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ドキドキデート!?

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「みーちゃん、こっちに美味しそうな物があるよ」
「わ、わあホント~!」

「……ぷ、ふふ」
「わ、笑わないで。連くん!」

 あの後――
 連くんが街で服を用意してくれた後。
 私と連くんは、一般市民へと変装していた。
 そして現在。
 男の人が通ったと見られる、秘密のショートカットの入り口まで移動している最中。
 入り口はココと、確実に分かっているわけじゃないから、手探りしている状態。
 家の間、お店の裏。少し外れた森の中――
 様々な場所に寄り道をしながら、私たちは入り口を探した。
 だけどスター国の人達とすれ違う事もあるから、怪しまれないようにデートしているフリをして探している――というわけだ。

 お忍びデート。
 真剣に入り口を探さないといけないのに、心がどこか浮ついて、仕方ない。
 だけど、それは私だけではないようで……。
 どこか気の緩んだ顔の連くんも、嬉しそうに私を見て笑ってくれていた。

「まさか、異世界で美亜とデート出来るなんてね」
「ほ、本当だよね。夢みたい……」

 この世界が夢、なら良かったんだろうけど……。敵国同士なんて嫌だし。
 だけど、今この瞬間においては、この世界が存在して良かった、ともいえる。
 だって、本来なら私たちは――

「俺が校舎裏に呼び出した日の事、覚えてる?」
「! 私も今、その事を考えてた」

 そう。私と連くんは、二人きりで校舎裏にいた。
 その時、上から何かが降って来て、私を守るため連くんが覆いかぶさってくれて――
 そこからは、記憶がない。
 でも、なんとなく分かる。
 転生したって事は、私も連くんも、死んでしまったんだろうなって。

「私達には、デートはもう叶わないって思ってたから……。
 今、夢が叶って嬉しいな」
「俺もだよ、美亜」

 泣きそうになる私の手を、ギュッと握ってくれる連くん。
 その力強さが、連くんが生きてるって事を実感させてくれて……。
 嬉しくて、やっぱり泣きそうになった。

「私を庇ってくれて、本当にありがとう。
 私たち、きっと死んじゃったんだよね?
 連くんまで道連れにして、本当にごめん」
「ううん、これでいいんだ。
 じゃなくて……これが、いいんだよ。
 だって俺は、美亜がいないと……」
「連くん?」

 急に顔を赤らめた連くんが、とっても可愛く思えて。
 つい「その顔を、もっと見たい」って思っちゃった。

「ねぇ連くん。聞いてもいい?」
「ん?」

「あの日、校舎裏で……。
 私に、何を言おうとしてたの?」
「それは……」

 また、赤くなった顔。
 どうやら連くんは、不意打ちに弱いみたいだった。
 だけど、すぐに立場は逆転する。
 連くんは「俺も聞きたいことがあるんだ」と、ポケットから見覚えのある紙を出した。

「この前、手紙を貰った。
 その手紙には、こう書いてあった」

 ――次に再会した時、連くんに「好き」って伝えたいです

「これは、いつ聞かせてくれるの?」
「そ、それは……!」

 そう言えば、手紙にそんな事を書いた記憶がある!
 まさか会えるなんて思わなかったから。
 まさか、こんなにすぐに夢が叶うなんて思わなかったから……どうしよう。

 今、すっごい恥ずかしい!!

「い、意地悪~!」
「ふふ、お互い様だよ」

 私たちは、言葉に出来ない想いを、お互いの手に込めた。
 ギュッ、ギュッと。
 まるでキャッチボールをするみたいに、交互に繋がった手に力を込める。

「じゃあ、次に会った時の楽しみに取っておこうか」
「え?」

「今日は、俺も会えるとは思わなかったからさ。
 これ以上のサプライズを貰ったら、なんかもったいない気がするよ。
 だから、次回まで取っておく」
「連くん……」

「だから美亜。次に会う時までに、あのフレーズを言う心の準備をしておいてね」
「あのフレーズ……」

 ――好き

「俺も、校舎裏で言いたかった気持ちを伝えるから。ね?」
「連くん……、うん。約束!」

「約束」
「へへッ」

 そうして、私と連くんは小指を出して約束した。
 キュッとつながった小指は熱を帯びていて、燃えるように熱かった。

「指切りげんまん――」
「――ゆびきった!」

 そうこうしていると、顔を土で汚したネネちゃんがやって来る。

「連、入口を見つけたよ!
 穴の中にあった!」

「美亜!」
「……うん!」

 私と連くんは頷き、入口へ移動する。
 そうして、明らかに人工的な物で掘られたような穴を見つけた。

「地下に繋がってるみたいだね。
 中には、誰かいるのかな?」
「今、ロロが入って無人か確認してるよ。
 ほら、帰って来た!」

 すると、ネネちゃんと同じように、顔を土で汚したロロが、ひょっこり穴から顔を出した。

「誰もいなかった!
 通るなら今だぜ!」

「じゃあ、美亜」
「うん……。私、行くね」

 繋いでいた手が、ゆっくりと離れる。
 すると連くんのぬくもりが、すぐに私から逃げて行った。

「あ……」

 それが、妙に寂しくて悲しくて……。
 今はこんなに近くにいるのに、またしばらく会えないのかと思うと……辛かった。

「うッ……。嫌だ、行きたくないよぉ」
「美亜……」

 連くんは困った顔をして、私と身長が同じになるように、屈んでくれた。
 そして、頬にそっと手をあてる。

「また絶対に会おう。
 その時は、コソコソ会うんじゃなくて、王子と王女として会おう。堂々とね」
「でも敵国だから、それは叶わないんじゃ……」

 言うと、連くんはグッと唇に力を入れた。
 そして――

「心配しないで。
 俺が絶対、なんとかするから。
 だから、君も頑張るんだ。美亜」
「!」

「俺は、国とか関係なく、いつか美亜と毎日を過ごしたいって。そう思ってるんだよ」
「わ、私も……っ」

 すると、連くんがギュッと私を抱きしめる。
 まるで「大丈夫だよ」って、そう言ってくれるみたいだ。

「美亜、また会おう。
 その時に、俺は校舎裏で言いたかった言葉を言うから」
「うん。私も、手紙に書いた言葉を、必ず言うから。
 だから――」

 絶対に、また会おうね

 その言葉を最後に、私と連くんは別れた。
 最後は泣きすぎて、視界がぼやけて、よく見えなかったけど。
 それでも――
 私を思ってくれる連くんの想いの強さを、私はハッキリと、この目で見た気がした。

 でも。
 連くんばかり見ていたから、いけなかったのか。
 連くんの後ろで、険しい顔をしているネネちゃんの事に、私は気づくことが出来なかった。
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