大嫌いなキミに愛をささやく日

またり鈴春

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愛をささやく5

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その後――
なんとか運動会は終わり。

今は煌人と一緒に、帰り道を歩いている。

隣でゲッソリした煌人を見て、思わず笑ってしまった。


「ふふ、すごい迫力だったね。お母さん」
「過保護なんだよ。そのくせ横暴なんだ……」
「うん。でも……煌人の事を愛してるんだなって、すごく伝わった」
「……そうだな。俺も今日、それが良く分かった」


煌人は今日の一件で、なんだか肩の荷が下りたようだった。

それは、お母さんのあの言葉のおかげなんだと思う。


――今は学生らしく、服を泥だらけにして好きなように遊びなさいよ


「鳳条の息子だって、一番気にしていたのは……俺だったんだな」
「煌人……」
「なんかスッキリしたわ」


ハハハと笑う煌人。

その笑顔が、本当に爽やかな笑みで……。煌人の初めて見る顔が嬉しくて、私もつられて笑った。

すると煌人は「お前は?」と私にパスを回す。


「俺は……不格好ながらも変われたよ。親と真剣に向き合えた。すれ違ってた所を、修正出来た気がする。
凛、お前はどうだった?」
「私?」
「うん。いつか車の中で言ってただろ」


――自分のしたい事や言いたい事は、ちゃんと口に出して。煌人も……そして私も。お互いに


「あ……」


煌人の言葉に、ハッとする。

私、変われたのかな?
あの時の言葉の通り、素直に動けてる?

不安になったその時。
泡音ちゃんが言ってくれた言葉を思い出す。


――凛、最近ちょっと変わったね
――今の凛、すごく優しく見えていい感じ!


「(泡音ちゃん……)」


友達の言葉を信じたいって。
今、強くそう思った。


「自意識過剰かもしれないけど……」
「いいよ、言えよ」
「お父さんと、本音で話せるようになった。今日クラスの男子にも自分の気持ち言えたし、他校の女子にも……思った事を、そのまま言っちゃった」


言うと煌人は昼間の事を思い出したのか「そうだな」と笑った。

また、私もつられて笑ってしまう。


「私ね、お父さんから
”ただ一つでいい。他の人に誇れる事を手に入れるんだよ”
って言われた言葉を、ずっと間違えて受け止めてたなって……今そう思うの」
「間違えてた?」
「うん」


私も煌人も、目の前に広がる赤い夕陽を見ながら歩く。

静かな道路に、私たち二人だけが並んでいた。


「私ね、煌人に出会えたことが……私の人生で一番に誇れる事だって、やっと分かったの」
「……は?」


煌人の足がピタリと止まるのを見て、私も止まる。振り返ると、煌人が頭に「?」を浮かべて立っていた。

その姿が妙におかしくて……愛しくて。
ありがとう、と。
気づいたら、そう呟いていた。


「私にたくさんの事を気づかせてくれてありがとう。私を、いい方向に変えてくれてありがとう。

煌人がいなくちゃ、私はずっとプライドを守る事だけに必死になってた。煌人がいてくれたから、大事な人や大事な思いに、気づくことが出来たの」
「そ、そうかよ……」
「うん、それで……」


それでね、煌人。
遅くなったけど、聞いてほしい。

プライドも、何もかも脱ぎ捨てて。
今、あなたに本音でぶつかるから……

そんな私を、両手を広げて受け止めてほしい。


「私は……あなたが好きだよ、煌人」
「え、」
「煌人が大好き」
「――」


そして、そんな私を受け止めてくれたら、褒めてほしい。

お前は頑張ったって、頭を撫でて。

そうしたら私は煌人に抱き着いて「もっと、もっと」って、たくさん甘えるから。


そんな私を見ても、ありのままの私を見ても。

変わらず「凛、好きだよ」って、そう言ってほしい。


「煌人……?」
「あ、ごめ……。え、だって……夢?」
「ふふ、夢じゃないよ」


素直な反応が可愛くて、煌人に近寄る。

そして熱くなった煌人の手を握って、その体に寄りかかった。


「私を好きになってくれてありがとう、煌人」
「……っ、それは、こっちのセリフだっての」


煌人は私の体を包みこんで、抱きしめる。

そして私の頭を撫でながら「凛」と優しく呟いた。
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