結城 隆一郎 の事件簿 Seazon 5

一宮 沙耶

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第1章 私を殺した人

5話 小島 悟

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 俺は、小島 悟で、三島の同期。三島があまりにできるから、いつも、俺が馬鹿にされる。お前がいなければ、俺はそこそこできると評価されるはずなのに。

 三島は、何回も社長表彰で最優秀賞を受けている。俺も1回だけ社長表彰を受けたが、2番だった。どうして1番じゃないといけないんですかと言っていた政治家もいたけど、三島の次じゃ、嫌なんだ。

 目立たないし、みんなが三島だけをほめる。もう2番手は、社長表彰とは思われていないんだと思う。

 三島はできるだけじゃなくて、裏表があるやつだ。上司への説明は、俺が舌を巻くほど上手く、なんでもやりますと言いながら、同僚や、部下にやらせる。

 そして、どこからか、同僚や部下の弱みを握り、笑顔で、やらないとどうなるかわかるよねとか言って、逃げられないように操っている。成功すると、全て自分の成果だと上司に報告し、できないケースでは、他人のせいにする。

 本当に性格が捻じ曲がっているが、それを気づいている人は少なく、気づいても言えないように堀を埋められている。そこが、三島のうまいところだ。俺と何が違うのだろうか。

 三島が話していたが、一つひとつの仕事ができるのは当たり前で、社長になるような人は、みんながあっという成果を達成するために、裏で画策できないとダメだとか。

 だから、繰り返すが、周りは、誰もが、三島は聖人君主のようにいうけど、本当は、とてもどす黒いやつだとわかっていない。裏で、どれだけどす黒いことをしてるか、みんなは知らないんだ。

 どうしてわからないのだろう。俺も弱みを握られているから、本当のことを言えない。俺は、友人と飲みに行った時のお金を、お客様との会食として会社の経費にした。会社にはバレていないが、三島から呼び出しがあり、こんなことしちゃダメだろ、横領じゃないかと脅された。

 もちろん、悪いことなんだけど、たった5万円じゃないかと言ったら、そうだね、5万円で人生を棒に振るなんて、かわいそうだと言うじゃないか。

 確かに、お金の額じゃなくて、1円でも会社のお金を盗んだら、懲戒解雇だとも聞いた。それなら1億円とか横領しが方が良かったが、そういう問題ではない。俺は、とんでもないことをしてしまったと後悔した。

 それ以上に、三島にバレたのが失敗だった。どうしてバレたのか? 三島には、密偵を会社の各部署に配置しているのかもしれない。そうだとすれば、このことを知っているのは三島だけでもないかもしれない。

 ただ、三島はこれを出汁に俺を脅しているのだから、三島に従っている限り、その他の人も俺のことは言わないだろう。でも、俺は、このために、完全に三島の奴隷で、三島のいうことは全て従わなければいけない。

 自由がない生活って、本当に苦しかった。でも、結局、三島は、無理なことも言わず、たまに、これをやっといてとか、これは自分の成果だから、違うことは言わないでねとか言ってくるだけで、それに従っていれば、日々の生活で困ることはない。人使いは上手いやつだ。

 おそらく、それぞれが見えているドス黒い部分は一部づつで、弱みで言えないので、真っ白に見えるのだろう。俺が白く見えている部分も、実は他の人からはドス黒く見えているんじゃないか。それじゃなければ、あんなに上手く立ち回れない。

 もしかしたら、御曹司とか言ってたから、お父さんからの圧力とかもあるのかもしれない。この会社の社長も、お父さんが操っているのかもと思ったら、これからも三島に支配される人生かと真っ暗になった。

 でも、六本木を歩いていたら、三島の彼女と腕組んで歩いているところを見た。えって思った。あの三島が、あんな田舎臭い女と付き合ってるのか? 何か弱みでも握られているのかって。

 なんか、エッチとかしたら、あそこから、臭い匂いがしそうな女だ。どうして、あんな女と一緒にいるのだろう。

 しばらく後をつけて見ていたが、その女の服は、そこら辺のスーパーの特売セールで買ってきたような感じで、よくこんな服で六本木を歩けるのか気持ちが分からない。その前に、センスが悪い。あのワンピース、水商売のような見た目で、昭和かよって感じだ。

 さらに、歩き方も、なんか、どしどしというか、大股というか、品がない。顔も、日焼けしているのか、田舎臭いという言葉がぴったりだ。三島は、こんな女連れていて、恥ずかしくないのだろうか。

 まあ、日頃の鬱憤から言い過ぎたかもしれないが、少なくても素敵とは言えない。というより、やっぱり、さっき言ったとおりだとしか言えない。

 でも、逆に、それだけが、俺が三島を笑って見下せる点だった。俺の彼女は、あの女よりはいい。そうはいっても、俺は三島の奴隷だから、彼に言いなりの日々が続いたが。

 ただ、今日は激怒した。俺が長年、仕込んできた案件を受注できたと思ったら、三島が横取りし、上司に、自分の手柄だと宣言したからだ。俺が取ったんだと、上司や周りに訴えたが、そういう嘘は自分を卑しめるからやめた方がいいよと、厳しく忠告された。

 そうなんだよ。だから、あいつは出世する。1人ではできない成果を、人の成功から奪って独り占めをしている。とんでもないやつだ。

 上司もわからないのだろうか。前にも思ったが、お父さんが社長を押さえつけて、幹部は、わかってるけど、誰も文句を言えないとか。そうかもしれない。

 でも、俺は本当に許せなかった。彼を殺そうか。でも、すぐ死なせても、これまで多くの苦渋を味わってきたので、悔しさは晴れない。じゃあ、彼を長時間、痛ぶって殺すか。でも、どうやればいいか分からない。そう考えているうちに1つのアイディアが浮かんだ。

 三島の彼女を殺して、三島が殺したということにすれば、彼は、殺人者として一生苦労を味わう。これは最高だ。

 まず、彼女が車に轢かれるとか、ビルから落ちるとか、崖から海に落ちるとか、色々考えたが、俺が運転する車だとバレるし、ビルの屋上や崖までどうやって連れ出すのかなど、なかなか多くの課題があった。

 さらに、それをどう三島と結びつけるのか? 崖に三島を呼び出したら、真っ先に俺が疑われる。俺が捕まるのは本末転倒だ。いくら三島に恨みがあっても、それで刑務所には行きたくない。

 一番、簡単そうなのは、駅のホームで二人で先頭に並んで待っているところに電車がきて、彼女をホームから落とし、三島が突き飛ばしたという証言を誰かにさせるのがいいんじゃないかと思った。もちろん、突き落としたり、証言するのは、誰かアルバイトを雇ってということだ。

 彼女には悪いとは思う。でも、そもそも、三島が悪いんだ。俺がこれまでどれほど苦労した案件だったかわかるか。それを三島は奪ったんだよ。彼女なら、連帯責任を負っても、仕方がないだろう。

 確かに、死ぬことはすごい重いことだけど、俺の苦悩を考えれば、決して重いとも言えない。三島の彼女だったということを恨むんだな。

 俺は、毎日、三島が刑務所で過ごす日々を想像して、鬱憤を晴らしていた。あいつが刑務所で過ごすって、本当に愉快だ。

 あんな金持ちで、不自由をしたことがない奴が、臭い飯を食って、便所がある狭い部屋で過ごすって。そのぐらいの制裁を受けて当然な奴だもんな。

 そういえば、俺は忘れていたが、この前の飲み会で、同僚に、かなり酔っ払っていたのか、このアイディアをしゃべってしまったらしい。でも、その同僚は、よくある愚痴だと思い、本気にしなかったのは幸いだった。
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