迷子

一宮 沙耶

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第2章 除霊師

4話 盗聴する霊

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 次の依頼主の家に入った時の感想としては、ごく一般的な空気で、依頼主も、可愛いらしい、ややぽっちゃりした明るい女子大生という感じだった。

 玄関を入ると、廊下の片側に電気コンロとシンクがあり、もう片方にトイレバスがあって、そこを通り過ぎると8畳ぐらいの部屋があった。

 窓は2つの壁にあり、陽がいっぱい入り込む、明るいワンルーム。8畳ぐらいだから、ベットと、小さな机、椅子、そして、小さなテーブルがあった。

 この人に憑いている霊なんているのかなって首を傾げながら、彼女は机の椅子に、私は、小さなテーブルの椅子に座った。

 インスタントだと思うけど、シナモンの香りがするコーヒーを紙カップで出してくれた。本当に女子大生の1人暮らしって感じ。

「聞いて。いつも、夜道で誰かの気配がして、振り返っても誰もいないの。そして、この部屋で、親に、今度、友達と伊豆に旅行に行くって話したら、次の日には学校で話しが広がっているの。それって、私に幽霊が憑いていて、夜道で私に着いてきたり、この部屋で話したこと聞いて、学校の友達に吹き込んでいるんじゃないかと思って。」
「そんなこと、するかな。なんか、そのようなことされて当然という事件とか、気になることはあるんですか?」
「あるって言えば、ある。去年、仲良くしていた男女8人グループの男性陣が、格安バス旅行に行ったんだけど、その途中でバスが横転して、そのうちの1人が亡くなっちゃったの。多分、その人が、寂しくて私に取り憑いているんじゃないかって。」
「では調べてみますね。今は、この部屋には何もいませんよ。」
「そうか。じゃあ、お願いね。」

 まず、夜道を歩く彼女の後ろを着いて行ってみることにした。

 でも、いつも思うけど、電灯が少ない夜道って、怖い。亡霊とか、ストーカーとかに襲われそう。

 襲われると、力に自信はないから、抵抗できない。殺されてしまうかもしれない。だから、私にとっては霊の方が扱いやすい。

 街中は人がいっぱいいて、そんなことは思わないけど、住宅地に入ってからとか、電車の下をくぐるトンネルとかは本当に怖い。

 襲うのは1人とも限らないし。路地で双方から追い詰められるかもしれない。刃物をもっているかもしれない。

 最近は、夜ランニングしている人もいるから、後ろから足音が急に近づいてくると、心臓が止まるんじゃないかと思うくらい。

 そんなことを考えながら歩いていたけど、なんか、霊の影も見えないな。部屋にも見当たらないし、夜道にもいない。どういうこと? もしかしたら、あれじゃない。

 次の日、彼女の部屋に行って、装置を取り出し、ぐるっと回ってみた。

「これって、ゴーストバスターみたいなやつ。面白い。」
「ちょっと、黙っていて。」

 その機械がビービーという方向に近寄っていき、電源ケーブルをコンセントから抜いて解体した。そうすると、盗聴器ができて、抜くと、そのランプが消えた。

 大きく、電源を供給するタイプと、単体のタイプがあるけど、今回は、前者で長期的に盗聴していたんだと思う。

 盗聴器は、そう遠くまで電波を飛ばせないと思うから、この近くに車を停めて、この女性の会話を聞いているのかもしれないわね。そうだとすると、まだ、この近くにいる。

 私は寒気を感じた。

「この他にはなさそうね。」
「この機械と、今、見つけたものはなんなの?」
「これは盗聴器の電波を探す機械で、秋葉原とかでも売っているやつよ。そして、これは盗聴器。」
「え、盗聴器、なんで? 私は除霊してもらいたいってお願いしたのよ。」
「どうも霊の仕業じゃないと思って。実際に、盗聴器があった。霊は盗聴器とかつけないもの。もう外したから、話しても伝わらない。それで、次は、明日の晩、あなたが夜道を歩いている後をつけて、ストーカーを捕まえてやる。」
「え、人間のストーカーの仕業っていうこと?」

 私は、まだ近くにいる可能性もあると思い、外に出てみたけど、たまたまいなかったのか、バレたと思って逃げたのか、幸いなことに、夜の道に誰もいなかった。

 そこで、次の晩、依頼主に、再度、夜道を歩いてもらうと、案の定、マスクをして、深々と帽子を被った男が後ろをつけていた。

「あなた、何をしているの?」
「え、なんのこと?」
「あの人のストーカーをするのは、もうやめて。これ以上、何かすると警察を呼ぶわよ。」
「なんだ、バレちゃったか。でも、女のお前に何ができるかな?」

 そう言って、男は私にナイフで襲いかかってきた。私は、ピーと笛を鳴らして、2人の警察官の助けを呼んだ。そして、警察官は、男を取り押さえたの。

「傷害未遂の現行犯で逮捕する。言い分があれば、警察署で聞くから、こい。」
「あの女が悪いんだ。俺のこと好きだっていうから、可哀想で付き合うと言ったら、なんか俺のこと避けてきて。全くわからないやつだから、少し、いじめてやろうと思って。」
「いいから、パトカーに乗って。」

 男性は、頭を垂れ、警官に連行されて行った。

「ほら、ストーカーだったでしょ。みたことある人?」
「大学の同じクラスの人。彼、話したことなかったのに、急に、告白とかしてきて、でもタイプじゃなかったから断って、それっきりと思っていたのに。」
「一番怖いのは人間だってことね。では、報酬をもらうわ。」
「報酬って、霊じゃなかったんだから半額とかにできない?」
「できない。むしろ、男性からナイフで襲われたんだから、すごく危険だったわ。ということで、値切らないで20万円をお支払いください。」
「仕方がないな。お父さんにお願いしてもらったお金、20万円全額払うわ。」
「ありがとう。でも、このままだったら、ストーカーが部屋に入ってきて、あなたを襲っていたかもよ。少なくても、盗聴器を仕掛けに、あなたの部屋に入ったんだろうし。」
「そうだ。怖い。部屋に入ったんだ。これから気をつけないと。では、おやすみなさい。」

 今回は霊じゃなかったけど、結果として、女性にとりつくものを払ったことには違いない。そんなことを考えながら、明るい気持ちで結心は、家へと電車に乗った。

 でも、最近、電車に乗っていると、いろいろな人に、いろいろな霊が憑いているなと気づくようになっていたわ。

 前にいる女性に、この女性が略奪愛をしたせいで、彼との関係を潰され、それを苦にして自殺した女性が、ものすごい形相で睨んでる。なんか心臓を手で強く掴んで、潰しそうだから、心臓病でこの人死んじゃうかもね。

 横にいる男性には、銀行の審査でNGにした結果、倒産し、首吊り自殺をしたおじさんの霊が憑いてる。今度の海の旅行で、お前とその家族を海で溺れさせて殺すぞと、大声で叫んでる。

 このようなことは2人だけの話しじゃない。この車両だけでも、20人ぐらいは霊が、人間を憎んで取り憑いている。私が、このような人たちが見えていると思うと、手伝ってくれとか、話しかけてきたりとか、面倒になるから、無視するしかない。

 どの霊も、顔には憎しみが溢れていて、血だらけの霊もいる。見ているだけで、気分が悪くなる。天寿を全うし、幸せに死ぬのは難しいのかと思うくらい。

 いずれも、今生きているこの女性とか男性とかが悪いんだろうけど、死んじゃったんだから、これまでのことを忘れて、心穏やかに過ごす方がいいじゃないと思い、席で、目をつぶり、寝たふりをすることにした。
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