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六日目

1.

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「どうして、私の名前が”音羽”って知ってるんですか?」
「実は、俺――」
「……っ」

 どんな答えが来るのか、つい身構えてしまう。だけど配達員さんが言ったのは、実にシンプルなものだった。

「トミ子さんから、よく音羽さんの話を聞いていたんです。”可愛い自慢の孫がいる”と、いつもおっしゃってましたから」
「え……あぁ!おばあちゃんから、私の事を聞いていたんですね」

 なるほど。それなら納得だ。

「初対面の俺に、いきなり名前で呼ばれても気持ち悪いかと思って。今まで黙ってました、すみません」
「いえ、むしろ……ありがとうございます」
「え?」

 驚いた顔で私を見る配達員さんに、私はもう一度。お礼を言った。

「私の名前を記憶するほど、おばあちゃんの話を親身になって聞いてくれて……ありがとうございます。おばあちゃん、嬉しかっただろうな」
「いえ、そんな」
「あ!せっかくだし、これからは音羽って呼んでください。私は――”待ち人さん”ってお呼びしましょうか?」
「! 俺のSNSアカウント名ですね」
「ふふ」

 珍しく冗談を言って笑う私を見て、配達員さんが「まいったな」と眉を下げて笑った。

「待ち人じゃなくて、柊と呼んでください」
「ひいらぎさん。綺麗なお名前ですね」
「いえ――“音羽”には負けますよ」
「!」

 思わずこっちが照れるような事を、さり気なく言ってしまう柊さん。私は赤く火照った自分の顔を隠すように、いそいで俯いた。



 六日目の朝。

「今日のひらがなは何だろう」

 もはや私は、片付けに来ているのか、荷物の謎を解きにきているのか分からなくなった。きっと、後者が大半を占めている。
 といっても、熱中症で倒れた後もココに通っている事は、お母さん達には内緒にしている。それなら、むしろ片付けない方がいい気がする。勝手に家が整理整頓されてる!って、大騒ぎしそうだもん。

「なら、潔く。謎解きに専念しますか」

 今日までのひらがなを確認するため、床に並べてある文字たちに目を移す。

 たすけてあ――

「何度みても、謎すぎる……」

 床に置かれたひらがなを何度見ても、答えは全く出ない。やっぱり今日のひらがなを待つしか、手はなさそうだ。
 八方塞がりにため息をついた時、柊さんからメッセが届いた。
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