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花言葉
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「そんな。お兄様のせいではありませんわ」
強張る顔で、無理矢理笑顔を作るシロノ。
グスタフの、悪宰相と噂される者の子であれば、恋することも許されないの? 他の娘たちは、何にも気にせずに、ひょっとしたらと明るい思いで参加することに、悪役令嬢だと言われてしまったシロノは、参加することも悪だと言われてしまうの? こんなに優しく努力家のシロノなのに。
俺の目には、涙が溜まる。
俺のしなければならないことは、アスナの計略を阻止することでも、シロノをセシルに売り込むことでも無かったのかもしれない。
俺は、何よりもこの可愛い妹の心に寄り添って、傍にいてやるべきだったのに……。
こんなに傷ついて……。
玄関ドアが叩かれて、荷物が届く。
「ああ、いつもの荷物かな?」
涙を拭って、俺は荷物を受け取る。
「いつもの?」
「うん。毎年、誕生日に花が届くんだ。誰からかは、分からないんだけれども、親父も受け取っておけって言うから、きっと親父の知っている人。ここ数年、毎年、同じ花が届くんだ」
花は二つ。それぞれ、『リオスへ』『シロノへ』と名前が書かれている。
俺への花は、勿忘草。シロノへの花は、青いヒヤシンス。
送り主の名前は、今年もない。
シロノは、花を嬉しそうに見ている。愛しそうに花を撫でるシロノ。
「ふうん……」
「シロノさん、ひょっとして、誰からのプレゼントか分かっていたりします?」
リンネの言葉に、シロノの肩がピクリと震える。
「え、そうなの? 誰?」
確かに、聡明なシロノなら、相手を察することができているのかも。
「勿忘草の花言葉は『私を忘れないで』、青いヒヤシンスは『変わらぬ愛』なんです。それで思い浮かぶ人はいませんか?」
リンネの言葉に、俺の脳裏に一人の人物が浮かぶ。
俺に忘れるなって言う人物。シロノに、変わらぬ愛を語る人物。
「まさか、セシル様?」
驚く俺に、
「いえ、そんな。かもしれないだけで、確認したことはありません。誰か、父の知り合いかも知れませんし……」
と、シロノが慌てる。
「え、でも、セシル様なのだとしたら……『変わらぬ愛』って、こんな花を贈られていたのに、どうしてそんな! パーティに出ないだなんて!」
なんだ。よかった。俺が知らないだけで、セシルとシロノは、二人してこんなやり取りをしていたんだ。俺が余計なことをしなくても、あの初めて会った幼い日以来、ちゃんと二人の間には、温かい心が通っていたんじゃない? シロノの恋心がちゃんと実るなら、俺は嬉しい。
「そうだとしてもなんです! だって、わたくしみたいな嫌われ者が正妃なんて万一にでも選ばれれば、セシル様がご苦労なさるに決まっています!!」
シロノは、そう叫んで、自分宛の花を抱えたまま部屋に引きこもってしまった。
何があったのかは分からないが、アスナは、シロノに集中攻撃をしていたのだろう。
すっかりシロノの心は折れている。
さて、どうしたらいいのだろうか?
パーティに出なければ、正妃になる資格すらない。
だけれども、あのシロノ様子。パーティに出る気にすらなれなさそうだ。
強張る顔で、無理矢理笑顔を作るシロノ。
グスタフの、悪宰相と噂される者の子であれば、恋することも許されないの? 他の娘たちは、何にも気にせずに、ひょっとしたらと明るい思いで参加することに、悪役令嬢だと言われてしまったシロノは、参加することも悪だと言われてしまうの? こんなに優しく努力家のシロノなのに。
俺の目には、涙が溜まる。
俺のしなければならないことは、アスナの計略を阻止することでも、シロノをセシルに売り込むことでも無かったのかもしれない。
俺は、何よりもこの可愛い妹の心に寄り添って、傍にいてやるべきだったのに……。
こんなに傷ついて……。
玄関ドアが叩かれて、荷物が届く。
「ああ、いつもの荷物かな?」
涙を拭って、俺は荷物を受け取る。
「いつもの?」
「うん。毎年、誕生日に花が届くんだ。誰からかは、分からないんだけれども、親父も受け取っておけって言うから、きっと親父の知っている人。ここ数年、毎年、同じ花が届くんだ」
花は二つ。それぞれ、『リオスへ』『シロノへ』と名前が書かれている。
俺への花は、勿忘草。シロノへの花は、青いヒヤシンス。
送り主の名前は、今年もない。
シロノは、花を嬉しそうに見ている。愛しそうに花を撫でるシロノ。
「ふうん……」
「シロノさん、ひょっとして、誰からのプレゼントか分かっていたりします?」
リンネの言葉に、シロノの肩がピクリと震える。
「え、そうなの? 誰?」
確かに、聡明なシロノなら、相手を察することができているのかも。
「勿忘草の花言葉は『私を忘れないで』、青いヒヤシンスは『変わらぬ愛』なんです。それで思い浮かぶ人はいませんか?」
リンネの言葉に、俺の脳裏に一人の人物が浮かぶ。
俺に忘れるなって言う人物。シロノに、変わらぬ愛を語る人物。
「まさか、セシル様?」
驚く俺に、
「いえ、そんな。かもしれないだけで、確認したことはありません。誰か、父の知り合いかも知れませんし……」
と、シロノが慌てる。
「え、でも、セシル様なのだとしたら……『変わらぬ愛』って、こんな花を贈られていたのに、どうしてそんな! パーティに出ないだなんて!」
なんだ。よかった。俺が知らないだけで、セシルとシロノは、二人してこんなやり取りをしていたんだ。俺が余計なことをしなくても、あの初めて会った幼い日以来、ちゃんと二人の間には、温かい心が通っていたんじゃない? シロノの恋心がちゃんと実るなら、俺は嬉しい。
「そうだとしてもなんです! だって、わたくしみたいな嫌われ者が正妃なんて万一にでも選ばれれば、セシル様がご苦労なさるに決まっています!!」
シロノは、そう叫んで、自分宛の花を抱えたまま部屋に引きこもってしまった。
何があったのかは分からないが、アスナは、シロノに集中攻撃をしていたのだろう。
すっかりシロノの心は折れている。
さて、どうしたらいいのだろうか?
パーティに出なければ、正妃になる資格すらない。
だけれども、あのシロノ様子。パーティに出る気にすらなれなさそうだ。
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