大嫌いなキミに愛をささやく日

またり鈴春

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「これで全体練習終わり―。明日はいよいよ運動会、本番だ!みんな今日は早く寝るんだぞー。

あ、旗手は悪いけど、そのまま倉庫に旗を返却しに行ってくれー」

「あー疲れた!!」
「お疲れ様でーす」
「さようなら~」
「やっと終わったー!」
「この後さぁ――」


皆が色んな事を口々に発言する中。

私と泡音ちゃんも、着替えるために更衣室に向かっていた。


「凛ー、急ごうー?」
「うん!あ、ちょっと待って。やっぱり先に行っててくれる?」
「? あいよー。じゃあ後でね」


泡音ちゃんは「早く水筒に会いたいお茶飲みたい」と言いながら、足早に更衣室に向かった。

一方の私は……煌人が気になって、クルリとつま先の向きを変える。


「(確か……旗手は倉庫に行ったんだよね?)」


タタタと、倉庫に向かう。

すると、倉庫の入口の近くにいる煌人を見つけた。

他の旗手の人はもう片付け終わったのか、そこにいるのは煌人のみだった。


「煌人?」
「お、凛」


どうやら、倉庫にちょうど旗を仕舞う所だったらしい。

倉庫はあまり大きくないくせに、道具がギッシリ詰め込まれている。

だから、一人が中に入ったら、それだけで定員オーバーというわけ。


煌人は、倉庫の入り口に片足をかけたまま、私に尋ねた。


「凛、こんな所でなにやってんだよ?」
「え、いや……あれ?なんだったっけ」


まさか”煌人が心配で思わず来ちゃった”とは言えないし……。

恥ずかしくて、咄嗟に誤魔化した。

だけど……


「(あ、違う。誤魔化すんじゃなくて……素直な気持ちを、ちゃんと言葉にするんだ)」


変なプライドは捨てて、ありのままの自分でいようって。

そう決めたんだった。


「煌人が……」
「ん、俺?」
「煌人が、心配で……」
「……は?」
「~っ!」


「心配で」から先は、言えない!
恥ずかし過ぎて、無理だ。
絶対に言えない……!

だけど、私の言いたい事は煌人にバッチリと伝わったのか。煌人は目を開いて、じーっと穴が開くほど私を見ていた。


「凛、まさか、お前……」
「な、なに?」


すると、煌人の手がスルリと私に伸びてくる。

そして暑い外気だというのに、いやにひんやりした手を、

私のおでこにピタリと当てた。


「熱あんじゃねーの?凛」
「ね、熱……?」
「俺が心配で、とか……ねーだろ。凜がいう訳ねーし」
「……」


人がせっかく「素直になろう」って決めたのに。
その覚悟を、笑って流したな……?


「もういい。旗を貸して。私がしまう」
「は?なんでだよ。凛が持つには重すぎるって。俺がしまうから、触るな」
「触るなって言い方しなくたっていいじゃん!」
「危ないから退けろって、そう言ってんだよ!」


と。
久しぶりに言い合っていた時だった。

煌人よりも大きい旗を、煌人が片手で制御できるわけがなく……。


「やべ、おい凛!危ねぇ!」
「きゃ!?」


バタンッ


いきなりの事で、訳が分からなかった。

けど、どうやら私は、煌人に引っ張られたらしい。そして煌人は、私を引っ張って、倉庫の中に入ったらしい。

肝心な旗はと言うと……


「ねえ煌人、旗は?」
「お前にぶつかりそうになったから、凜を守るのに必死で手ぇ放したっての」
「(”守る”って……っ)」


ドキンッ


胸が鳴った私の事は、おかまいなしなのか。

煌人は「早く退けろよ」と、不機嫌な声で言った。


「重たいんだよ。狭いしキツイし、」
「わ、悪かったわね……」
「あーもう。色々ムリ……近ぇ……」
「(色々ムリって、なに……?)」


倉庫の中は、一人が精いっぱい。

なのに、無理やり二人で入ってるから、どうしても密着してしまって。

煌人が私を抱きしめてるままの状態から、動くことが出来ない。

小窓が一つついていて、かろうじて中の状態を見ることが出来た。

と言っても、こんなに狭い場所だと、目は見えても視界不良だけど。


「まずはドアを……」
「おい、やめろ。その辺……触るな」
「え、これドアじゃないの?」
「ちげーよ!ヘンタイ!!」
「へ……!」


ヘンタイって何よ!

じゃあ私、さっきは一体なにを触ったっていうのー!?


「(もう嫌だ。ドアを壊してでもいいから逃げてしまいたい……)」


もう「無」になろう。

無心で、ただひたすらドアを開けることだけに集中しよう。


そう思っていたんだけど……


ガタガタ、ガタン


今度こそ、ドアの取っ手に指をひっかけた。
だけど、押しても引いてもビクともしない。

え、なんで?


「ねえ、煌人。聞いてもいい?旗はどこ?」
「あ?だから、凛を助けるので、それどころじゃ、」


そこまで言ったところで。

学年一位と二位の――悪い勘が冴え渡る。


「まさか、旗は外にあるのか?」
「しかもドアが開かないって事は、」
「旗がストッパーの役目してるって事かよ!?」


どういう傾きで旗が挟まっているのか知らないけど、旗のせいでドアが開かなくなってるみたい。

本当、何がどうなってるの……。

早く脱出したいって思ってるのにー!!
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