17 / 40
*煌人*
しおりを挟む*煌人*
俺、何か間違った事を言ったのか?
お前の家は、お父さんが料理するんだな――
何気なしに言った言葉。
完璧に悪意なしの、純粋な疑問。
それをぶつけただけなのに、どうしてだよ。凛。
「(なんでそんなに、悲しそうに笑ってんだよ)」
気になって、深く聞こうか迷っていた。
その時だった。
ガラッっと。ドアが開く音がして、俺たちの視線は集まる。
凛の「お父さん」に――
「や、お待たせ。凛」
「ううん、全然だよ」
「……」
俺は、失礼と分かっていながらも二度見した。
いや、二度見どころじゃねぇ。目をゴシゴシかいた後に、三度、四度と……何回でも「お父さん」を見た。
すると、凛がパシッと。
俺の頭にチョップを入れる。
「煌人、見過ぎ」
「いや、だって……!」
俺の目の前にいる凜の「お父さん」。
その人はビックリするくらいに……若かった。
「初めまして。凜の父の三田 真(まこと)です。いつも凜がお世話になってるね」
「あ、初めまして。鳳条煌人です。こちらこそお世話になってます」
「……」
「……あの?」
ジッと俺を見る「お父さん」こと――真さん。
「君が煌人くんか」とニコリと笑みを浮かべた。
「凛からいつも話を聞いているよ。勉強で凜より上をいくなんて、すごい事だ。君は相当の努力家なんだね」
「いや、そうでもないですけど……」
遠慮して言うと、凜がギロリと睨んで俺を見た。
努力をせずに私に勝ったの?と。
そう言わんばかりの顔だ。
「凛さんと切磋琢磨できるので、いつも良い刺激を貰っています」
当たり障りのない言葉で返すと、真さんは「ふぅん」とニヤリと笑った。
まるで好青年のような黒い髪の毛に、スッキリした顔だち。スーツもオシャレに着こなしている。
「(これだけオシャレな(=高い)スーツを買って着ているって事は……すごい給料が良いんだろうな。どこの有名企業に勤めてんだよ。
ってか、何でお父さんなんだよ。三者面談って、普通はお母さんが来るんじゃねーの?)」
もしかして――親バカ?
失礼を承知で予想していると、凜が「あのね」と、俺と真さんの会話に入ってくる。
「煌人が、お父さんの作った唐揚げが美味しいって言ってくれたよ!」
「! ば、今言うんじゃねぇよ!」
なんか恥ずかしいだろうが!
顔を赤くする俺の事は二の次で、凜は真さんの傍に寄る。
すると真さんは、フッと肩の力が抜けたように、柔らかい表情になった。
その視線は、隣に来てくれた凜へと向いている。
「そうか。手間をかけて作ったから、喜んでくれたら嬉しいよ。凛も、また作ってあげるからね」
「うん!」
「(なんか……)」
真さんが若いせいなのか……。凛が隣に立つと、歳の差カップルみたいに見えて、気に食わない。
いっそ年齢を聞いてみるか。
「失礼ですが、真さんって……」
「はは、聞かれると思った。今年27歳だよ」
「27!?」
思わず大きな声を出した俺を、凛が再びチョップする。
いや、でも……だって、普通ビックリするだろ!
「凜が13だから、真さんが14の時に凛は生まれたのか……?」
すると真さんは「計算が早いね」と笑う。
けれど、次には眉を八の字にした。
「凛、お友達にまだ言ってなかったの?」
「!」
真さんの言葉を聞いて、凛は一瞬ビクリと肩が揺れた。
視線もキョロキョロと動いていて、いつもの凛らしくない。
「(なんだ?)」
俺が疑問を覚えていると、
「……煌人は友達じゃないから、話す必要ないかなって」
「お前……」
凛への心配は、すごい暴言で返された。
「(俺への対応が相変わらず容赦ないな!)」
だけど凛と真さんの話しぶりから察するに……
どうやら、何かわけがありそうだ。
「聞いてもいいですか?」と話を掘り下げようとしたが、凛が「それより」と会話を中断する。
「お父さんお仕事でしょ?早く戻って?」
「そう?もうちょっと凛のお友達と話がしたかったんだけどなぁ~」
笑いながらも、やはり仕事に戻るのか。
真さんは階段を目指すため、つま先の向きを変えている。
「煌人くん、またウチに遊びにおいで。お友達から凜の事をたくさん聞きたいし」
「だから煌人は友達じゃないって」
「(ひでぇ!)」
頭から鉄槌を打たれたかのような……そんなショックを受ける俺。
すると、真さんが「煌人くん」と呼ぶ。
「(……煌人くん、か)」
年上の人に言う事じゃないと思いながら、俺はおずおずと手を上げた。
「すみません、出来れば名字で呼んでいただけますか?」
「……煌人くんと呼ばれるのは嫌?」
「嫌じゃないんですが……自分で決めてまして」
「でも凛は”煌人”って、呼んでいるようだけど?」
「!」
そこまで言われて「しまった」と冷や汗を流す。
凛にだけ「煌人」と呼んでもらいたいがために、凛の親でさえも牽制する俺って……。
「何やってんだよ……」と落ち込んでいると、真さんは渋い顔をした。
「そうなると、ややこしいんだけどねぇ」
「え?」
「ううん、こっちの話だよ。
……了解。
煌人くん直々のお願いだ。これからは鳳条くんと呼ぶことにしよう」
じゃあね、鳳条くん――と、真さんは帰っていく。
凜は「見送ってくる」と、真さんの後をついて行った。
残った俺は、眉間にシワを寄せて「うーん」と考える。
「なーんか……嫌な感じなんだよなぁ。真さん」
それに――と記憶を思い返す。
「どこかで見たことがある気がするんだよ」
そこまで呟いた時だった。
ガラッと、音がして、ドアの方を見る。
すると、担任が資料を持って教室から出て来たところだった。
0
あなたにおすすめの小説
独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。
猫菜こん
児童書・童話
小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。
中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!
そう意気込んでいたのに……。
「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」
私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。
巻き込まれ体質の不憫な中学生
ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主
咲城和凜(さきしろかりん)
×
圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良
和凜以外に容赦がない
天狼絆那(てんろうきずな)
些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。
彼曰く、私に一目惚れしたらしく……?
「おい、俺の和凜に何しやがる。」
「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」
「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」
王道で溺愛、甘すぎる恋物語。
最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)
クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました
藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。
相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。
さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!?
「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」
星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。
「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」
「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」
ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や
帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……?
「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」
「お前のこと、誰にも渡したくない」
クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。
【奨励賞】おとぎの店の白雪姫
ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】
母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。
ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし!
そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。
小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり!
他のサイトにも掲載しています。
表紙イラストは今市阿寒様です。
絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。
図書室はアヤカシ討伐司令室! 〜黒鎌鼬の呪唄〜
yolu
児童書・童話
凌(りょう)が住む帝天(だいてん)町には、古くからの言い伝えがある。
『黄昏刻のつむじ風に巻かれると呪われる』────
小学6年の凌にとって、中学2年の兄・新(あらた)はかっこいいヒーロー。
凌は霊感が強いことで、幽霊がはっきり見えてしまう。
そのたびに涙が滲んで足がすくむのに、兄は勇敢に守ってくれるからだ。
そんな兄と野球観戦した帰り道、噂のつむじ風が2人を覆う。
ただの噂と思っていたのに、風は兄の右足に黒い手となって絡みついた。
言い伝えを調べると、それは1週間後に死ぬ呪い──
凌は兄を救うべく、図書室の司書の先生から教わったおまじないで、鬼を召喚!
見た目は同い年の少年だが、年齢は自称170歳だという。
彼とのちぐはぐな学校生活を送りながら、呪いの正体を調べていると、同じクラスの蜜花(みつか)の姉・百合花(ゆりか)にも呪いにかかり……
凌と、鬼の冴鬼、そして密花の、年齢差158歳の3人で呪いに立ち向かう──!
【完結】またたく星空の下
mazecco
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 君とのきずな児童書賞 受賞作】
※こちらはweb版(改稿前)です※
※書籍版は『初恋×星空シンバル』と改題し、web版を大幅に改稿したものです※
◇◇◇冴えない中学一年生の女の子の、部活×恋愛の青春物語◇◇◇
主人公、海茅は、フルート志望で吹奏楽部に入部したのに、オーディションに落ちてパーカッションになってしまった。しかもコンクールでは地味なシンバルを担当することに。
クラスには馴染めないし、中学生活が全然楽しくない。
そんな中、海茅は一人の女性と一人の男の子と出会う。
シンバルと、絵が好きな男の子に恋に落ちる、小さなキュンとキュッが詰まった物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる