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プロムの始まり

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 プロムの大まかな流れは、学校長挨拶→生徒会長挨拶→来賓からの卒業祝いの言葉→ダンスパーティ。
 プロムの間は、振舞われた飲食物を自由に食べることが出来る。

 何が起こるかは、不明。このプロムで何か騒動を引き起こして、それをシロノが黒幕なのだと信じ込ませることで、アスナの『シロノがグスタフと共にセシル様失脚、国家への反乱を企てている』という大風呂敷を信じる根拠を作ろうとしているのだという。

 これを荒唐無稽と言わずして、何を荒唐無稽というのか。
 シロノは何もしていない。ただ、真面目に学校生活を送り、セシルへの恋心を抱いているだけ。それなのに、そんな根も葉もない疑いをかけられるなんて、あんまりだ。

「どうやるんでしょうね。今年のプロムに参加もしていないシロノ様に、そんな大それた濡れ衣を着せようだなんて」

メリッサが首をひねる。
メリッサの言う通りだ。もし、何か事件を起こしたとしても、どうやったら、ここに居もしないシロノが、事件を引き起こした首謀者だと信じ込ませることができるのか。そのためには、ここに居る人々の多数が、これはシロノが首謀者ではないかと思わせる仕掛けが必要だ。

「貴族の子息、子女を傷つけて嘲るような行為をすれば、現状に不満を持っているという表現になるでしょうか?」

メリッサの婚約者のアーシュも、全く分からないと考え込む。

「勘違いかもしれないんだろ? 第一、女子だけで企てたって、そんな大それたことが出来るなんて思えないんだけれど」

チャラ男カイルは、アスナを軽く見ている。
甘い。アスナのあの、健気な表向きの姿にすっかり騙されている。入学してからずっと見てきたから分かる。アスナは、とんでもない計略家だ。甘く見ていたら、痛い目をみる。

 俺達四人は、学校長の挨拶には、ほとんど耳を貸さずに、周囲を警戒する。

 アスナは、プロムには参加していない。
 当然だ。セシルの正妃に成ろうとしているアスナが、ここに姿を現すはずがない。

 貴族の事実上の婚約宣言にも使われるこのプロム。
 前評判で聞いていた通りに、男女で参加している者が多いが、一人で参加している者、女性同士のグループで参加している者、男性同士もチラホラ。

 なんだ。結構自由じゃないか。そもそも、卒業の祝いと記念のパーティだ。そりゃ、相手がいないと参加できないだなんて不公平だものな。
 男性も女性も、年上の恋人がいるならば、恋人は卒業してしまっているだろうし、そうなれば、恋人の予定が合わない場合もあるだろう。

 なんだ。じゃあ、俺の時は遠慮なく一人で参加して、楽しく飲み食いだけして帰ればいいんだ。心の隅の小さな心配が消えて助かった。

「別にあんなに必死に相手を探さなくても良かったんじゃないですか?」

「そんな訳にはいかないだろう? 名誉の問題だ」

ふうん。チャラ男も色々大変なんだ。
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