大嫌いなキミに愛をささやく日

またり鈴春

文字の大きさ
19 / 40

*煌人*3

しおりを挟む

そして翌朝――



「いってきまーす」
「よ、凛」
「……ただいまー」
「待てまてまて!家に入ろうとすんな!」


凛がいつ家を出るか教えてくれなかったおかげで……。

かなり早い時間から、凛の家の前でスタンバイしていた俺。

するとスタンバイから二時間後。
朝の8時に、凜は姿を見せた。


「なんか煌人、汗かいてない?走ったの?」
「走ってねぇけど、太陽の光で干物になるところだった」
「ふ……意味がわかんない」


ふふと笑みを浮かべる凛。

どうやら待ち伏せしていた事は流してくれるみたいだ。

ふぅと安堵の息をついた後、気になった事を質問する。


「真さん、遅い出社なんだな」
「え?もうとっくに家を出てるよ?」
「は?」


え、なんでだ?
だって、俺が凜の家に来たの……朝の6時だぞ?
その間、家から誰も出てこなかったぞ?


「真さんの会社って、遠いの?」
「ううん。車で十分だって」
「(十分!それなのに、どうして早い時間に家を出てんだよ!)」


ますます真さんが怪しい。
怪し過ぎる……。


「……」
「煌人?どうしたの?」
「ん、いや……。何でもないよ」


ストーカーの被害に遭っている事は、凛自身も気づいている。その犯人が、本当は俺じゃない事くらい、凜も分かってるはずだ。

だとすると――今、凜は相当な不安を抱えているはず。

これ以上、俺が追い打ちをかけるわけにはいかない。


そう考えていると……


「そう言えば、私の家と煌人の家。車で十分の距離だったね。この前、執事さんに送ってもらって初めて知ったよ」
「ちょうど校区の境目だったな」
「意外に近いんだなって思って、嫌な気持ちになった」
「(なんで嫌な気持ち!?)」


明らかにショックな顔をして見せると、凛は「冗談だよ」とベッと舌を見せる。

可愛いかよ……!!と、目がハートになった俺。

その視界の隅に、


ガサッ


奴が、いた。


「! 凛!隠れろ!」
「え、なに?」
「いーから!家の中に入ってろ!!」
「ちょ、あき、」


バタン


ギャーギャー騒ぐ凛を無理やり引っ張り、家の中に戻す。

外から「鍵かけて大人しく待たねーと後でキスする」と言うと、途端に静かになった。

それはそれで腹立つな!

じゃなくて――


「さぁて、犯人のツラを拝みに行きますか」


握りこぶしで、手のひらをパンと叩く。

気合い充分、よし。


「こっちがお前の存在に気づいてるって、分かってないのか……。随分と能天気な事で」


住宅街に沿って街路樹が植えられている。

そのうちの一本に、とある影が潜んでいる。


「……いくぞ」


俺は後ろ足に力を込めて、思い切り蹴り出した。

そして、その影に向かって全力を出そうとした――


その時だった。


「はい、ストーカー確保~」
「……は?」


空振った俺の足はなすすべなく落下し、地面にドスッと尻もちをつく。地味に痛い。

が、今はそれどころじゃない。

だって、俺の目の前には、


「お前か。俺の可愛い娘を突け狙ってたストーカーは」


と恐ろしい形相で睨む真さんと、


「す、すみませんでした……もうしません……!」


気弱で軟弱そうな、メガネ男子が揃っていたからだ。


「えっと……」


どういう事?と頭を悩ます俺。

そんな俺を見て、真さんはニコリと笑った。


「三者面談の時に、先生からストーカーの事を聞いたけど、その時は既に犯人の目星をつけていてね。だけど確実な証拠が欲しくて、今日みたいに捕まえられる日を待ってたんだ」
「ま、真さんがストーカーじゃねぇの……?」
「へ、俺?」


素っ頓狂な声を出して、首を傾げた真さん。

次には大きな声で「あっはっは!」と腹を抱えて笑った。


「俺が凛のストーカーだって?勘違いも甚だしいね!」
「で、でも昨日、帰る凜を見てただろ!」
「そうだけどね」


言いながら、真さんはどこから出したか分からないロープで犯人を縛っていた。

犯人を縛って、そして蹴り転がした真さん。

その後――俺と向かい合い、今まで見た事ない真剣な表情になる。


「俺がストーキングしていたのは、君だよ。鳳条煌人くん」
「……は?俺?」
「そう。君だ」


訳が分からなくて、ポカンと口を開ける俺。

そんな俺を見て「鳳条の跡取り息子が、こんなに勘が冴えなくて大丈夫なのかな」と真さんが言いながら、見下した目で俺を見る。


「どういうことか説明しろ……」
「煌人くんの”自分で考えても無駄と悟り、自ら折れてすぐに情報を貰おうとする”、その姿勢は悪くない。でも、それじゃあゼロ点だね」
「ゼロ点……?」
「俺はね、君のご両親から言いつかった命で動いているんだ。
俺は――鳳条社長と副社長の秘書の一人だよ」
「!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

図書室はアヤカシ討伐司令室! 〜黒鎌鼬の呪唄〜

yolu
児童書・童話
凌(りょう)が住む帝天(だいてん)町には、古くからの言い伝えがある。 『黄昏刻のつむじ風に巻かれると呪われる』──── 小学6年の凌にとって、中学2年の兄・新(あらた)はかっこいいヒーロー。 凌は霊感が強いことで、幽霊がはっきり見えてしまう。 そのたびに涙が滲んで足がすくむのに、兄は勇敢に守ってくれるからだ。 そんな兄と野球観戦した帰り道、噂のつむじ風が2人を覆う。 ただの噂と思っていたのに、風は兄の右足に黒い手となって絡みついた。 言い伝えを調べると、それは1週間後に死ぬ呪い── 凌は兄を救うべく、図書室の司書の先生から教わったおまじないで、鬼を召喚! 見た目は同い年の少年だが、年齢は自称170歳だという。 彼とのちぐはぐな学校生活を送りながら、呪いの正体を調べていると、同じクラスの蜜花(みつか)の姉・百合花(ゆりか)にも呪いにかかり…… 凌と、鬼の冴鬼、そして密花の、年齢差158歳の3人で呪いに立ち向かう──!

クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。 相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。 さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!? 「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」 星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。 「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」 「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」 ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や 帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……? 「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」 「お前のこと、誰にも渡したくない」 クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

サッカーの神さま

八神真哉
児童書・童話
ぼくのへまで試合に負けた。サッカーをやめようと決心したぼくの前に現れたのは……

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

【完結】またたく星空の下

mazecco
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 君とのきずな児童書賞 受賞作】 ※こちらはweb版(改稿前)です※ ※書籍版は『初恋×星空シンバル』と改題し、web版を大幅に改稿したものです※ ◇◇◇冴えない中学一年生の女の子の、部活×恋愛の青春物語◇◇◇ 主人公、海茅は、フルート志望で吹奏楽部に入部したのに、オーディションに落ちてパーカッションになってしまった。しかもコンクールでは地味なシンバルを担当することに。 クラスには馴染めないし、中学生活が全然楽しくない。 そんな中、海茅は一人の女性と一人の男の子と出会う。 シンバルと、絵が好きな男の子に恋に落ちる、小さなキュンとキュッが詰まった物語。

処理中です...