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第2章 償い
8話 結婚式
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今日、私は、1人で結婚式に、元生徒ということで参加している。
周りを見渡しても、高校の先生や生徒は、私以外にいない。
高校で、莉菜はずっと1人で寂しい時間を過ごしていたのだと思う。
私は、少しは、莉菜の気を和らげることができたはず。
莉菜と過ごした江の島、外苑前、横浜、今のように思い出す。
なぜか、男性だったころより、鮮明に莉菜の表情が思い出される。
莉菜のことが心配でずっと莉菜の顔を見ていたからかもしれない。
それは、1年半、二人で真剣に過去の思い出から抜け出そうとあがいてきたからだと思う。
お互いに、苦しみ、悩んだ日々だった。
莉菜が、控室から出て廊下を通る。
横で莉菜を支えているのが結婚の相手なのだと思う。
彼をみると、琴葉の言うとおり、昔の私と似ている気がする。
彼は、自分のことなんて全く気にせず、ずっと莉菜の世話をしていた。
ずっと莉菜の顔を見て微笑んでいる。
莉菜も、彼の笑顔に応えている。
時々、つんつんと彼の肩を指でつつき、あどけなく笑う。
とても微笑ましい。
これで、莉菜も幸せに過ごせる。良かった。
莉菜のように素敵な女性は、もっと幸せにならないと。
どこで知り合ったかは知らないけど、良い彼を見つけたと思う。
彼には、莉菜をずっと大切にしてもらわないと。
莉菜に子供ができて、彼と一緒に子育てをして、暖かい家庭を作る。
おばあちゃんになっても、暖かい日差しのもとで、楽しそうに孫たちに囲まれる。
そんな生活を送って欲しい。
莉菜がこの世を去る時も、彼が、優しく手をとって最後まで笑顔で包み込む。
明るくて、暖かい日の光が、最後まで莉菜を照らす。
寒さを感じずに、最後まで幸せいっぱいの時間を過ごして欲しい。
そんなことを考えていると、チャペルに出席者が誘導される。
真っ白な壁、美しい色に彩られたステンドグラス。
2人の出発に相応しく、清楚な空気が満ち溢れる。
みんなが前を向いて座る中、チャペルのドアが開く。
パイプオルガンの荘厳で明るい音楽が鳴り響いた。
彼の元へと、莉菜はお父さんと赤い絨毯を歩いていく。
真っ白なスカートが風にたなびく。
綺麗な鎖骨を見せたウェディングドレスは莉菜の清楚さを象徴していた。
ウェディングベールも、これまでの苦悩を洗い流してくれているみたい。
ステンドグラスから漏れる陽の光が莉菜にあたる。
真っ白なところと、影になっているところがくっきりと分かれていた。
これまでの莉菜の心を表しているよう。
これから、全てが真っ白でキラキラする莉菜になって欲しい。
彼の元に着いて、少しよろけてしまった莉菜だった。
でも、彼がしっかりと受け止めてくれている。
そう、彼がこれからは莉菜を支えて、幸せに生きていく。
私は、ここまで。
披露宴会場に来て、私の席は場違いかとは思った。
弟さんの横、家族が座るテーブルに私の席があったから。
多分、一人で寂しく座らせないようにしてくれたのだと思う。
ご家族に、弟さんが私のことを紹介する。
あなたが莉菜の笑顔を増やしてくれたのだと感謝された。
みんなが私を暖かく迎えてくれる。
琴葉とその旦那さんは、横のテーブルに座っている。
琴葉が驚いたように、私に手を振る。
琴葉のもとに立ち寄り、高校時代、莉菜先生の生徒だったと自己紹介をする。
こんな偶然があるんだと驚いていたけど、納得した様子で私に笑顔を送ってくれた。
莉菜にとって、私は、とても大切な人だと思ってくれたんだと感じることができた。
そして、私はスピーチをお願いされる。
何を話そう。とっても親しくしてくれた先生だったとか。
そんなこと言っても、莉菜の心には残らないスピーチになっちゃう。
そして、私の順番が回ってきた。
みんなが注目する中、私は緊張に手が震え、マイクを握る。
一呼吸をして話し始めた。
「私は、女子校時代に、莉菜先生の生徒で、大変、お世話になりました。でも、本当は、もっと昔から、知っていたんです。」
これまで笑顔で溢れていた莉菜が私を見つめている。
何が起こったのかわからない様子で、ただただ、真剣に私を見ていた。
「実は、私は、もともとは男性で、その時に莉菜先生の婚約者だったんです。その後、事件に巻き込まれて生死をさまよってる時に、脳死したこの体に脳移植をして、女性として生まれ変わったんです。」
婚約者という言葉を聞いて、莉菜の驚いた顔から表情が消えた。
「その後、高校で莉菜先生と再会しました。その時の莉菜先生は本当に心を病んでしまったようでした。でも、もう男性じゃなくなってしまった私は、莉菜先生に、自分が婚約者で、まだ生きてるなんて言えませんでした。」
莉菜の手は震えている。
「それから、ずっと、生徒として、莉菜先生の横で励ましてきました。でも、今日は、こんな素敵な方と結婚することができて、本当に嬉しいです。これから、お幸せにお過ごしください。」
莉菜は困惑した顔色になり、急に立ち上がった。
「あなたが陽翔だったの? 昔から、あなたが、私と陽翔のことよく知ってるなって不思議だったのよ。これで、その理由がよく分かったわ。どうして、これまで言ってくれなかったの? 女子高生になってたから? そんなこと関係ないじゃないの。」
莉菜の初めて聞く甲高い声が会場に響き渡る。
「私は、あなたが陽翔なら、体が変わっても、ずっと一緒にいたい。これまでだって、言う機会なんて、いっぱいあったじゃない。ずっと黙っていたなんてひどい。私は、ずっと、あなたと暮らしたかった。あなたと分ったからには、もう結婚なんてできない。あなたが、どんな姿になっても、ずっと一緒にいるんだから。」
泣き崩れてしまう莉菜を目の前に、私は、何もすることができなかった。
「江本さん。では、次にスピーチをお願いします。」
いきなり声をかけられて、ふと我に戻った。
そう、そんなことを言ったらどうなるだろうって自分の中で空想していただけ。
このことは、最後まで莉菜には言えない。
私は、寂しかった高校1年生の時に、暖かく見守ってくれたエピソードをいっぱい話した。
そして、新郎には、とびっきり素敵な先生を、ずっと大切にしてくださいとお願いをした。
最後に、今は私にも素敵な彼ができて楽しく過ごしているという嘘を伝える。
私のスピーチが終わると、莉菜は、いきなり立ち上がる。
顔をハンカチで抑え、私の前に駆け寄ってくる。
「聖奈さんも、彼氏ができたんだね。本当に良かった。これから幸せになって。」
強く、私の手を握っている莉菜が目の前にいる。
最後に、莉菜がくれた最高のプレゼント。
お互いにここ数年、本当に苦しかった。
会場からは、大きな拍手が巻き起こる。私達の苦労を労うように。
これで良かった。
私は、莉菜を守るために暴力団との約束を果たす。
そして、大丈夫だとは思うけど、これからも暴力団を使って莉菜を陰で守っていく。
もう莉菜の前には出て行かない。
さようなら、莉菜。
周りを見渡しても、高校の先生や生徒は、私以外にいない。
高校で、莉菜はずっと1人で寂しい時間を過ごしていたのだと思う。
私は、少しは、莉菜の気を和らげることができたはず。
莉菜と過ごした江の島、外苑前、横浜、今のように思い出す。
なぜか、男性だったころより、鮮明に莉菜の表情が思い出される。
莉菜のことが心配でずっと莉菜の顔を見ていたからかもしれない。
それは、1年半、二人で真剣に過去の思い出から抜け出そうとあがいてきたからだと思う。
お互いに、苦しみ、悩んだ日々だった。
莉菜が、控室から出て廊下を通る。
横で莉菜を支えているのが結婚の相手なのだと思う。
彼をみると、琴葉の言うとおり、昔の私と似ている気がする。
彼は、自分のことなんて全く気にせず、ずっと莉菜の世話をしていた。
ずっと莉菜の顔を見て微笑んでいる。
莉菜も、彼の笑顔に応えている。
時々、つんつんと彼の肩を指でつつき、あどけなく笑う。
とても微笑ましい。
これで、莉菜も幸せに過ごせる。良かった。
莉菜のように素敵な女性は、もっと幸せにならないと。
どこで知り合ったかは知らないけど、良い彼を見つけたと思う。
彼には、莉菜をずっと大切にしてもらわないと。
莉菜に子供ができて、彼と一緒に子育てをして、暖かい家庭を作る。
おばあちゃんになっても、暖かい日差しのもとで、楽しそうに孫たちに囲まれる。
そんな生活を送って欲しい。
莉菜がこの世を去る時も、彼が、優しく手をとって最後まで笑顔で包み込む。
明るくて、暖かい日の光が、最後まで莉菜を照らす。
寒さを感じずに、最後まで幸せいっぱいの時間を過ごして欲しい。
そんなことを考えていると、チャペルに出席者が誘導される。
真っ白な壁、美しい色に彩られたステンドグラス。
2人の出発に相応しく、清楚な空気が満ち溢れる。
みんなが前を向いて座る中、チャペルのドアが開く。
パイプオルガンの荘厳で明るい音楽が鳴り響いた。
彼の元へと、莉菜はお父さんと赤い絨毯を歩いていく。
真っ白なスカートが風にたなびく。
綺麗な鎖骨を見せたウェディングドレスは莉菜の清楚さを象徴していた。
ウェディングベールも、これまでの苦悩を洗い流してくれているみたい。
ステンドグラスから漏れる陽の光が莉菜にあたる。
真っ白なところと、影になっているところがくっきりと分かれていた。
これまでの莉菜の心を表しているよう。
これから、全てが真っ白でキラキラする莉菜になって欲しい。
彼の元に着いて、少しよろけてしまった莉菜だった。
でも、彼がしっかりと受け止めてくれている。
そう、彼がこれからは莉菜を支えて、幸せに生きていく。
私は、ここまで。
披露宴会場に来て、私の席は場違いかとは思った。
弟さんの横、家族が座るテーブルに私の席があったから。
多分、一人で寂しく座らせないようにしてくれたのだと思う。
ご家族に、弟さんが私のことを紹介する。
あなたが莉菜の笑顔を増やしてくれたのだと感謝された。
みんなが私を暖かく迎えてくれる。
琴葉とその旦那さんは、横のテーブルに座っている。
琴葉が驚いたように、私に手を振る。
琴葉のもとに立ち寄り、高校時代、莉菜先生の生徒だったと自己紹介をする。
こんな偶然があるんだと驚いていたけど、納得した様子で私に笑顔を送ってくれた。
莉菜にとって、私は、とても大切な人だと思ってくれたんだと感じることができた。
そして、私はスピーチをお願いされる。
何を話そう。とっても親しくしてくれた先生だったとか。
そんなこと言っても、莉菜の心には残らないスピーチになっちゃう。
そして、私の順番が回ってきた。
みんなが注目する中、私は緊張に手が震え、マイクを握る。
一呼吸をして話し始めた。
「私は、女子校時代に、莉菜先生の生徒で、大変、お世話になりました。でも、本当は、もっと昔から、知っていたんです。」
これまで笑顔で溢れていた莉菜が私を見つめている。
何が起こったのかわからない様子で、ただただ、真剣に私を見ていた。
「実は、私は、もともとは男性で、その時に莉菜先生の婚約者だったんです。その後、事件に巻き込まれて生死をさまよってる時に、脳死したこの体に脳移植をして、女性として生まれ変わったんです。」
婚約者という言葉を聞いて、莉菜の驚いた顔から表情が消えた。
「その後、高校で莉菜先生と再会しました。その時の莉菜先生は本当に心を病んでしまったようでした。でも、もう男性じゃなくなってしまった私は、莉菜先生に、自分が婚約者で、まだ生きてるなんて言えませんでした。」
莉菜の手は震えている。
「それから、ずっと、生徒として、莉菜先生の横で励ましてきました。でも、今日は、こんな素敵な方と結婚することができて、本当に嬉しいです。これから、お幸せにお過ごしください。」
莉菜は困惑した顔色になり、急に立ち上がった。
「あなたが陽翔だったの? 昔から、あなたが、私と陽翔のことよく知ってるなって不思議だったのよ。これで、その理由がよく分かったわ。どうして、これまで言ってくれなかったの? 女子高生になってたから? そんなこと関係ないじゃないの。」
莉菜の初めて聞く甲高い声が会場に響き渡る。
「私は、あなたが陽翔なら、体が変わっても、ずっと一緒にいたい。これまでだって、言う機会なんて、いっぱいあったじゃない。ずっと黙っていたなんてひどい。私は、ずっと、あなたと暮らしたかった。あなたと分ったからには、もう結婚なんてできない。あなたが、どんな姿になっても、ずっと一緒にいるんだから。」
泣き崩れてしまう莉菜を目の前に、私は、何もすることができなかった。
「江本さん。では、次にスピーチをお願いします。」
いきなり声をかけられて、ふと我に戻った。
そう、そんなことを言ったらどうなるだろうって自分の中で空想していただけ。
このことは、最後まで莉菜には言えない。
私は、寂しかった高校1年生の時に、暖かく見守ってくれたエピソードをいっぱい話した。
そして、新郎には、とびっきり素敵な先生を、ずっと大切にしてくださいとお願いをした。
最後に、今は私にも素敵な彼ができて楽しく過ごしているという嘘を伝える。
私のスピーチが終わると、莉菜は、いきなり立ち上がる。
顔をハンカチで抑え、私の前に駆け寄ってくる。
「聖奈さんも、彼氏ができたんだね。本当に良かった。これから幸せになって。」
強く、私の手を握っている莉菜が目の前にいる。
最後に、莉菜がくれた最高のプレゼント。
お互いにここ数年、本当に苦しかった。
会場からは、大きな拍手が巻き起こる。私達の苦労を労うように。
これで良かった。
私は、莉菜を守るために暴力団との約束を果たす。
そして、大丈夫だとは思うけど、これからも暴力団を使って莉菜を陰で守っていく。
もう莉菜の前には出て行かない。
さようなら、莉菜。
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