上 下
54 / 59

魔女と聖女

しおりを挟む
「おのれ! 魔女め!」

アスナの取り巻きが、アスナに変わって叫ぶ。
言うに事欠いて魔女って……。なんだよ。魔法が使えるなら、ぜひ使ってみたいものだ。

「魔女? わたくしが? そのような馬鹿げたことをどのように証明なさるの?」

俺は、超余裕の笑みを浮かべる。

「父も兄もあれほどの魔性! シロノよ! お前の本性もたかが知れている! どれほど雄弁に周囲を騙しても無駄だ!」

だから、それを証明してみせろよ。そもそも、俺が魔性って、ただのポンコツですが?

「魔女の首を刎ねよ! 刎ねれば、そこから黒煙が上がり、全てを証明する!」

は? え? なんだそれ?
そんな訳ないだろう! ていうか、それ、黒煙上がんなくっても、すでに死んでいるよね?
いや~間違えちゃった♪ で、済む話ではないよね?

「おお、古来から魔女の証明は、そのようになされてきた!」

 アスナの取り巻きから賛同の声があがる。
群衆に紛れたアスナの支持者から、大きな拍手が上がり、首を刎ねよ、と声があがる。
いや、それ古来だからだろう? 迷信横行するいにしえならではのバカげた証明方法だ。

 まてまてまて!! 理屈どこ行った!

四方から現れたおよそ正妃候補とは思えないガタイの良い男達に、俺は縛られて無理矢理壇上にあげられる。潜んでいたんだ。初めからこういう筋書きだった。

 こんな大騒ぎを巻き起こしたら、アスナ自身だって、正妃候補から外されそうだけれども。

もはや理屈ではないのだろう。
誰かから受け取ったであろう剣を構えたアスナの手が震えている。
アスナを信じるあまりに狂気的になった周囲に圧されて、アスナ自身、もう自分が始めてしまったことに後戻りが出来なくなってしまっているのかもしれない。

 可哀想に……。

「アスナ……」

ニコリと微笑む俺を、アスナの涙目が見つめる。
誰かに頭を乱暴につかまれて、俺は、土下座するような恰好をさせられる。

「我らが聖女、アスナ様。この魔女に正義の鉄槌を!」

冷たい剣先が俺の首筋に当たる。微かに剣先が震えているのは、アスナの怯え。
会場は、アスナを指示する者の歓声と、思わぬ光景に怯える悲鳴で騒然となっている。

これ、俺はもうだめかもしれない。

もし、俺の首が飛んだら、さすがにカツラも落ちるだろう。そうしたら、俺だとバレるかな?
俺が、魔女ではないと証明されれば、双子のシロノも魔女でないと分かってもらえるかな?
それでも、なおシロノを再び断罪することになるのだろうか?

一つ思うことは、シロノがこの場に居なくて良かったということ。
俺で良かった。

願わくば、許しを愛するシロノに……そして、可哀想なアスナにも……
しおりを挟む

処理中です...