげでレジがダメにならずに済んだ!」

 穏やかな笑いに店内が包まれる。
 やだ~、も~。なんて言いながら、中書島先輩も太秦さんも笑っている。え、それ笑うところ? おおごとだろ? 小売店でレジが再起不能になったら。

「筋肉が有れば、全ては解決するのだよ!」

 いや、解決していないだろう? レジ死んだし。いきなりパックリ二つに引き裂かれたレジの気持ちも考えろ。

「ダメだ」
「うん? どうした? 佐々木君?」
「いえ、何でもないです」

 一人くらいまともな人間がいなければ、ここはますます混沌とした筋肉魔窟になってしまう。
 ここに迷いこんだ可哀想な子羊(客)を助けなければ。

 俺は、本日も遠い目をしながら店に立つ。

「いらっしゃいませ。良かったどうぞ、ご遠慮なく逃げてください」
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