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ギャップ
1.
しおりを挟む「もしもし、鶫下 真乃花(つぐみした まのか)さん」
「イヤ……私にさわんな」
「それは授業中に先生に言っていいセリフですか?」
「(授業中!?)」
ビックリして飛び起きる。
目の前には黒板、周りにはクラスの皆、そして私の横には――
「なんだ、センセーか」
「なんだとはなんですか」
センセーは浅いため息をついて私を見る。そうだ、思い出した。
ここは教室で、今は授業中で、授業内容は……
「英語だっけ」
「古典ですよ、鶫下さん」
そして私の隣でうるさく茶々をいれるのが、古典の教師、兼担任のセンセー。
名前を、末広 縁(すえひろ えにし)という。
なんつーか、古典の教師っぽい名前。
「縁センセー、いま何ページ?」
「今からあなたは廊下に出るので知る必要はありません」
有言実行。私は廊下に立たされた。
恨みがましく、窓から縁センセーを睨む。だけど縁センセーは私の視線に気づいている癖に、敢えて知らないフリを貫き通した。
そして、授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。
キーンコーンカーンコーン
「はあ、廊下に出ると寝れないし足が疲れるな」
ガラッ
「あ」
「今の言葉、聞きましたよ」
「(しまった……)」
最悪のタイミング。
教室から出て来た縁センセーは眼鏡の奥を光らせて、分厚い辞典を持ち替えて私を見た。
「放課後、ここに来なさい。あなたが来るまで待っていますからね」
「げぇ……」
ここ――と言われながら渡された紙には「生徒指導室」と書かれていた。
端の方に、ご丁寧に「末広」と名字が書かれている。
「ラブレターってことでいい?」
「督促状ですよ。必ず来るように」
「へいへーい」
縁センセーは眼鏡をかけている。
年は……いくつなんだろう。若いんだけど古典を教えてるせいか老け込んで見える。
背は高い。足も長いし、手の指も長い。あと、髪は茶色。
一見、暗く見える縁センセーだけど、モテる要素はある。
そういう部分から密かにファンがいると噂で聞いたこともある。
でも、私が気になるのはホクロだ。
「(どうなってんだ、あれ……)」
両耳の後ろに一つずつ、そしてこの前、センセーが前髪をかき上げた時に見えた、前髪の生え際にもう一つ……。
すごい特徴的な場所を選んでいるホクロの事が、気になって仕方ない。
「あの点と点を線で結んだら、どんな形になるんだろーな」
ふふと一人笑う。一人だけで。
なんでかって?私は友達がいないから。
あ、紹介が遅れた。
私、鶫下 真乃花(つぐみした まのか)。高校三年生。
センセーから「生徒指導室に来るように」と言われても、冗談で返せるくらいには生徒指導室に通いなれている問題児。
誰かは私のことを不良といい、
誰かは私のことを問題児という。
場違い、なんて言われたこともあったな。
「(間違っちゃねーけどよ……)」
まあ、この高校は進学校だし?
さっきも授業止めちゃった時に、何人かが私の事を睨んでいた。
でも、いいんだ。そいつらは、私にとってはただの他人だから。
私には関係のない、ただのクラスメイトだから。
「生徒指導室かーめんどくさ~」
縁センセーから貰った紙をクシャと握りつぶす。
だけど、捨てる気にはならなかった。
「ま、行ってやるか。家には帰りたくないし、ちょうどいい暇つぶしだし」
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