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あなたなの?
3.
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「どうですか?新しい私は」
「……よく、似合ってる……って言えばいいのかよ」
「まあ、そういうところです」
未だブランコに座ったままの私に、手を差し出すセンセー。
その手も、汚れて真っ黒だった。
「この体、誰の?」
「あなたが心配することないんですよ」
「犯罪とか……手を出してねーよな?」
「残念ながら、それは幽霊条例に反していまして……大丈夫。合法ですよ」
「……あっそ」
でた。得体のしれない幽霊条例。
それを出されちゃ、私は黙るしかない。
「(ま、信じるしかないか)」
センセーの手を握り、立ち上がる。
いつものように冷たくない、温かい手。
近くにいた子供が「王子様とお姫様みたーい」と私とセンセーを見て頬を染めている。
「え、センセー、他の人にも見えんの?」
「見えますよ。だって生きてる人間に憑依してるんですから。体は生きてる人間、中身は死んでる私。そんなとこです」
「へ、へぇ……」
本当に合法なのか――ちょっと気になった。
ってか、なんで今更そんな事?
私だけ見えてればいいなんて、そんな事いってたじゃん。
すると、センセーが私の表情をくみ取ったのか頭を撫でた。
「これで、あなたが独り言を話しているとは、誰も思わないでしょう?」
「(あ……)」
そこで、初めて分かった。
センセー、私のために憑依したんだ。
――なあセンセー。誰かに入るってことは出来んのかよ
「(私が一言、漏らしただけなのに……)」
それなのにセンセーは気にして、そして、また私の隣にいてくれる。
「(優しすぎんだろ、センセー)」
胸がキュッと締め付けられる。
嬉しいとドキドキが、重なっていくのが分かる。
「なんで……ここまでしてくれんの?」
すると、センセーが私を見る。
黙って、ただ見つめてくる。
なんか……心臓に悪ぃ。
「――この前、妹さんに怪しまれたでしょう。あなたが一人で喋ってるのを。
もしも私が原因で更に家庭内でコトが大きくなるのも嫌ですし。
私のせいで私の生徒が辛い目に遭うなんて、御免ですからね」
「そう……そっか……」
なんだ、ちょっとだけ残念。
ん?残念ってなんだ!?
「(分かんねーよ。でも……)」
――私のせいで、私の生徒が辛い目に遭うなんて、御免ですからね
まだ私のことを「生徒」だって思ってたのかって……それが何となく嫌だった。
だけどセンセーは、そんな私の事を不思議そうに見て「ずっと突っ立って何してるんですか?」と無粋に聞いてきた。
「帰りますよ」
「……」
見た目は誰か分からない人。
だけど、中身はセンセー。
「(センセーじゃないのに、センセー……か。本当、変な感じだ)」
さっき「どこかで会ったことあるかな」って疑問に思ったけど……そりゃ、中身がセンセーなら、そう思うのも無理ないか。私の勘は正しかった、ということだ。
「そのイケメンくんを早く解放するためにも、私は早く悩みを解決しないとな」
そう言うと、センセーは少し黙った後に頷いた。
「――その通りですね」
呟くようにはいた言葉。
その横顔が、なぜだか少しだけ寂しそうに見えて……。
「センセー?どうかしたのかよ」
「いや……頑張りましょうね」
「おう!」
二人で公園を出る。
その姿を見ていた、さっきの子供。
私たち二人の後ろ姿を見て、こんな事を言った。
「あれ?影が一つないよー?王子様のほうー」
その言葉は広い公園で誰にも拾われないまま、空へと消えていった。
「……よく、似合ってる……って言えばいいのかよ」
「まあ、そういうところです」
未だブランコに座ったままの私に、手を差し出すセンセー。
その手も、汚れて真っ黒だった。
「この体、誰の?」
「あなたが心配することないんですよ」
「犯罪とか……手を出してねーよな?」
「残念ながら、それは幽霊条例に反していまして……大丈夫。合法ですよ」
「……あっそ」
でた。得体のしれない幽霊条例。
それを出されちゃ、私は黙るしかない。
「(ま、信じるしかないか)」
センセーの手を握り、立ち上がる。
いつものように冷たくない、温かい手。
近くにいた子供が「王子様とお姫様みたーい」と私とセンセーを見て頬を染めている。
「え、センセー、他の人にも見えんの?」
「見えますよ。だって生きてる人間に憑依してるんですから。体は生きてる人間、中身は死んでる私。そんなとこです」
「へ、へぇ……」
本当に合法なのか――ちょっと気になった。
ってか、なんで今更そんな事?
私だけ見えてればいいなんて、そんな事いってたじゃん。
すると、センセーが私の表情をくみ取ったのか頭を撫でた。
「これで、あなたが独り言を話しているとは、誰も思わないでしょう?」
「(あ……)」
そこで、初めて分かった。
センセー、私のために憑依したんだ。
――なあセンセー。誰かに入るってことは出来んのかよ
「(私が一言、漏らしただけなのに……)」
それなのにセンセーは気にして、そして、また私の隣にいてくれる。
「(優しすぎんだろ、センセー)」
胸がキュッと締め付けられる。
嬉しいとドキドキが、重なっていくのが分かる。
「なんで……ここまでしてくれんの?」
すると、センセーが私を見る。
黙って、ただ見つめてくる。
なんか……心臓に悪ぃ。
「――この前、妹さんに怪しまれたでしょう。あなたが一人で喋ってるのを。
もしも私が原因で更に家庭内でコトが大きくなるのも嫌ですし。
私のせいで私の生徒が辛い目に遭うなんて、御免ですからね」
「そう……そっか……」
なんだ、ちょっとだけ残念。
ん?残念ってなんだ!?
「(分かんねーよ。でも……)」
――私のせいで、私の生徒が辛い目に遭うなんて、御免ですからね
まだ私のことを「生徒」だって思ってたのかって……それが何となく嫌だった。
だけどセンセーは、そんな私の事を不思議そうに見て「ずっと突っ立って何してるんですか?」と無粋に聞いてきた。
「帰りますよ」
「……」
見た目は誰か分からない人。
だけど、中身はセンセー。
「(センセーじゃないのに、センセー……か。本当、変な感じだ)」
さっき「どこかで会ったことあるかな」って疑問に思ったけど……そりゃ、中身がセンセーなら、そう思うのも無理ないか。私の勘は正しかった、ということだ。
「そのイケメンくんを早く解放するためにも、私は早く悩みを解決しないとな」
そう言うと、センセーは少し黙った後に頷いた。
「――その通りですね」
呟くようにはいた言葉。
その横顔が、なぜだか少しだけ寂しそうに見えて……。
「センセー?どうかしたのかよ」
「いや……頑張りましょうね」
「おう!」
二人で公園を出る。
その姿を見ていた、さっきの子供。
私たち二人の後ろ姿を見て、こんな事を言った。
「あれ?影が一つないよー?王子様のほうー」
その言葉は広い公園で誰にも拾われないまま、空へと消えていった。
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