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ジュリエット

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 舞台の上。

 先ほどの自らの失敗を反省し、緊張もあって悲壮感あふれる俺。幕開けの初っ端に舞台の中央に座っている。
 客席から、おお~、と歓声が上がる。
 ええ、本当に悲壮感一杯なんです。演技ではなく。吐きそうなくらいに。

「ああ、なんということでしょう。修道僧ロレンス様、どうしたら良いのでしょうか」

 俺は、心の底からのセリフを、修道僧ロレンス役のリンネにぶつける。
 本当、どうしたらよいのやら。また、俺やらかしたと思います。

「い、いかがいたしましたか? ジュリエット様!!」

俺のあまりの悲壮感に、リンネの演技もつられて心が入る。

「先日、ロレンス様に密やかな結婚を……」

 演技は、続けられ、舞台は進む。

 仮死の毒薬を煽って倒れる俺。手向けの花々の間で眠る俺の横で繰り広げられる、パリスとロミオの剣技。
 観客席からは、大きな声援が上がり、フランネとマキノが調子にのり始める。

 俺の横に、ロミオの剣がパリスに弾かれて飛んでくる。
 顔の横にあった手向けの花が、何本か吹っ飛んでいく。

 あっぶねえ~! 俺、死んでいるから、避けられないんだけれども。

 ロミオが剣を掴んで、またパリスに挑みかかる。
 その時に、ロミオ役のフランネが、「ちっ、外したか」と呟くのを確かに聞いた。
 あれ、わざとだったんじゃない? 刀が吹っ飛んだフリをして、俺にぶつける気だったのでは?
 仮死状態の演技を続けながら、俺は考える。

 フランネは、悪宰相の息子である俺を、舞台の上での事故で怪我あるいは殺害しようと試みていない? いやいや、さすがに殺害はないか。模造刀だし。

 激しい乱闘の中で、パリンとツボが割れる音が聞こえる。
 ……ないよな? 殺害。

 兄のユーカス同等に、俺か父かに恨みを持っていたフランネは、表面上は仲良くして油断させておいて、事故に見せかけて俺を攻撃するつもりだったのでは??
 ほらぁ、また何か飛んできたし。今度は、ツボの破片だよ。
 ……ないよな? 殺害。ないと思いたい。

 パリス役のマキノが俺の方を気遣って、フランネと俺の間に入ってくれる。直接戦っているマキノには、何か異変が感じられたのであろう。

「ロミオ、どうした。ジュリエットの遺体を傷つける気か!!」

アドリブでマキノが、フランネに忠告する。

「そこをどけ!! 俺という物がありながら、他の男と婚姻を結ぶふしだらな女は、許せんのだ!!」

およそロミオとは思えないセリフ。


 ちょっと待て、話が変わっている。
 このまま、話の筋通りにパリスが倒れたら、俺、殺されない?
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