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それじゃない?
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学校長の挨拶も、生徒会長の挨拶も、ほとんど見向きもせずに会場をうろついたが、特に怪しい物は見当たらない。やっぱりメリッサの聞き間違いでは? と思うが、メリッサは確かに聞いたのだと言い張る。
「メリッサはしっかりした娘だから、根拠もなく騒ぎ立てたりしないよ」
アーシュもメリッサの証言を推す。
「来賓の挨拶です」
そう司会に言われて、壇上に立つのは……セシル王太子。
は?
まあ、でもそうか。同じ学校に王太子なんて存在があれば、こういった記念行事には来賓として呼ばれるか。
大変なんだな。王太子というものも。
「未来の国を担う諸兄の卒業を喜ばしく思い……」
セシルは、慣れた様子で演説する。何度もこういう演説を求められてきたのだろう。とても聞き心地の良い演説だ。会場全体を見渡して、皆に目線をくれているのも、全員に話しているのだという、聴衆を引き付けるテクニックなのだろう。
セシルの目が、一瞬俺の方を見て、止まったように感じる。
眉間に皺が寄った気がする。
バレた? まさか。化粧もしているし、カツラまで被っている。
ここで、おどおどしていれば、本格的に見破られてしまいそうだ。カイルにくっついて、本物の婚約者らしくしておこう。
カイルにもたれれば、
「慣れない靴で疲れた? もたれてていいよ」
と、案外優しい言葉を、カイルがかけてくれる。
カイルと一緒にいれば、疑われているとしても、きっとセシル王太子も、声をかけてくることはないだろう。
「カイル、そんな可愛い婚約者がいたなんて、初めて聞いたぞ」
カイルの同級生が声をかけてくる。
俺は、ペコリと頭を下げる。声は出さない。バレそうで怖い。
「病弱で、なかなか外には出てこないんだ」
設定通りの返答を、カイルがする。
「今も、挨拶の途中でつらくなってしまったようで、この通り、立っていられなくて」
「悪いが、ちょっとダンスには参加せずに、椅子で休ませてもらっておくよ」
カイルがそう言って、壁際の椅子に導いてくれる。助かる。
椅子に座っていると、メリッサが隣に座りに来る。
「セシル様、リオス様の正体にお気づきではなかったですか?」
なんだか嬉々とした様子で聞いてくる。
どうして嬉しいのか? バレたら困るじゃないか。
ダンスが行われている会場のテーブルでは、デザートが並び始める。アップルパイ、レモンタルト、ベリーのムース、オレンジゼリー、チョコレートケーキ、マフィン。様々な菓子が、テーブルに並べられる。
あれ? あのマフィン……見覚えがある。マフィンの上に描かれた花の絵。あれは、シロノが作ったものだ。
「あれは、シロノが作ったものでは?」
俺が、メリッサに聞けば、
「ええ。伝統として、本日参加しなかった女子生徒は、有志でお菓子を寄付するのです。購入する者もいれば、手作りで作る者もいます」
と答える。
「それじゃない? その手作りのお菓子に毒を混入して、誰かが食べれば、大騒ぎになる」
「え、でも、作った本人が各自皿に盛りつけた物を、係のメイドたちに渡すのですよ? 生徒に毒を混入する隙はないはずです。それに、誰が何を作ったのか、分かりませんから、毒が混入されていたとして、それが、シロノ様の仕業だとどうして特定できるのか」
確かに、メリッサの言う通りだ。
この場で、アスナの協力者が、毒を混入したのは、シロノだと言い張っても、誰も信じないだろう。何か……シロノが毒をいれたのでは? と皆に信じ込ませる仕掛けが必要だ。
「メリッサはしっかりした娘だから、根拠もなく騒ぎ立てたりしないよ」
アーシュもメリッサの証言を推す。
「来賓の挨拶です」
そう司会に言われて、壇上に立つのは……セシル王太子。
は?
まあ、でもそうか。同じ学校に王太子なんて存在があれば、こういった記念行事には来賓として呼ばれるか。
大変なんだな。王太子というものも。
「未来の国を担う諸兄の卒業を喜ばしく思い……」
セシルは、慣れた様子で演説する。何度もこういう演説を求められてきたのだろう。とても聞き心地の良い演説だ。会場全体を見渡して、皆に目線をくれているのも、全員に話しているのだという、聴衆を引き付けるテクニックなのだろう。
セシルの目が、一瞬俺の方を見て、止まったように感じる。
眉間に皺が寄った気がする。
バレた? まさか。化粧もしているし、カツラまで被っている。
ここで、おどおどしていれば、本格的に見破られてしまいそうだ。カイルにくっついて、本物の婚約者らしくしておこう。
カイルにもたれれば、
「慣れない靴で疲れた? もたれてていいよ」
と、案外優しい言葉を、カイルがかけてくれる。
カイルと一緒にいれば、疑われているとしても、きっとセシル王太子も、声をかけてくることはないだろう。
「カイル、そんな可愛い婚約者がいたなんて、初めて聞いたぞ」
カイルの同級生が声をかけてくる。
俺は、ペコリと頭を下げる。声は出さない。バレそうで怖い。
「病弱で、なかなか外には出てこないんだ」
設定通りの返答を、カイルがする。
「今も、挨拶の途中でつらくなってしまったようで、この通り、立っていられなくて」
「悪いが、ちょっとダンスには参加せずに、椅子で休ませてもらっておくよ」
カイルがそう言って、壁際の椅子に導いてくれる。助かる。
椅子に座っていると、メリッサが隣に座りに来る。
「セシル様、リオス様の正体にお気づきではなかったですか?」
なんだか嬉々とした様子で聞いてくる。
どうして嬉しいのか? バレたら困るじゃないか。
ダンスが行われている会場のテーブルでは、デザートが並び始める。アップルパイ、レモンタルト、ベリーのムース、オレンジゼリー、チョコレートケーキ、マフィン。様々な菓子が、テーブルに並べられる。
あれ? あのマフィン……見覚えがある。マフィンの上に描かれた花の絵。あれは、シロノが作ったものだ。
「あれは、シロノが作ったものでは?」
俺が、メリッサに聞けば、
「ええ。伝統として、本日参加しなかった女子生徒は、有志でお菓子を寄付するのです。購入する者もいれば、手作りで作る者もいます」
と答える。
「それじゃない? その手作りのお菓子に毒を混入して、誰かが食べれば、大騒ぎになる」
「え、でも、作った本人が各自皿に盛りつけた物を、係のメイドたちに渡すのですよ? 生徒に毒を混入する隙はないはずです。それに、誰が何を作ったのか、分かりませんから、毒が混入されていたとして、それが、シロノ様の仕業だとどうして特定できるのか」
確かに、メリッサの言う通りだ。
この場で、アスナの協力者が、毒を混入したのは、シロノだと言い張っても、誰も信じないだろう。何か……シロノが毒をいれたのでは? と皆に信じ込ませる仕掛けが必要だ。
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