ちょっとハッとする話

狼少年

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人体実験の現場

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「どうも~~もう起きたかな~~?お嬢ちゃん~~もしもし~~まぁいっか。とりあえず自己紹介しておくね。世間で騒がれている医者とは僕の事です。以後お見知りおきを。」

頭がぼーーっとする。ただボンヤリする意識の中私の耳にはそうはっきりと聞こえた。

「え~~とね。ざっくり説明すると~~今からお嬢ちゃんのお腹を開きま~~す。そしたら中の汚~~い物を引っ張り出して切り刻みま~~す。ついでに足とか腕も切り落としちゃいま~~す。それから心臓を抜き取って潰しまーす。それからそれから……」

私は立ちあがろうとしたが手足は言う事が効かず、声を出そうにも口が上手く動かない。
その中で目の前の白衣が赤く染まっていくのが見えた。
グリグリガシャガシャギーギーと音が聞こえる。
たまに身体が引っ張られるように上下左右に揺れる。

恐怖?いや……そういう類の感情は無い……
痛みが無かったせいか?
それとも頭がクラクラするせいか?
自分の事なのに他人事の様に思える。

(あそこに落ちてるのは私の腕?あっちは足?)

薄暗い灯りの中、床に無造作に落ちている私の手足。

半ば諦め、あーーもう私は助からない。
きっと私の身体は取り返しのつかない程グチャグチャにされているのだろうと。
しかし不思議と「それで何か?」という無機質な感情……

思い返せば……

思い返せない……何も思い返せない……何も思い出せない……
あーーこれが死か。
何も無くなるのか。

暗いな……

真っ暗だ……








ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー目が覚めると……何故だか目が覚めてしまった。
私はまだ死んでいないのか?
手足や身体が無くなっているのが感覚的にわかる。

私は頭だけになっていた。

黄色い水の中をプカプカと浮いていて、それがガラス瓶の中だと気付く。周りの景色が全て黄色く歪んでボヤけていたから。

「や~~目覚めたかい?」

ボヤける景色の中を聞き覚えのある声が近づいて来た。
次の瞬間。瓶の中の黄色い水が瞬間的に無くなり、私の視界が一気に開ける。

そこには……
白衣を見に纏ったピエロが1人。
伸び切ったモジャモジャの黒髪、真っ白に塗りたくられた顔、赤い鼻に赤い涙、口も裂けた様に赤く塗り潰されていた。

「さて~~何から説明しようかな~~」

うーーんと、腕を組みピエロが悩む。
うしろの大きな棚には、黄色い液体の入ったガラス瓶がビッシリと並べられていて、
よく見ると中身は、人の手足の一部だったり、臓器だと思われる物体、男性器に豚の頭、内臓が抜き取られた胸部から腹部、そして一列に並べられた人間の生首だった。

私は無意識に口をパクパクと動かしていた。手足も無く身体も無い私は声すら出す事が出来ない。精一杯の表現方法だ。

「うーーん。いい反応だね~~。驚いたのかな~~?いやいやそんな筈は無いか~~お嬢ちゃんの感情や記憶は1番最初に抜き取ったからね~~」

パクパク……パクパク……

「いい反応!いい反応!最高だよ~~お嬢ちゃん!君はきっと成功だよ~~」

ピエロが興奮気味にジロジロと見て来る。
ガラス瓶から私を取り出しスリスリと頭を愛でたり、頬に擦り付ける。

「やっぱり~~最初に感情や記憶をどこまで消せるのか~~?ってのが肝なのかな~~?ん~~この死んだ様な目。お嬢ちゃん最高だよ~~」

パクパクパクパク……

「そうかい。そうかい。嬉しいのかい。うんうん!!次にお嬢ちゃんが目覚めた時はちゃんと喋れる様にしてあげるからね~~」

ピエロは私を瓶の中に戻し、大きな棚の中心に私を置くと、また黄色い液体を流し込む。
だんだんと気持ちが良くなり、意識が次第に遠のいて行く……
ただ記憶したのは棚に戻される直前に見たこの棚の表示名だけ。




『ホムンクルス  No.18』

たぶんそれが私の名称なのだろう……









 


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