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胸につっかえるものを感じて、私は口に手をあてる。立っていられなくて、その場に腰を下ろした。
見かねた縁センセーがブランコからおりて、私の背中を支える。
その距離は……近い。
「服に吐くなって……言わねーのかよ……?」
「吐いて楽になるなら吐きなさい。私の服の上でも、どこへでも」
「……うざっ」
大人って分かんねー。なんで昼には冷たかったのに、今、こんなに傍で優しくすんだよ。
吐くなって言ったじゃねーか。車に吐こうとしたら怒ったじゃねーか。
それなのに、なんでこんなに優しくするんだよ。
私なんか、ほっときゃいーだろ。
「うざい……センセー、マジうざい」
「言われ慣れてます。毛ほども傷つきません。
それよりも、まだ吐き出しなさい。胸にたまっているもの、全て今、吐き出しなさい」
「……セクハラ」
「なにをいいますか、心外な」
出かけた涙を拭いながら、地面の砂を見たまま呟く。
だけどセンセーは「こういうのを揶揄って言うんです。真面目に授業を受けてないからそんな事も分からないんですよ」と、こんな時でも私をディスった。
だけど、こんな事も言った。
「あの山は神池山。神様がいる山として噂されています。大樹くん、まだ見つかりませんが、ご遺体でも見つかっていない――という事は、一筋の望みもあると、私は思いますよ」
「!」
そんなこと、初めていわれたかも……。
「母でさえ、もう諦めろと言った。大樹の両親も、この土地が辛いからと遠い所へ引っ越した。
もう誰も大樹を待っていない。神隠しにあったんだって、皆がそう思って、勝手に終わらせてる」
「そうですか。なら、鶫下さんは、どう思っているんですか?」
「え……私?」
「そうです。他の誰かが何を言おうと、あなたが思っていることを、思い続けていれば、それは、いつかきっと実を結ぶかもしれない」
「でも、あの山は池もあって、もしそこに落ちてたら、」
「落ちてると思いますか?」
「!」
今までさすってくれていた手が、ピタリと止まる。同時に、私の目から零れていた涙も、ピタリと止まった。
大樹は、そんな子じゃない。あいつは、昔からしっかりしていた。
大樹は――そんな事では死なない。
「(死んでない……私の中の私が、そう訴えかけている)」
頭の中がクリアになっていく。
霞が晴れて、私の心が長い冬から芽を出すようだった。
「大樹の死を信じられなくて、信じたくなくて、悲しくて寂しくて……もうどうにでもなれって思って、高校は不良になった」
「家ではいい子ちゃんですがね」
「うるせーよ。家でも学校みたいな態度とってみろよ。五体満足じゃすまねーよ」
「……」
「(あ、しまった)」
冗談のような本気のような言葉を言うと、センセーは少し顔を青くして黙った。しまった、ブラックジョークが過ぎたか。
私は慌てて、話を戻す。
「でも……うん、そうだな。
私も、まだ大樹が生きてるって心のどこかでずっと信じてた。
信じたかった。
だって、あんな約束しといて逃げるなんて、絶対許さねーよ。
絶対に見つける。
それで……私を嫁にしてもらって、あの家から逃げる。
大樹と一緒に逃げる。
私があの家とおさらばする時。その時に隣にいるのは、大樹しかいねぇ」
「そうですか。なら良かったです」
「え」
スクッと立ち上がり、私を見下ろす縁センセー。
その目は、学校で見るような瞳じゃなくて……。
月の光に照らされて、先生の瞳も、存在そのものさえも綺麗に見えた。
見かねた縁センセーがブランコからおりて、私の背中を支える。
その距離は……近い。
「服に吐くなって……言わねーのかよ……?」
「吐いて楽になるなら吐きなさい。私の服の上でも、どこへでも」
「……うざっ」
大人って分かんねー。なんで昼には冷たかったのに、今、こんなに傍で優しくすんだよ。
吐くなって言ったじゃねーか。車に吐こうとしたら怒ったじゃねーか。
それなのに、なんでこんなに優しくするんだよ。
私なんか、ほっときゃいーだろ。
「うざい……センセー、マジうざい」
「言われ慣れてます。毛ほども傷つきません。
それよりも、まだ吐き出しなさい。胸にたまっているもの、全て今、吐き出しなさい」
「……セクハラ」
「なにをいいますか、心外な」
出かけた涙を拭いながら、地面の砂を見たまま呟く。
だけどセンセーは「こういうのを揶揄って言うんです。真面目に授業を受けてないからそんな事も分からないんですよ」と、こんな時でも私をディスった。
だけど、こんな事も言った。
「あの山は神池山。神様がいる山として噂されています。大樹くん、まだ見つかりませんが、ご遺体でも見つかっていない――という事は、一筋の望みもあると、私は思いますよ」
「!」
そんなこと、初めていわれたかも……。
「母でさえ、もう諦めろと言った。大樹の両親も、この土地が辛いからと遠い所へ引っ越した。
もう誰も大樹を待っていない。神隠しにあったんだって、皆がそう思って、勝手に終わらせてる」
「そうですか。なら、鶫下さんは、どう思っているんですか?」
「え……私?」
「そうです。他の誰かが何を言おうと、あなたが思っていることを、思い続けていれば、それは、いつかきっと実を結ぶかもしれない」
「でも、あの山は池もあって、もしそこに落ちてたら、」
「落ちてると思いますか?」
「!」
今までさすってくれていた手が、ピタリと止まる。同時に、私の目から零れていた涙も、ピタリと止まった。
大樹は、そんな子じゃない。あいつは、昔からしっかりしていた。
大樹は――そんな事では死なない。
「(死んでない……私の中の私が、そう訴えかけている)」
頭の中がクリアになっていく。
霞が晴れて、私の心が長い冬から芽を出すようだった。
「大樹の死を信じられなくて、信じたくなくて、悲しくて寂しくて……もうどうにでもなれって思って、高校は不良になった」
「家ではいい子ちゃんですがね」
「うるせーよ。家でも学校みたいな態度とってみろよ。五体満足じゃすまねーよ」
「……」
「(あ、しまった)」
冗談のような本気のような言葉を言うと、センセーは少し顔を青くして黙った。しまった、ブラックジョークが過ぎたか。
私は慌てて、話を戻す。
「でも……うん、そうだな。
私も、まだ大樹が生きてるって心のどこかでずっと信じてた。
信じたかった。
だって、あんな約束しといて逃げるなんて、絶対許さねーよ。
絶対に見つける。
それで……私を嫁にしてもらって、あの家から逃げる。
大樹と一緒に逃げる。
私があの家とおさらばする時。その時に隣にいるのは、大樹しかいねぇ」
「そうですか。なら良かったです」
「え」
スクッと立ち上がり、私を見下ろす縁センセー。
その目は、学校で見るような瞳じゃなくて……。
月の光に照らされて、先生の瞳も、存在そのものさえも綺麗に見えた。
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