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10話 チート
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翌日、私は新居に到着する。
ベランダからの眺めが最高。
最上階で、私だけの広いテラスにつながっていて、プールとかもある。
こんなところでカクテルパーティとかするのね。映画みたい。
また、部屋もいっぱいあって綺麗だし、これが東京って感じ。
ちょっと、この辺を散歩してみよう。
少し歩くと、おしゃれなカフェが現れる。
そのお店に入り、カフェラテと一推しと書いてあるいちごタルトを頼んだ。
夕日のオレンジ色が窓から差し込み、白を貴重としたインテリアを上品に醸し出す。
店内には、学校帰りに立ち寄っているのか、お金持ちらしい女子高生が多い。
友達の話し声にのせて、意味もなく同調する女子高生の笑い声が店内を波打つ。
楽しそうな女子高生をぼんやり眺めていると、後ろから声をかけられた。
「すみませんが、相席をいいですか? お店が混んでいて、店員さんから、お客さんが同意すれば、相席で入れると言われたので。でも、お嬢さんは、男性と一緒なんて嫌ですよね。あきらめて30分並ぶしかないかな。」
見上げると30歳前後のお金持ちらしい男性。
おしゃれなジャケットと爽やかなピンク色のシャツに包まれ、花束を持っている。
別に関心もないし、話さなければ別のテーブルに座っているのと同じ。
「別に、いいですよ。」
「ありがとうございます。このお店に来たいとずっと思っていたんですけど、いつも混んでいて、今日も入るのに30分もかかると言われたんです。ここのいちごタルトはとても人気ですよね。」
私のいちごタルトに目をやり、美味しそうという表情をする。
店員に、私と同じ、いちごタルトとカフェラテを頼んだ。
「話してもいいですか?」
面倒とは思ったけど、断るのも角が立つので、受けることにする。
ただ、あまり乗り気ではないという表情で、言葉少なめに返事をする。
「ええ。」
「この辺にお住まいですか?」
「ここから10分ぐらい歩いたところに住んでいます。」
「そうなんだ。僕もそんな感じですけど、差し障りがなければ、お住まいのビルとかどこですか?」
「グランドメゾン高輪というところです。」
「そうなんですか。これは奇遇ですね。僕も、そこに住んでいるんです。」
ズケズケと私の心理的スペースに入り込んできて苦手なタイプ。
同じマンションなら、言わなければ良かった。
これからも、エレベーターとかで会うと声をかけられそう。
「この花束、部下からお誕生日プレゼントとしてもらったんですけど、男性1人暮らしだと、部屋に花なんて飾らないでしょう。どうですか、もらってくれませんか?」
「いいんですか? せっかくのプレゼントなのに。」
「ええ、どうせ部屋に飾る花瓶もないし、枯らしてしまうだけなので。」
そういえば、部屋に花瓶があるのを思い出し、せっかくなのでもらうことにした。
「では、遠慮なく。」
私は、花束を受け取り、男性に目を合わせずに道路を行き交う人々に目をやる。
「マンションの何階にお住まいなんですか? 僕は22階に住んでます。」
「25階ですけど。」
「すごいな。最上階に住んでるんだ。お金持ちのお嬢さんなのですね。できたら、LINE交換だけでもさせてください。今後、レストランとかにお誘いしたいので。」
強引に話しを進められ、いつの間にか次のレストランでの食事の約束もさせられていた。
まあ、日本のエリート男性の生態を知るのも、今後、何か役に立つかもしれないし。
それから、気づくと、毎週金曜日は、その男性とレストラン巡りをしていた。
その男性は、外資系コンサル会社でマネージングディレクターをしているという。
年収3,000万円を超えているらしい。32歳だから優秀なのだと思う。
変わっているのは、レストランで会う度に、毎回、プレゼントを持ってくること。
アロマ石鹸に始まり、最近は、ネックレス、イヤリングをプレゼントしてくれる。
もう12個にもなるけど、それほど高くもないから断りづらい。
別に欲しいわけじゃないけど、ここまでくると、次は何かとワクワクしている自分がいた。
2ヶ月が過ぎた頃、彼からの連絡はぱったりと途絶える。
どうしたのかしら。事故にでも会ったのかもしれない。
連絡がなく2週間を過ぎた頃から、何度も連絡を入れたけど、返事はなかった。
1日に5回も連絡を入れるようになった頃、やっと、彼から連絡が入った。
海外出張で忙しくて連絡ができなかったと返事があった。
「もう、心配したんだから。連絡ぐらい、いつでもできるでしょう。」
「ごめん、ごめん。」
すっかり彼のことで頭がいっぱいになっている自分が信じられなかった。
この私が、頻繁に男性に連絡をしてしまうなんて。
赤ワイン煮の牛ほほ肉に頭が付くんじゃないかと思うほど、彼は頭を下げてお詫びをする。
そして、顔をあげ、笑顔で話し始める。
「最近さ、恋人同士とかで、お互いの位置を共有できるアプリがあるの知っている? 僕らが、もっと深い仲になる一歩として、そのアプリを入れてみない? 今回のように、お互いに連絡しなくても、安否確認もできるし。」
「そうね。いいかも。どうすればいいの?」
彼は、私のスマホにアプリをダウンロードしてセットアップをしてくれた。
「これで、安心だね。」
なんとなく、いつも彼のペースに乗せられているのが不思議だけど、心地はいい。
彼の日々の生活を見ると、規則正しい。女性の影はない。
私と会う日以外は、8時に大手町のオフィスに行き、21時ごろ退社して家に直行する。
アプリを入れて2週間が経った頃、ボスがイラついた様子で部下を叱っている。
「どうしたんですか?」
「最近、サツがこのオフィスの周りを取り囲んでいる気がするんだ。美奈は、サツなんて知り合いいないと思うから心配していないけど、だれか組員がつけられている気がするんだよ。本当に、困った奴らだ。」
私は、すぐにスマホのアプリが頭に浮かぶ。
彼の素性をNWで調べた。これまで調べようと思えばいつでもできたのにと悔やむ。
彼は警察官で、警視庁捜査2課の刑事だった。
警視庁捜査2課といえば、詐欺とかの経済犯罪を捜査する専門部隊。
ボスの詐欺組織を摘発するために、私に近づいたに違いない。
私の女性としての気持ちを利用するなんてひどい。
大手町のオフィスに通うGPS情報も、誰か別の人にスマホを渡していたのだと思う。
油断している隙に、私の行動パターンは全て調べられていた。
もう、ボスの詐欺組織も危ないかもしれない。
でも、私のせいだとはボスに言えない。いくら有用でも、組織の存続に関わる事態。
まあ、そろそろ潮時かもしれない。
このマンションを売り払い、海外でハッカーとして活動していこう。
ちょうど、中国政府から、ハッカーとして来て欲しいと要請がきているし。
その対価として、すごい金額も提示された。
中国には凄腕のハッカーが何人もいて、多くのことを学べるかもしれない。
中国人として登録し、共産党員にするとか言っていた。
メリットはよくわからないけど、日本に恩義があるわけでもない。
このまま日本にいて逮捕されたら、女性で一番輝いている時間を奪われてしまう。
ベランダからの眺めが最高。
最上階で、私だけの広いテラスにつながっていて、プールとかもある。
こんなところでカクテルパーティとかするのね。映画みたい。
また、部屋もいっぱいあって綺麗だし、これが東京って感じ。
ちょっと、この辺を散歩してみよう。
少し歩くと、おしゃれなカフェが現れる。
そのお店に入り、カフェラテと一推しと書いてあるいちごタルトを頼んだ。
夕日のオレンジ色が窓から差し込み、白を貴重としたインテリアを上品に醸し出す。
店内には、学校帰りに立ち寄っているのか、お金持ちらしい女子高生が多い。
友達の話し声にのせて、意味もなく同調する女子高生の笑い声が店内を波打つ。
楽しそうな女子高生をぼんやり眺めていると、後ろから声をかけられた。
「すみませんが、相席をいいですか? お店が混んでいて、店員さんから、お客さんが同意すれば、相席で入れると言われたので。でも、お嬢さんは、男性と一緒なんて嫌ですよね。あきらめて30分並ぶしかないかな。」
見上げると30歳前後のお金持ちらしい男性。
おしゃれなジャケットと爽やかなピンク色のシャツに包まれ、花束を持っている。
別に関心もないし、話さなければ別のテーブルに座っているのと同じ。
「別に、いいですよ。」
「ありがとうございます。このお店に来たいとずっと思っていたんですけど、いつも混んでいて、今日も入るのに30分もかかると言われたんです。ここのいちごタルトはとても人気ですよね。」
私のいちごタルトに目をやり、美味しそうという表情をする。
店員に、私と同じ、いちごタルトとカフェラテを頼んだ。
「話してもいいですか?」
面倒とは思ったけど、断るのも角が立つので、受けることにする。
ただ、あまり乗り気ではないという表情で、言葉少なめに返事をする。
「ええ。」
「この辺にお住まいですか?」
「ここから10分ぐらい歩いたところに住んでいます。」
「そうなんだ。僕もそんな感じですけど、差し障りがなければ、お住まいのビルとかどこですか?」
「グランドメゾン高輪というところです。」
「そうなんですか。これは奇遇ですね。僕も、そこに住んでいるんです。」
ズケズケと私の心理的スペースに入り込んできて苦手なタイプ。
同じマンションなら、言わなければ良かった。
これからも、エレベーターとかで会うと声をかけられそう。
「この花束、部下からお誕生日プレゼントとしてもらったんですけど、男性1人暮らしだと、部屋に花なんて飾らないでしょう。どうですか、もらってくれませんか?」
「いいんですか? せっかくのプレゼントなのに。」
「ええ、どうせ部屋に飾る花瓶もないし、枯らしてしまうだけなので。」
そういえば、部屋に花瓶があるのを思い出し、せっかくなのでもらうことにした。
「では、遠慮なく。」
私は、花束を受け取り、男性に目を合わせずに道路を行き交う人々に目をやる。
「マンションの何階にお住まいなんですか? 僕は22階に住んでます。」
「25階ですけど。」
「すごいな。最上階に住んでるんだ。お金持ちのお嬢さんなのですね。できたら、LINE交換だけでもさせてください。今後、レストランとかにお誘いしたいので。」
強引に話しを進められ、いつの間にか次のレストランでの食事の約束もさせられていた。
まあ、日本のエリート男性の生態を知るのも、今後、何か役に立つかもしれないし。
それから、気づくと、毎週金曜日は、その男性とレストラン巡りをしていた。
その男性は、外資系コンサル会社でマネージングディレクターをしているという。
年収3,000万円を超えているらしい。32歳だから優秀なのだと思う。
変わっているのは、レストランで会う度に、毎回、プレゼントを持ってくること。
アロマ石鹸に始まり、最近は、ネックレス、イヤリングをプレゼントしてくれる。
もう12個にもなるけど、それほど高くもないから断りづらい。
別に欲しいわけじゃないけど、ここまでくると、次は何かとワクワクしている自分がいた。
2ヶ月が過ぎた頃、彼からの連絡はぱったりと途絶える。
どうしたのかしら。事故にでも会ったのかもしれない。
連絡がなく2週間を過ぎた頃から、何度も連絡を入れたけど、返事はなかった。
1日に5回も連絡を入れるようになった頃、やっと、彼から連絡が入った。
海外出張で忙しくて連絡ができなかったと返事があった。
「もう、心配したんだから。連絡ぐらい、いつでもできるでしょう。」
「ごめん、ごめん。」
すっかり彼のことで頭がいっぱいになっている自分が信じられなかった。
この私が、頻繁に男性に連絡をしてしまうなんて。
赤ワイン煮の牛ほほ肉に頭が付くんじゃないかと思うほど、彼は頭を下げてお詫びをする。
そして、顔をあげ、笑顔で話し始める。
「最近さ、恋人同士とかで、お互いの位置を共有できるアプリがあるの知っている? 僕らが、もっと深い仲になる一歩として、そのアプリを入れてみない? 今回のように、お互いに連絡しなくても、安否確認もできるし。」
「そうね。いいかも。どうすればいいの?」
彼は、私のスマホにアプリをダウンロードしてセットアップをしてくれた。
「これで、安心だね。」
なんとなく、いつも彼のペースに乗せられているのが不思議だけど、心地はいい。
彼の日々の生活を見ると、規則正しい。女性の影はない。
私と会う日以外は、8時に大手町のオフィスに行き、21時ごろ退社して家に直行する。
アプリを入れて2週間が経った頃、ボスがイラついた様子で部下を叱っている。
「どうしたんですか?」
「最近、サツがこのオフィスの周りを取り囲んでいる気がするんだ。美奈は、サツなんて知り合いいないと思うから心配していないけど、だれか組員がつけられている気がするんだよ。本当に、困った奴らだ。」
私は、すぐにスマホのアプリが頭に浮かぶ。
彼の素性をNWで調べた。これまで調べようと思えばいつでもできたのにと悔やむ。
彼は警察官で、警視庁捜査2課の刑事だった。
警視庁捜査2課といえば、詐欺とかの経済犯罪を捜査する専門部隊。
ボスの詐欺組織を摘発するために、私に近づいたに違いない。
私の女性としての気持ちを利用するなんてひどい。
大手町のオフィスに通うGPS情報も、誰か別の人にスマホを渡していたのだと思う。
油断している隙に、私の行動パターンは全て調べられていた。
もう、ボスの詐欺組織も危ないかもしれない。
でも、私のせいだとはボスに言えない。いくら有用でも、組織の存続に関わる事態。
まあ、そろそろ潮時かもしれない。
このマンションを売り払い、海外でハッカーとして活動していこう。
ちょうど、中国政府から、ハッカーとして来て欲しいと要請がきているし。
その対価として、すごい金額も提示された。
中国には凄腕のハッカーが何人もいて、多くのことを学べるかもしれない。
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