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ロミオの暴走

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『生きるべきか死ぬべきかそれが問題だ』

いや、俺、ジュリエットだし、ハムレットじゃないし。

 仮死設定で舞台に転がる今。本来ならば、パリス役のマキノが倒されて、ロミオ役のフランネが俺の遺体の前で泣きながら自殺して、その後で起きて、悲観して死ぬ予定なのだが。

 このまま死んでたら、俺本当に死んじゃわない? 今、生き返って起きるべきじゃない?

 マキノが必死で戦ってくれているが、フランネの殺意はすごそうだ。

「ま、まあ、これはどういう事なのですか??」

俺は意を決して起きてみる。

「ジュリエット、生き返ったか!!」

 パリス・マキノが抱きついてくる。
 上手いな、アドリブ。

「おのれジュリエットやはり心変わりしていたのだな!! 許さん!!」

おい、ロミオよ。最愛の恋人ジュリエットが生き返ったのに、何だその態度は。まだ、攻撃を止めない気か?

「ロミオ様、誤解です。けしてそのような心では……」

俺がアドリブのセリフを言う前に、ツボの破片が飛んでくる。

 頬をかすめてツボの破片は、舞台上に転がる。
 ツウと、頬を流れ落ちる血。破片で怪我をしたのだろう。痛い。

「ロミオ!! てめえには、絶対にジュリエットは渡さん!!」

 俺の傷を見て激高するパリス。
 もう、筋書きはめちゃくちゃだ。

「パリス様、お話も聞いて下さらず私を憎むロミオ様。その短絡的な考えには、うんざりしましたわ。そもそも、喧嘩で人を殺めるなんて考えてみれば、なんて乱暴な!!」

筋書きがめちゃくちゃなら、もう、俺は保身に走っていいだろう。
 
「お味方いたします」

俺は、すっくと立って、パリスの横に立つ。

 観客席は、観たこともない展開のロミオとジュリエットに歓声を上げている。
 先生方は、ざわついているが……。

 二人がかりでロミオをなんとか止めて。
 俺への攻撃を諦めたのか、フランネは、自害する演技をして倒れた。

「ああ、俺ももう駄目です。どうやらロミオから受けた傷が、深かったようです」

 パリス・マキノが、突然説明しながら倒れる。
 
 じゃあ、もういいのかな?

「ああ、二人とも亡くなってしまったのね」

 ジュリエット俺も、さめざめ泣きながら、自害の演技をして、マキノの上に倒れ込む。

 そう、全ては、この茶番を早急に終わらせるため。無理やりにでも、全員死亡の状況に持っていくのだ。


 俺が死んだ演技を見て、慌ててロレンス・リンネが舞台袖から飛び出てくる。

「な、なんという悲劇!! ああ」

 頭を抱えて嘆くロレンスに照明が当たって、幕は引かれた。

 いや、喜劇だろ。これ。

「フランネ、お前、どういうつもりだ!!」

マキノがフランネの胸倉をつかむ。

「次の舞台があります。場所を移動しましょう」

リンネが冷静にそう言った。

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