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絶対に守る*縁*

3.

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「あ!」
「鶫下さん!?」
「く、くるな!」

 足でなんとか支えていた体はどんどん崖の方へ傾いていき、ついに、彼女の両足が地面から離れてしまった。
 投げ出された鶫下さんは、空中を飛んで……このままでは、崖に向かって落ちる。

「くそっ!!」

 気づけば夢中で走り出していた。
 俺は別に足が速いわけでも、身体能力があるわけでも、反射神経が良いわけでもなかった。
 でも、これが火事場のバカ力なのか――
 鶫下さんを助けたいと思ったら、俺は最大限に手を伸ばし彼女の手を握っていた。

 パシッ

「え、センセ、!」
「っ!」

 そして、鶫下さんをぶん投げるように、渾身の力で腕を回した。
 すると目論見通り彼女はふりこみたいに回って、こっちの地面に戻ってきた。
 あまりに大きな遠心力のため、鶫下さんは着地と同時に遠くへ投げ飛ばされた。
 すると、騒ぎを聞きつけていた教師が彼女をすぐにキャッチする。

「(よし――)」

 そう安堵したのがいけなかったか、それとも、遠心力に敵わなかったか――
 俺の体はぐらりと崩れて、崖の下に落ちる。

「センセー!!?」
「っ!?」

 俺は見るも早いスピードでぐんぐんと落ちていき――その時に覚悟した。
 こんな大の男が、高い崖の下に落ちて助かるわけがない。
 こんなところで人生が終わるのは意外だったが……一人の生徒を守れて己を誇りに思う。

 な、そうだろ。

「鶫下さん、あなたはきちんと生きなさい。そして、会うんだ――」

 それだけ呟いた後、俺の意識はなくなった。
 痛いとも、苦しいとも、何の感情もなく。
 あるのはただ、鶫下真乃花という彼女の存在だけ。

 俺の体が静かに冷たくなっていく中、その存在だけが、俺の魂を揺さぶっていた。



*縁*

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