大嫌いなキミに愛をささやく日

またり鈴春

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二人の始まり

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 思えば、小学校の頃からだったと思う。
 私のプライドが、ぐんぐんと大きくなっていったのは。

 小学校で勉強が人より出来るようになってから、
 私の世界は、勉強だけになった気がする――


「お~すごいじゃないか凛。またテストで百点とったんだな」


 小学生の頃。
 お父さんから褒められる度に、私の鼻は伸びに伸び、


「三田がクラスの皆に分からない所を教えてやってくれるから助かってるぞ」


 学校で先生から褒められる度に、優越感は満たされていった。

 クラスの皆も私に宿題を教えてと言ってくれたり(宿題を写させての方が多かった気もする)、何だかんだ頼られている感はあった。


 だから、油断していた。


 小学校を卒業して、中学校に入学した時。
 アイツに出会って、私の生活は百八十度変わってしまったのだ。


 私:三田 凛(みた りん)

 平凡な優等生
 勉強だけ出来る(それしか得意がない)
 長いこげ茶の髪
 宿敵はアイツ


 アイツ:鳳条 煌人(ほうじょう あきと)

 顔良し頭良し
 スポーツ万能
 背が高い
 鳳条グループの社長の息子=お金持ち
 薄い茶色の髪


「キャー鳳条くーん!」
「鳳条くんが学年一位なんだって!」
「勉強もスポーツも出来てイケメン…!」
「まるで王子様だよね~♡」


 中学に入学してから、私は百点を取ることはあっても、一位になる事はなかった。

 全ては……アイツのせいで。





「おーい、凛。なに寝てんだよ。もう皆かえったぞ」
「……」


 机に伏せていた顔を上げて、周りを見る。
 本当だ、誰もいない。


「嫌な夢を見てた……」
「じゃあ俺は出てないな」
「(思いっきり出てたよ)」


 中学校に入学して二か月が経ち、今は六月。
 梅雨の季節。


「今日も雨か。傘わすれたんだよな。最悪」


 私の前の席の煌人は、椅子に座って、窓の外をボーっと眺めていた。
……あれ?


「煌人、どうして帰らなかったの?」
「……」
「その目は何」


 いつも煌人が一緒にいる友達がいない。
 傘がないなら、入れて帰ってもらえばよかったのに。


「友達と相合傘がそんなに嫌だった?」
「ちげーわ」


「いや男同士で相合傘は嫌だけど」と、プッと吹き出す煌人。
 イケメンオーラがぶわっと出て来たみたいで、寝起きの私には眩しい……。


「いつもの執事さんが迎えに来るの?」


 あ。それを待ってたとか?
 だから帰ってないのか。

 そんなどうでもいい事を思った後、自分も帰るために荷物の整理を始める。
 すると煌人は、顎に手を置いたまま。
 じーっと、私の行動を見ていた。


「……そんなに見られると、やりにくい」
「俺に構わず続けたら?」
「じゃあ見ないでくれる?」


 二か月前の入学式で、初めて出会った煌人。
 私の唯一の特技である「勉強」を奪った張本人を、私が好きになるわけもなく。
 そして勝手にライバル視していた所、何の因果か。煌人に目をつけられてしまった。


『三田さんって俺の事を嫌いだよな?』
『(なぜそれを……!?)』


 その頃から、顔を合わせればお互いに嫌味を言い合っている(主に私が)。


「凛ってさ、何でそんなに俺を拒否すんの?」
「気に食わないから」


 迷いなしで本音を言うと、煌人は笑った。
「すっげー直球」って吹き出しながら。


「俺は凛の事まぁまぁ好きなのにな」
「げ……やめてよ。気持ち悪い」
「本当だって」


 伏し目がちに言う煌人。
 そもそも、私たちが名前で呼び合っているのは、いつの日か煌人に勝負をもちかけられたのが始まり。


『なぁ。次のテストで俺の方が点数が良かったら、俺の事を名前で呼んで』
『え、なんで?』

『そんで、俺もお前の事を名前で呼ぶから』
『なんで!?』


 そのテストで見事に私が負けたわけだけど……。
 名前で呼び始めて二か月。
 未だに「煌人」と呼ぶのは慣れない。

「で、さっきの凛からの質問の答えだけど」
「?」


 何か質問したっけ?と思っていると、煌人が私の長い髪を一束だけ手に取った。
 サラサラと、まるで大切な物を扱うみたいに……丁寧に髪を触っている。


「ちょ、ちょっと……!」
「ん?あ、悪い」
「(び、ビックリした……)」


 ただ煌人に髪の毛を触られているくらいで……どうも居心地が悪い。そうか、きっと嫌悪感だ。
 不用意に触るなって言おう――と。私がそう思っていた時。
 煌人が「質問の答えだけど」と、さっきと同じ言葉を繰り返した。


「今日、傘を持ってこなかったのは、わざと。
 ついでに、友達と一緒に帰らなかったのも、わざと」
「え?」

「今日は執事も迎えに来ない」
「じゃあ……」


 何のために、ずっとここにいたの?
 そう聞くと、煌人はニッと笑って私を見た。


「寝てる凛を一人残して帰れるかよ」


 そんな事を言いながら。


「わ、私?」
「そー。学校で一人寝るとか、無防備すぎ」
「む、無防備って……」


 そんな、たかが学校で……。


「クマが出てきて私を食べるわけじゃあるまいし、」
「おい待て。なんでクマ?」

「ヒグマが出てきて私を攻撃するわけでもあるまいし、」
「だから何でクマ?」


 ハンと笑ったのは、私の方。
「本当、煌人はお坊ちゃんだよね」と言葉が出て来た。


「一般人は学校で寝ることもあれば、電車やバスの中で寝ることもあるんだよ。お抱え付きの運転手がいる煌人には分からないだろうけどね。みんな隙あらば、どこでも寝てるもんだよ」
「……」
「(あ、しまった)」

 煌人はちょっと変わったところがあって、自分が社長の息子だという事を自慢したがらない。
 むしろ、こっちから家柄の事でイジると……こんな感じに、途端に不機嫌になったりする。

 それでも、一般人の私から見たら「煌人=お坊ちゃま」を切り離せないわけで。
 こうやって、たまに地雷を踏んでしまう。


「ねぇ……怒った?」


 おずおずと聞くと、煌人は頷く。
 その顔には、やっぱり「不機嫌」の三文字が浮かんでいた。


「俺が家の事を言われるのが好きじゃないって知ってて、わざと、」
「いや、わざとではないよ。無意識」
「余計にタチ悪いわ」


 だから――と煌人は言った。
 ガタッと席を立って、私の方を向いて。
 そして私の手首を捕まえて、不敵に笑う。


「怒ったから、これから凜を困らせようと思う」
「困らせる……?」
「そう」


 入学した時から、煌人の存在には困らされているのに。これ以上、何があるんだろう。
 そんな呑気な事を考えていた私は、


「凛、よく聞いて」


 この後、煌人の言う通り。
 本当に本気で、史上最大級の困り事を抱える羽目になる。


「俺がお前を好きって言ったら、どうする?」
「…………へ?」


 静かな教室。
 聞こえるのは、降り続く雨の音だけ。
 そして、


「……っ」
「(あぁ、これは本当……困った)」


 私の目の前には、顔を真っ赤にした煌人。
 さっきの言葉は、決して冗談じゃなかったんだと。
 煌人を見ただけで、充分に分かってしまった。
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