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幸せ
5.
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「真乃花を離してください!!」
「きゃあ!?な、なによ大樹くん!」
家に入ってきていた大樹が、母を押して私の腕を掴んだ。昔とは違い大きくなった大樹に、さすがの母も力では勝てずに、大樹の意のままになる。
私の荷物は大樹がいつの間にか持っていてくれて……
「真乃花、行くぞ!」
「う、うん!」
私たちは無事に、家を出る。
「真乃花、近くに親父が車で待ってくれてる。それに乗ろう!」
「わかった!」
家から遠ざかる。
私はチラリと、後ろを振り返った。
すると――
「真乃花ぁああ!!」
怒った母が、裸足で道に飛び出していた。
「あんたがこの家に帰ってきたいって言っても、絶対に許さないから!!
ちょっと優しくしてればつけあがって、この恩知らず!
どこへでもいって、二度とその顔を私に見せるんじゃないよ!!」
その声は、まるで地獄から聞こえてきるような声で……思わず耳を塞ぎたくなる。
近所中に響き渡った母の声は、家にいた人たちを外に呼び寄せる。あっという間に群衆が出来、その真ん中にいた母は、皆から奇異の目で見られていた。
そして泣きながら家から出て来た穂乃花が、母を引っ張って家へ入ろうとする。
だけど、力では母に敵わないのか、泣く穂乃花と怒りが頂点に達した母とで、しばらく綱引きのような状態が続いていた。
それはまるで――地獄のような光景だった。
「……平気?」
「うん……大丈夫だ」
大樹はたまに後ろを確認しながら走ってくれている。私はもう、振り返ることはなかった。
その後、無事に「勘当」された私は、大樹のおじさんと合流して、おじさんの車で、大樹の家へ向かう。
「出れた……本当に、出られた……っ」
「真乃花」
「大樹、出られた……私、もう大丈夫なんだな……ッ!」
「そうだよ、真乃花。今までよく頑張ったね」
「大樹……ッ」
大樹の家に戻る車中で、私は嗚咽が止まらなかった。
死ぬまで、あの牢獄のような家に縛られると思っていた私。
そんな私が、今、羽が生えたみたいに、自由に空を飛んでいる。
「私、幸せになりたい……」
「うん、なれるよ。絶対に」
私の手を握り、頭を撫でてくれる大樹。
張りつめていた心が、この日やっと、解放された。
「そう言えばさ」
私を慰めながら、大樹はつぶやく。
「縁先生がさ、真乃花を助けてくれたよね」
「あ……」
実は、私もそう思っていた。
さっき、母に捕まりそうになった時に運悪く穂乃花が私の所へ向かおうとした時に、何らかの力で穂乃花は後退していった。
それは、目に見えない――何か。
その何かは、私と大樹の間では、一人しか思い浮かばない。
「最後の最後まで助けられたね」
「うん、そうだな……。センセー、どこまで見守っててくれんのかな」
「お墓に会いに行った事を喜んでくれているのかもね。天国で楽しく過ごしてくれているといいね」
「そうだな……センセーなら、きっと」
「うん」
センセー、ありがとう。
成仏した後も、見守ってくれてありがとう。
助けてくれて、ありがとう。
私、今日、自由を手に入れたよ。
浮かれてるって思われるかもしれねーけど、でもウキウキしてんだ。
明日は何しようって、生きる希望が湧くんだよ。
「(センセー、生きるって、すげー楽しいんだな)」
目を伏せる。
すると頭の中でセンセーが「そうでしょう?」と、優しく笑ってくれた気がした。
◇
そんな事があってから三年――
私と大樹は無事に夫婦になった。
そして今、私は分娩台の上にいる。
「真乃花、がんばれ!」
「ん~っ!!!」
「がんばれ、あと少しだから!」
「はぁ、はぁ……!」
大樹が泣きそうな顔をしている。
私も、何度か心が折れそうになった。
でも、でも――!
――がんばってください、鶫下さん
「!!」
その声は私をもう一押し。前へと進めてくれた。
「がんばれ、真乃花、がんばれ!」
「~っ!!」
そして――
「おぎゃあ、おぎゃあ!」
産科の先生が赤ちゃんを受け止める。
そして私にみせるように掲げながら「元気な男の子ですよ」と眼鏡越しに笑った。
「きゃあ!?な、なによ大樹くん!」
家に入ってきていた大樹が、母を押して私の腕を掴んだ。昔とは違い大きくなった大樹に、さすがの母も力では勝てずに、大樹の意のままになる。
私の荷物は大樹がいつの間にか持っていてくれて……
「真乃花、行くぞ!」
「う、うん!」
私たちは無事に、家を出る。
「真乃花、近くに親父が車で待ってくれてる。それに乗ろう!」
「わかった!」
家から遠ざかる。
私はチラリと、後ろを振り返った。
すると――
「真乃花ぁああ!!」
怒った母が、裸足で道に飛び出していた。
「あんたがこの家に帰ってきたいって言っても、絶対に許さないから!!
ちょっと優しくしてればつけあがって、この恩知らず!
どこへでもいって、二度とその顔を私に見せるんじゃないよ!!」
その声は、まるで地獄から聞こえてきるような声で……思わず耳を塞ぎたくなる。
近所中に響き渡った母の声は、家にいた人たちを外に呼び寄せる。あっという間に群衆が出来、その真ん中にいた母は、皆から奇異の目で見られていた。
そして泣きながら家から出て来た穂乃花が、母を引っ張って家へ入ろうとする。
だけど、力では母に敵わないのか、泣く穂乃花と怒りが頂点に達した母とで、しばらく綱引きのような状態が続いていた。
それはまるで――地獄のような光景だった。
「……平気?」
「うん……大丈夫だ」
大樹はたまに後ろを確認しながら走ってくれている。私はもう、振り返ることはなかった。
その後、無事に「勘当」された私は、大樹のおじさんと合流して、おじさんの車で、大樹の家へ向かう。
「出れた……本当に、出られた……っ」
「真乃花」
「大樹、出られた……私、もう大丈夫なんだな……ッ!」
「そうだよ、真乃花。今までよく頑張ったね」
「大樹……ッ」
大樹の家に戻る車中で、私は嗚咽が止まらなかった。
死ぬまで、あの牢獄のような家に縛られると思っていた私。
そんな私が、今、羽が生えたみたいに、自由に空を飛んでいる。
「私、幸せになりたい……」
「うん、なれるよ。絶対に」
私の手を握り、頭を撫でてくれる大樹。
張りつめていた心が、この日やっと、解放された。
「そう言えばさ」
私を慰めながら、大樹はつぶやく。
「縁先生がさ、真乃花を助けてくれたよね」
「あ……」
実は、私もそう思っていた。
さっき、母に捕まりそうになった時に運悪く穂乃花が私の所へ向かおうとした時に、何らかの力で穂乃花は後退していった。
それは、目に見えない――何か。
その何かは、私と大樹の間では、一人しか思い浮かばない。
「最後の最後まで助けられたね」
「うん、そうだな……。センセー、どこまで見守っててくれんのかな」
「お墓に会いに行った事を喜んでくれているのかもね。天国で楽しく過ごしてくれているといいね」
「そうだな……センセーなら、きっと」
「うん」
センセー、ありがとう。
成仏した後も、見守ってくれてありがとう。
助けてくれて、ありがとう。
私、今日、自由を手に入れたよ。
浮かれてるって思われるかもしれねーけど、でもウキウキしてんだ。
明日は何しようって、生きる希望が湧くんだよ。
「(センセー、生きるって、すげー楽しいんだな)」
目を伏せる。
すると頭の中でセンセーが「そうでしょう?」と、優しく笑ってくれた気がした。
◇
そんな事があってから三年――
私と大樹は無事に夫婦になった。
そして今、私は分娩台の上にいる。
「真乃花、がんばれ!」
「ん~っ!!!」
「がんばれ、あと少しだから!」
「はぁ、はぁ……!」
大樹が泣きそうな顔をしている。
私も、何度か心が折れそうになった。
でも、でも――!
――がんばってください、鶫下さん
「!!」
その声は私をもう一押し。前へと進めてくれた。
「がんばれ、真乃花、がんばれ!」
「~っ!!」
そして――
「おぎゃあ、おぎゃあ!」
産科の先生が赤ちゃんを受け止める。
そして私にみせるように掲げながら「元気な男の子ですよ」と眼鏡越しに笑った。
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