濁流の中で

一宮 沙耶

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5話 転職

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花音の部屋からでて、自分の席に戻ってきたの。

「どうしたの? なにか問題を起こした?」
「いえ、全く知らないクライアントとのトラブルの責任は私のせいだと怒られちゃって。」
「ごめん、それって私のせいかも。」
「どういうこと?」
「土曜日にメイクとかアドバイスしたでしょう。だから乃愛が、とっても可愛くなって、社長が嫉妬したのよ。だから言ったでしょう。社長は、男性社員のミスを女性社員に押し付けるんだって。うちの男性社員はたしかに優秀なのよ。でもそれは、失敗の責任は負わないから、どんなことにもチャレンジができるおかげでもあるの。それで、時々失敗をしてしまうこともあるけど、社長は、それを女性社員に責任転嫁する。まあ、社長は経営の観点から見ているのかもしれないけど、責任転嫁される私たちはやってられないわよね。」
「そうなんだ。」
「ねえ、一緒に転職しない?」
「まだ入ったばかりだけど。」
「入ったばかりだからこそ、社長がひどかったからと言えば転職のときに不利にはならないわよ。これで1年もいると、それは言い訳でしょうと言われて、ホッピングクセがある人なんだと思われちゃうし。だからと言って3年も我慢できないでしょう。また、社長も、入社後半年以内の転職だったら、転職エージェントフィーを支払わなくていいから、そんなに怒らないと思う。」
「そうだけど。」
「私、もう転職先は決まってるの。KPTGよ。今、日本法人の女性比率が低いから改善しろとアメリカ本社から指示が出ていて、女性が転職してくると給与が1割アップするキャンペーンをしてるの。どう?」
「なんか、逆差別のような気もするけど、私達が得するんだから、いいかも。」

そんな話しをしながらも、花音の知らない一面を見て、ショックを受けていたの。
そういえば、付き合ってる時、花音の女性の友達と会ったことはなかった。
女性から嫌われていたのかもしれない。

花音は、男性には飾っていて、これまで見てきたのは本当の姿じゃなかったのかしら。
今回だけかもしれないけど、なんとなくあれが花音の本心だと思えたの。
そう思うと、これまでの花音への思いはなぜかあっさりと消えていった。

花音を愛していたのは、どうしてだったのかしら。
見た目だけだったのかもしれない。
モデル以上に美しい顔立ちとスタイル。

でも、女性から見て、それは一面でしかないと気付いたわ。
それよりも大切なのは、その人の心。
今日の花音は、皮肉をいい、相手を蔑む醜い表情をしていた。

もう、花音からは卒業しよう。
そして、親切にしてくれる瑠香と一緒にKPTGに転職しよう。

私の目の前には、今、大手町の2つの大きなビルがそびえ立っている。
そう、新しい職場に来ていた。

さすが、グローバルコンサルティング会社。
競争も厳しそうだけど、誰もがプライドを持って仕事をしている。
花音のような私的感情で動いていない。

あっという間に、夕方になり、帰宅途中だった。
東京駅の近くは、女性も男性も、上品な服を着てキリッとしている。
見ているだけで、背筋がピンとしてくる感じ。

しかも、東京駅丸の内の辺りは、新宿とかと違って、広い空間が広がっている。
都市の雑踏とは違って、気品と余裕が溢れる。
こんなところで働ける特権階級に入ったようで心が引き締まるわね。

東京駅に向かって歩いていくと、後ろから瑠香が追いかけてきたの。

「今日はお互いに初出社だったけど、どうだった?」
「とても刺激的だった。やっぱりグローバルコンサルファームは違うわね。」
「乃愛は、もともとニューヨークコンサルティングにいたから、KPTGは合っているのよ。誘って良かった。」
「あのまま、昔の会社にいたらと思うとぞっとするわ。本当に感謝してる。」
「ねえ、時間あったら、これから飲みに行かない? アマンホテル東京のラウンジとかどうかしら。」
「一回、行ってみたかったの。おしゃれなんでしょう。行こう。」

シックな通路を通って、エレベーターを降りたら開放的な空間が広がっていた。
コンサル会社は給料がいいから、こんな贅沢ができる。
しかも、給料は1割アップしたし。

「瑠香って、どんな男性が好みなの?」
「どうかしら、乃愛は?」
「う~ん、面白い人かな。」
「顔とかは、好みとかないの?」
「別にないかな。一緒に笑いあって楽しく過ごしたい。」
「そうなんだ。いい人と出会えるといいね。カクテルもきたし、乾杯ね。乾杯!」
「私達の成功に向けて乾杯!」

窓から夕日が差し込み、空はオレンジ色に染まる。
明日は雨なのかしら。
でも、とってもきれい。

1杯目の柚子マティーニの色ともぴったりね。
瑠香が頼んでくれた和牛バーガーも美味しい。
この前もそうだけど、瑠香と話しているとなんか楽しい。
だからお酒もすすんで3杯も飲んじゃった。

「少し酔っ払ったかも。瑠香と一緒だと心地いいからね。」
「嬉しいわ。じゃあ、そろそろ帰ろうか。」
「そうね。」

私達は、エレベーターに乗り込んだ。

「今日は楽しかったわ。この前の万葉倶楽部の温泉楽しかったし、また、行こうね。」
「私もとっても楽しかった。」

そう言って瑠香は近寄ってきた。
そして、誰もいないエレベーターの中で私に口を重ねた。
何が起こったの?
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