大嫌いなキミに愛をささやく日

またり鈴春

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*煌人*

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*煌人*





俺、何か間違った事を言ったのか?



お前の家は、お父さんが料理するんだな――



何気なしに言った言葉。
完璧に悪意なしの、純粋な疑問。
それをぶつけただけなのに、どうしてだよ。凛。


「(なんでそんなに、悲しそうに笑ってんだよ)」


気になって、深く聞こうか迷っていた。

その時だった。
ガラッっと。ドアが開く音がして、俺たちの視線は集まる。

凛の「お父さん」に――


「や、お待たせ。凛」
「ううん、全然だよ」

「……」


俺は、失礼と分かっていながらも二度見した。

いや、二度見どころじゃねぇ。目をゴシゴシかいた後に、三度、四度と……何回でも「お父さん」を見た。

すると、凛がパシッと。
俺の頭にチョップを入れる。


「煌人、見過ぎ」
「いや、だって……!」


俺の目の前にいる凜の「お父さん」。

その人はビックリするくらいに……若かった。


「初めまして。凜の父の三田 真(まこと)です。いつも凜がお世話になってるね」
「あ、初めまして。鳳条煌人です。こちらこそお世話になってます」
「……」
「……あの?」


ジッと俺を見る「お父さん」こと――真さん。

「君が煌人くんか」とニコリと笑みを浮かべた。


「凛からいつも話を聞いているよ。勉強で凜より上をいくなんて、すごい事だ。君は相当の努力家なんだね」

「いや、そうでもないですけど……」


遠慮して言うと、凜がギロリと睨んで俺を見た。

努力をせずに私に勝ったの?と。
そう言わんばかりの顔だ。


「凛さんと切磋琢磨できるので、いつも良い刺激を貰っています」


当たり障りのない言葉で返すと、真さんは「ふぅん」とニヤリと笑った。

まるで好青年のような黒い髪の毛に、スッキリした顔だち。スーツもオシャレに着こなしている。


「(これだけオシャレな(=高い)スーツを買って着ているって事は……すごい給料が良いんだろうな。どこの有名企業に勤めてんだよ。

ってか、何でお父さんなんだよ。三者面談って、普通はお母さんが来るんじゃねーの?)」


もしかして――親バカ?

失礼を承知で予想していると、凜が「あのね」と、俺と真さんの会話に入ってくる。


「煌人が、お父さんの作った唐揚げが美味しいって言ってくれたよ!」
「! ば、今言うんじゃねぇよ!」


なんか恥ずかしいだろうが!

顔を赤くする俺の事は二の次で、凜は真さんの傍に寄る。

すると真さんは、フッと肩の力が抜けたように、柔らかい表情になった。

その視線は、隣に来てくれた凜へと向いている。


「そうか。手間をかけて作ったから、喜んでくれたら嬉しいよ。凛も、また作ってあげるからね」
「うん!」

「(なんか……)」


真さんが若いせいなのか……。凛が隣に立つと、歳の差カップルみたいに見えて、気に食わない。

いっそ年齢を聞いてみるか。


「失礼ですが、真さんって……」
「はは、聞かれると思った。今年27歳だよ」
「27!?」


思わず大きな声を出した俺を、凛が再びチョップする。

いや、でも……だって、普通ビックリするだろ!


「凜が13だから、真さんが14の時に凛は生まれたのか……?」


すると真さんは「計算が早いね」と笑う。
けれど、次には眉を八の字にした。


「凛、お友達にまだ言ってなかったの?」

「!」


真さんの言葉を聞いて、凛は一瞬ビクリと肩が揺れた。

視線もキョロキョロと動いていて、いつもの凛らしくない。


「(なんだ?)」


俺が疑問を覚えていると、


「……煌人は友達じゃないから、話す必要ないかなって」
「お前……」


凛への心配は、すごい暴言で返された。


「(俺への対応が相変わらず容赦ないな!)」


だけど凛と真さんの話しぶりから察するに……

どうやら、何かわけがありそうだ。

「聞いてもいいですか?」と話を掘り下げようとしたが、凛が「それより」と会話を中断する。


「お父さんお仕事でしょ?早く戻って?」
「そう?もうちょっと凛のお友達と話がしたかったんだけどなぁ~」


笑いながらも、やはり仕事に戻るのか。

真さんは階段を目指すため、つま先の向きを変えている。


「煌人くん、またウチに遊びにおいで。お友達から凜の事をたくさん聞きたいし」
「だから煌人は友達じゃないって」
「(ひでぇ!)」


頭から鉄槌を打たれたかのような……そんなショックを受ける俺。

すると、真さんが「煌人くん」と呼ぶ。


「(……煌人くん、か)」


年上の人に言う事じゃないと思いながら、俺はおずおずと手を上げた。


「すみません、出来れば名字で呼んでいただけますか?」
「……煌人くんと呼ばれるのは嫌?」
「嫌じゃないんですが……自分で決めてまして」
「でも凛は”煌人”って、呼んでいるようだけど?」
「!」


そこまで言われて「しまった」と冷や汗を流す。

凛にだけ「煌人」と呼んでもらいたいがために、凛の親でさえも牽制する俺って……。

「何やってんだよ……」と落ち込んでいると、真さんは渋い顔をした。


「そうなると、ややこしいんだけどねぇ」
「え?」
「ううん、こっちの話だよ。

……了解。
煌人くん直々のお願いだ。これからは鳳条くんと呼ぶことにしよう」


じゃあね、鳳条くん――と、真さんは帰っていく。

凜は「見送ってくる」と、真さんの後をついて行った。

残った俺は、眉間にシワを寄せて「うーん」と考える。


「なーんか……嫌な感じなんだよなぁ。真さん」


それに――と記憶を思い返す。


「どこかで見たことがある気がするんだよ」


そこまで呟いた時だった。

ガラッと、音がして、ドアの方を見る。
すると、担任が資料を持って教室から出て来たところだった。
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