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思い出せ

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「ただ、窓辺で話していただけですしね。大丈夫です。今回はそんなにやらかしていません」

 今までに比べたら、この程度! と、リンネがのたまう。

 リンネの言い方は気になるが、やらかしていないなら、それでいい。

「マキノとフランネがいなくて良かったです。あの程度でも、絶対怒りますよ」

「あいつら厳しいな。てか、フランネが怒るのは分かる。セシル様に接触するなと言っていたし。なんでマキノにまで!!」

「まあ、あの人は特殊です。いずれ分かってあげてください」

 リンネが、飲み終えたココアのカップを机に置いて、マキノのベッドにゴロンと転がる。

 リンネが冬休み中にマキノをベッドを使うことは、マキノには許可を取っている。
 リンネと一緒に冬休みを過ごすことが決まって、どうせなら、夜も同じ部屋に寝ようかと言っていたとき、当初は俺のベッドで雑魚寝をしようとしたのだが、それならばと、マキノがベッドと使う許可を出してくれた。
 雑魚寝よりも、寝やすくて助かる。
 

「しかし、先ほどの会話を聞く限り、今後の鍵となるのは、『子どもの頃の記憶』でしょうね」

リンネは指摘する。

「俺の忘れている記憶?」

該当しそうなことは、それしかない。先ほど、セシルも『まだ思い出さないか?』と聞いていたし。

「そうです。きっと、そこに、何故セシル様が、あんなにリオスを気にしているのか、セシル様とシロノさんの関係は? なんて、今後の鍵になるようなことが、隠されている気がします。だから……」

「だから?」

「ちゃっちゃと思い出して下さい」

ニコリと笑って軽く言うリンネ。

「無理言うなよ」

 今まで思い出さなかった物を、急に思い出せと言われても、無理がある。
 そもそも、何でこんなに綺麗さっぱり俺だけ忘れているのか。
 まあ、優秀なシロノとセシル。冬休みもレポートに追われる俺とは違うというだけのことかもしれないが。ううっ(泣)

「シロノさんが、自分で思い出さないと駄目だと言っていたのですよね?」

「そうなんだ。教えてくれたら早いのに。なんでだろう?」

「ひょっとしたら、よっぽどショックな内容なのかもしれませんよ?」

「え、でも、双子の兄妹で同時にほっぺにキスからの、『お嫁さんにしてね』発言は思い出したよ?」

ショッキングな内容なんて、あの黒歴史以外ないのではないだろうか?

「それが可愛く思えるような内容かも」

「リ、リンネ???? そんな恐ろしいことを言わないで。」

幼い頃のリオス少年は、何をしでかしたのだろう??
 そんなに思い出したくない内容なのか??
 え、頭が少々イタイ少年は、あれ以上の黒歴史をあの日に積み重ねたの?
 そして、俺だけが覚えていなくて、セシルとシロノが覚えているの?

 恥ずかしすぎる!! 怖すぎる!!

 それを思い出したら、俺、どんな顔で二人に会えばいいのだろう。
 出来れば、黒歴史の積み重ねでありませんように。

 俺は、あらゆる神に心から祈りを捧げた。
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