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リンゴ
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「ずいぶん楽しそうでしたが、アスナと何の話をなさっていたのですか?」
「ん? 気になるか?」
おっと、セシルは、なにやら機嫌が良さそうだ。
……
……
いや、何話していたか、教えてよ。相変わらず、言葉が足りない奴だ。
「別に。授業の話だ。大した話ではない。アスナが先生に叱られた話を聞いていた。先生から私が、得意な教科だと聞いて、質問に来たそうだ」
なるほど、さすがアスナだ。セシルとの接点を積極的に探しているのだろう。セシルの得意教科を調べて、叱られた話をでっち上げたのかもしれない。
「そうですか……」
アスナ、恐ろしい子……。
後でリンネとマキノに相談しよう。
「これ、俺の……」
先ほどセシルから渡されたハンカチを持って俺がそう言えば、
「やはりそうか。昔、お前が落とした物を拾ったんだ」
とセシルが答える。
なんだ。セシルはずっとこれを返したくて、俺と話をしようとしていたんだ。
じゃあ、もっとスッと話してくれたらよかったのに。ハンカチくらい。
「じゃあ、これを返そうと、ずっと話をしようとしてくれていたんですね? 有難うございます」
ちょっと疑問がとけてスッキリした。
看病してくれた時も、きっとそうだったのだろう。セシル王太子、律儀な良い奴ではないか。
「そうなんだが、そうではない」
? どういう意味だ。
「覚えていないか? これを落とした時のことを。……初めて会った時のこと」
??? 俺、何か忘れている?
ええっと、小さい頃のことだよな。
俺は、必死になって記憶をたぐった。
俺は、小さい頃、今よりももっと病気がちで、シロノがよく看病してくれていた。だから、外にはあまり出ていない。ならば、会ったのは王宮の行事でだろう。
じゃあ、セシル王太子と初めてあったのは、セシルの誕生日パーティの時。
会ったと言っても、俺はシロノと遠くの方に座っていたから、セシルは米粒大でしか見えなかったし、セシルからは、認識出来なかったと思うのだが。
あの時は、セシルと同年代の貴族の子ども達も集まって、王宮の庭で一緒に遊んだ。たぶん、リンネやユーカス、マキノもその中にいたのだろうが、大勢いたし覚えてはいない。
悪名高きグスタフ・エルグの子どもだから、他の貴族とは馴染めず、下男下女からも、所詮農奴の子どもと、無下に扱われた俺とシロノ。
参加する意味があるのかと疑問に思いながら、あっという間につまはじきにされて、庭の片隅で、シロノと二人で遊んでいた。
家から黙って持ってきたリンゴを二人で齧って、楽しくおしゃべりをして。
「それ、美味いのか?」
そう聞かれて、誰かにリンゴを分けてあげて……。
そうだ。
その時は気づかなかったけれども、あれはたしかに、セシル王太子だったのでは?
「リンゴ……、一緒に食べましたか?」
俺がおずおずと聞けば、
「思い出してくれたか!」
とセシルがニコリと笑った。
「ん? 気になるか?」
おっと、セシルは、なにやら機嫌が良さそうだ。
……
……
いや、何話していたか、教えてよ。相変わらず、言葉が足りない奴だ。
「別に。授業の話だ。大した話ではない。アスナが先生に叱られた話を聞いていた。先生から私が、得意な教科だと聞いて、質問に来たそうだ」
なるほど、さすがアスナだ。セシルとの接点を積極的に探しているのだろう。セシルの得意教科を調べて、叱られた話をでっち上げたのかもしれない。
「そうですか……」
アスナ、恐ろしい子……。
後でリンネとマキノに相談しよう。
「これ、俺の……」
先ほどセシルから渡されたハンカチを持って俺がそう言えば、
「やはりそうか。昔、お前が落とした物を拾ったんだ」
とセシルが答える。
なんだ。セシルはずっとこれを返したくて、俺と話をしようとしていたんだ。
じゃあ、もっとスッと話してくれたらよかったのに。ハンカチくらい。
「じゃあ、これを返そうと、ずっと話をしようとしてくれていたんですね? 有難うございます」
ちょっと疑問がとけてスッキリした。
看病してくれた時も、きっとそうだったのだろう。セシル王太子、律儀な良い奴ではないか。
「そうなんだが、そうではない」
? どういう意味だ。
「覚えていないか? これを落とした時のことを。……初めて会った時のこと」
??? 俺、何か忘れている?
ええっと、小さい頃のことだよな。
俺は、必死になって記憶をたぐった。
俺は、小さい頃、今よりももっと病気がちで、シロノがよく看病してくれていた。だから、外にはあまり出ていない。ならば、会ったのは王宮の行事でだろう。
じゃあ、セシル王太子と初めてあったのは、セシルの誕生日パーティの時。
会ったと言っても、俺はシロノと遠くの方に座っていたから、セシルは米粒大でしか見えなかったし、セシルからは、認識出来なかったと思うのだが。
あの時は、セシルと同年代の貴族の子ども達も集まって、王宮の庭で一緒に遊んだ。たぶん、リンネやユーカス、マキノもその中にいたのだろうが、大勢いたし覚えてはいない。
悪名高きグスタフ・エルグの子どもだから、他の貴族とは馴染めず、下男下女からも、所詮農奴の子どもと、無下に扱われた俺とシロノ。
参加する意味があるのかと疑問に思いながら、あっという間につまはじきにされて、庭の片隅で、シロノと二人で遊んでいた。
家から黙って持ってきたリンゴを二人で齧って、楽しくおしゃべりをして。
「それ、美味いのか?」
そう聞かれて、誰かにリンゴを分けてあげて……。
そうだ。
その時は気づかなかったけれども、あれはたしかに、セシル王太子だったのでは?
「リンゴ……、一緒に食べましたか?」
俺がおずおずと聞けば、
「思い出してくれたか!」
とセシルがニコリと笑った。
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