俺の妹が悪役令嬢?そんなの兄の俺が許さない!

ねこ沢ふたよ

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記憶は戻った

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 思い出した。完全に思い出したぞ。
 あの日のことを。
 あの日、セシルを刺した時、うろたえる俺の頬を、メイド長が平手打ちして、その勢いで舟に俺は頭をぶつけたんだ。

 気を失った俺は、その後で大きなベッドで目覚めた。
 セシルを刺してしまったショックで呆然とする俺。
 記憶は、もうその時には定かではなくて、何が起きたのかすら分かっていない俺。

「大丈夫かな?」

「目覚めているのに、お兄様返事してくれませんね?」

心配するシロノとセシルが覗き込む。

「そうだ! 絵本で見た方法を試してみよう!」
セシルが、ベッドにのぼって俺に近づいてくる。

 そう、俺が病弱すぎて世間知らずのお花畑少年だったのと同じように、セシルもまた王太子として究極に温室育ち。彼もまた、ちょっとお花畑脳だったようだ。
 セシルの見た絵本。それは、『白雪姫』
 王子様のキスは、目を覚ます効果があるものだと思い込んでいたのだろう。そして、セシルは王太子。はい、何が起こったのかは、もう分かりますね。
 いつまでも呆然としている俺にセシルがキスする。

 目の前で起きた事態にびっくりするシロノ。
 そりゃあ、自分で思い出せっていうよな。これは。

「セシル様?」

あまりのことに驚く俺。
さすがに、セシルの名前は覚えていたようだ。

「良かった! 起きたんだな! 今、医官を呼んでいる」

俺が起きて喜ぶセシル。
慌てて医官を呼ぼうと部屋を飛び出す、聡明なシロノ。

「セシル様? 今キスして……。どうしましょう。俺、お嫁さんですか?」

そう、絵本では、キス=結婚なのだ。白雪姫も、シンデレラも、そうやって結婚していた。
病弱で一日のほぼ全てをベッドで過ごすことが多かったリオス君の世界は、絵本で完結していたのだ。

「せ、責任は取る!」

セシル君? いいんだよ? そんなところで謎の責任感を発揮しないでも……。

「わあ、じゃあシロノも一緒に!」

こらこら、リオス君? シロノをそんなのに巻き込んだら可哀想だろう?
医官に声をかけて戻ってきたシロノ。

「すぐに来て下さるそうです」

唯一まともなシロノを手招きでベッドの上に。

「今ね。セシル様と約束したんだ! シロノも一緒だよ! 一緒にセシル様にキスしよう!」

 無邪気なリオスは、シロノを巻き込む。
 たぶん、一連の出来事を通して、もうセシルに恋をしていたシロノは、よく分からないままに、お花畑脳達の世界に素直に巻き込まれた。

 俺とシロノは、セシルを挟んで、二人でセシルの頬にキスをする。
 そして、二人をお嫁さんにして下さい発言……。その後医官が来て、記憶が抜けていることが発覚して……。

 ……。

 完全なる黒歴史だ。

 記憶を取り戻して、縛られたまま悶絶する俺。

「これにて、正妃としての正式な誓約とする!」

追い打ちをかけるように、大臣の宣言に、広場が湧く。

チラリと隅をみれば、なにやらイラつくマキノ、俺と同じように目が点になっているシロノ、頭を抱えるリンネ、そして、爆笑するフランネとユーカスが見える。
? 何で、そんなに喜んでいるの? メリッサ?
? 何で、膝から崩れ落ちているの? ロージイ?

 うん、シロノ。お兄ちゃんも、意味が分からないんだ。これは、どっちが正妃になったことになっているんだろうね?

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