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二度目の旅
繋ぎ止める銀の指先:ヴィクトールの特注の義手
ニルスの右肩から先は、ミハイルの治癒魔術とクラリスの聖力をもってしても、元通りになることはなかった。傷口は塞がり白く滑らかな肌になったが、彼が『勇者』を自ら辞めた代償として、右腕を失ったという事実はあまりにも生々しく鮮明に刻まれていた。
「……ぁっ、そう、だった……。」
ニルスと旅を再開した後、食事の時や荷物を持つ時、ふとした瞬間に今はない右腕を動かそうとして、空を切る際のニルスの寂しげな視線。ヴィクトールはその表情を、誰よりも機敏に感じ取っていた。
「ニルス、少し時間をくれないか。王都一の細工師に、あるものを発注していたんだ。それを今から渡したい。」
ある日の夕暮れ、ヴィクトールは一つの木箱を差し出した。
中に収められていたのは、鈍い銀の光沢を放つ、精巧な義手だった。
それは武骨な武器や鎧の一部などではなく、指の一節一節が驚くほど滑らかに動くよう設計された、工芸品のような美しい一品だった。
「これは……」
「私の騎士団時代の給与と、授かった勲章をすべて使って作らせた。……重すぎる、とニルスは怒るか?」
ヴィクトールは自嘲気味に笑った。
ニルスの右腕を自ら切り落とさせてしまったのは、自分達の無理解だ。ならばその欠落を埋める一助となるのは、自分の役目であると強く思ったのだ。
ヴィクトールは木箱から慎重に義手を取り出すと、ニルスの肩に革帯を回し、しっかりと義手を固定していく。
「この義手には、ミハイルに『魔力の伝導率』を極限まで高める術式を組み込んでもらった。君が心の中でイメージし、それを念じるだけで、思い通りに指先が動くはずだ。」
ニルスが恐る恐る念じてみると、銀の指が微かな音を立てて曲がり、ヴィクトールの差し出した無骨な手を頼りなげに握り返した。
冷たい金属の感触。けれど、その奥にあるヴィクトールの手の熱が、義手を通じて伝わってくるようだった。
「……ヴィクトール。これじゃあ、これじゃあ俺、ずっと君に守られてばかりだ。」
「構わない。私は君の騎士だと言っただろう。君が一人で抱えきれない重荷は、この銀の腕が、そして私が引き受けてみせる。」
ヴィクトールは、ニルスの銀色の右手を、自分の両手で包み込むように握った。
かつて聖剣を握っていた右腕は、戦うための道具ではない。
仲間と手をつなぎ、共に食事をし、いつか愛する誰かの頬に触れるための……『生きるため』の腕として、新しく生まれ変わったのだ。
ニルスの目から、ポロポロと涙がこぼれ落ちた。
銀の指先はヴィクトールの手を握り返し、ぎゅっと掴んで離さなかった。その力強さは、ニルスがこの世界に留まろうとする、確かな意思の現れだった。
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