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最後のテスト
3.
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「え、なに……なんて?」
「大樹くんです。生きていました。記憶が少し抜け落ちていますが、元気です。
神池山を越えた村で保護されて、そこでずっと暮らしていたんです。
そこはテレビもスマホもない閉鎖された町で……町人は、失踪して捜索願が出ている大樹くんとは気づかなかったみたいです」
なに、言ってんだよ。センセー……?
「え、だって……幽霊は呼び寄せれるとかいう、あの話は?」
「すみません、ウソです。でも生き霊を呼び寄せました。
その後は、私がこの体を迎えに行きました。
それからは、あなたの知っている通りです」
「知っている通りって……」
「心配せずとも、大樹くんは五体満足ですよ。
とはいえ……こんな大事な事を黙っていて、申し訳ありませんでした」
「なんで、謝るんだよ……」
っていうか、待って。
頭がこんがらがる。
大樹が目の前の海木で、それで……。
あぁ、ダメだ。やっぱり……
「(そんな事いきなり言われても……わけわかんねーよ……っ)」
センセーを見るのをやめて、俯く。
俯いて、固く目を閉じた。
目の前のセンセーは、膝を折って私と同じ目線に合わせてくれている。
「(そんな事に優しさを見せるくらいなら、どうして……)」
私は、センセーの事を好きだって、昨日気づいたんだぞ。
「センセーはひどい……だって、もっと早く海木が大樹だって教えてくれれば、私はッ」
「そうですよね……分かっています」
「分かってるなら、なんで!」
ガバッと顔をあげると、そこには――
「なんで、センセーがそんな泣きそうな顔してんだよ……っ」
「……っ」
今まで見たことない、悲しそうな表情をしているセンセーがいた。
「すみません」私には謝るなと言ったその口で、もう何度目かにならない謝罪をしている。
違うよ、私が聞きたいのは、そんな事じゃない。
「私が子供だから、からかって楽しんでた?」
「違います」
「恋愛初心者だから、面白可笑しく見てた?」
「違います」
「じゃあ教えてくれよ。なんで大樹の事をずっと隠してた?」
「それは……」
センセーは顔を下げる。
そして、小さな声で呟いた。
「私の、意地です」
「意地……?」
「そう、意地」
センセーが私の手を取る。
自分のフラペチーノは、隣のブランコの上に置いたらしい。
私も、今はもう飲む気が失せたそれを、センセーの手によって地面に置かれる。
「鶫下さんを必ず救いたいという、教師の意地です」
「救うって、」
「もちろん、あの家庭から救うこという事です。
必ず大樹くんを見つけようと、そう思っていました。
すると見つかった。でも、記憶が抜けている。あなたの事は、どうやら忘れていると見た。
この状態で、あなたと大樹くんを残して、私は成仏できませんから。大樹くんが記憶を取り戻すまでは、意地でも憑依し続けてやろうと、そう思っていたのですよ」
「ま、限界もありますがね」と言ったセンセーは、ハハハと乾いた笑いをした。
私は黙って、続きを待った。
「だけど、憑依し続けた甲斐がありました。
あなたの事を、少しだけでも守れた気がする。
あなたには混乱させてしまいましたが、後悔は何一つありません」
「少しだけ守れたなんて……違うだろ」
いっぱい守ってくれただろ、いつも。
センセーは、いつだって全力で、私の笑顔を守ってくれただろ。
「(バカだなぁ。センセーはいつも自分の事、過小評価すぎんだよ……っ)」
私の目から、涙が落ちる。
それを、センセーの手が優しく受け止めた。
いつにない優しい顔のセンセー。
やめろよ、そんな顔すんなよ。
「(こんな状況だってのに、ますます好きになっちまうだろ……)」
するとセンセーが「なので」と続きを言う。
「大樹くんです。生きていました。記憶が少し抜け落ちていますが、元気です。
神池山を越えた村で保護されて、そこでずっと暮らしていたんです。
そこはテレビもスマホもない閉鎖された町で……町人は、失踪して捜索願が出ている大樹くんとは気づかなかったみたいです」
なに、言ってんだよ。センセー……?
「え、だって……幽霊は呼び寄せれるとかいう、あの話は?」
「すみません、ウソです。でも生き霊を呼び寄せました。
その後は、私がこの体を迎えに行きました。
それからは、あなたの知っている通りです」
「知っている通りって……」
「心配せずとも、大樹くんは五体満足ですよ。
とはいえ……こんな大事な事を黙っていて、申し訳ありませんでした」
「なんで、謝るんだよ……」
っていうか、待って。
頭がこんがらがる。
大樹が目の前の海木で、それで……。
あぁ、ダメだ。やっぱり……
「(そんな事いきなり言われても……わけわかんねーよ……っ)」
センセーを見るのをやめて、俯く。
俯いて、固く目を閉じた。
目の前のセンセーは、膝を折って私と同じ目線に合わせてくれている。
「(そんな事に優しさを見せるくらいなら、どうして……)」
私は、センセーの事を好きだって、昨日気づいたんだぞ。
「センセーはひどい……だって、もっと早く海木が大樹だって教えてくれれば、私はッ」
「そうですよね……分かっています」
「分かってるなら、なんで!」
ガバッと顔をあげると、そこには――
「なんで、センセーがそんな泣きそうな顔してんだよ……っ」
「……っ」
今まで見たことない、悲しそうな表情をしているセンセーがいた。
「すみません」私には謝るなと言ったその口で、もう何度目かにならない謝罪をしている。
違うよ、私が聞きたいのは、そんな事じゃない。
「私が子供だから、からかって楽しんでた?」
「違います」
「恋愛初心者だから、面白可笑しく見てた?」
「違います」
「じゃあ教えてくれよ。なんで大樹の事をずっと隠してた?」
「それは……」
センセーは顔を下げる。
そして、小さな声で呟いた。
「私の、意地です」
「意地……?」
「そう、意地」
センセーが私の手を取る。
自分のフラペチーノは、隣のブランコの上に置いたらしい。
私も、今はもう飲む気が失せたそれを、センセーの手によって地面に置かれる。
「鶫下さんを必ず救いたいという、教師の意地です」
「救うって、」
「もちろん、あの家庭から救うこという事です。
必ず大樹くんを見つけようと、そう思っていました。
すると見つかった。でも、記憶が抜けている。あなたの事は、どうやら忘れていると見た。
この状態で、あなたと大樹くんを残して、私は成仏できませんから。大樹くんが記憶を取り戻すまでは、意地でも憑依し続けてやろうと、そう思っていたのですよ」
「ま、限界もありますがね」と言ったセンセーは、ハハハと乾いた笑いをした。
私は黙って、続きを待った。
「だけど、憑依し続けた甲斐がありました。
あなたの事を、少しだけでも守れた気がする。
あなたには混乱させてしまいましたが、後悔は何一つありません」
「少しだけ守れたなんて……違うだろ」
いっぱい守ってくれただろ、いつも。
センセーは、いつだって全力で、私の笑顔を守ってくれただろ。
「(バカだなぁ。センセーはいつも自分の事、過小評価すぎんだよ……っ)」
私の目から、涙が落ちる。
それを、センセーの手が優しく受け止めた。
いつにない優しい顔のセンセー。
やめろよ、そんな顔すんなよ。
「(こんな状況だってのに、ますます好きになっちまうだろ……)」
するとセンセーが「なので」と続きを言う。
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