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グリッドベアは絶命した。
それは完全なる死であった。
いくら魔獣と言えど、心の臓に大剣が突き刺されば、生命活動の維持は難しい。そりゃあ、ザザの師匠の話は大袈裟な例え話であって、首だけで動く事が出来るのは、アンデット系の魔物か、デュラハンくらいだろう。
「あわわわわわ………」
言葉にならない言葉を口にしているのは少年である。
危ない!と、思って目を瞑った少年だが、次に目を開けた時には巨体熊から鮮血が吹き出していて、少年の位置からでも勝負の女神がどちらに微笑んだかはわかった。
凄い……
それが現場に居合わした少年の率直な気持ちである。
返り血を浴びながらグリッドベアにトドメを刺すザザ。
グサッ。
グサッ。
グサッ。
と、骨や健を断ち切るような音に遺憾の念を覚えた少年は、耳を塞いだ。少年の目にザザはどのように見えていたのか?
一言で言えば、畏怖だ。
少年は思った。
グサッグサッと容赦無いなぁ……凄いけど……ちょっと……怖い……
時間にしたらおよそ1分少々。無慈悲とも思えるザザの行動は、グリッドベアが肉塊に変わるまで続いた。
ーーーーーーーーー
「大きな爪だ。こいつは貰ってくよ」
ザザは腰に差していたジャックナイフで、グリッドベアから爪を剥ぎ取った。
グリッドベアの爪は、硬くて加工がし易く、それなりの値段で商会が買い取ってくれるからだ。
全ての爪を剥ぎ取り終え、腰にぶら下げた皮袋に爪を仕舞い込むザザ。気がかりなのは、終始何も言わずにコチラの様子を伺っている少年の事だ。
同業者にしてはな……などと思いつつ、ザザは後ろを振り返り、声をかける。
「おい!怪我でもしてんのかお前?」
少年は首を横に振った。
「何でこんなところにいるんだ?」
「…………」
「商会から派遣されたのか?」
「…………」
「どこの所属だ?名前は?」
「…………」
「おい!聞こえてんのかお前!?」
「…………」
不審に思ったザザが、少年の方へと近づく。少年は道の上。小さくなって塞ぎ込んでいた。
「えっ……えっ……えっと……」
「おい!怪しいなお前。そんなボロボロの服でこんな、なんとか言ったら……」
歯切れ良く啖呵を切ったザザだが、少年が顔を上げ、その顔がハッキリとわかった瞬間。足が止まった。
え?や……は?ウソ……何?女の子?に見えるけど……男の子?か?……か、可愛い……
それが、少年の顔を見たザザの率直な思いであり、気持ちであり、意見であり、感想であり、簡単に一言で例えるなら。まさに一目惚れという奴である。相手の性別が、男だろうと、女だろうと。関係無い。ドキンと、高鳴る胸の鼓動がザザを支配して行く。……ドキドキ……と言う奴だ。
「おっ……おっ……おう」
さっきまでの勢いは何処へ行ってしまったのやら、いきなり吃り始めたザザ。
少年は、またか……と思った。
少年には、苦い過去がある。
記憶である。
学生時代。酷いイジメを受けた野崎研という男の記憶だ。
少年は、目の前の女性が自分に対して好意を持っているとは思っていない。ましてや、あんなことや、こんなことをしたいと思っているなんて。微塵も思っていない。
少年が思っている事はただ一つ!そんな蔑んだ目で僕を見ないでくれ……だ。
ーー野崎研という男ーー
昭和64年という年は、たったの1週間で終わりを告げた。
その当時、小学1年生だった野崎少年は、冬休みの真っ最中。炬燵に潜りながらバチバチとTVのリモコンを操作するも、どのチャンネルも昭和天皇が崩御したニュースしかやっておらず、仕方無しにそのニュースをボーーッと眺めていた。
スマホも無く、インターネットも普及していなかった時代。野崎少年の情報源は、専らブラウン管から流れて来る、画質の悪い映像だけであった。
「チェッ!つまんねぇーの」
冬休み特選アニメに変わって、TVから流れて来るのは、日の丸を冠した真っ黒な高級車が、雪の中をただただ走っている映像だけである。あの頃はまだ幸せだった。何も知らなかった。人生は不公平の塊で出来ているなんて。
もっとカッコよく生まれていたら……
もっと可愛く生まれていたら……
イケメンになりたい!
美人になりたい!
人気者になりたい!人気者になって、周囲からチヤホヤされて持て囃されたい!
そんな願望は、人間誰しもが持つモノである。
野崎の人生は、異性にモテた事など一度も無かった。というより、色恋はおろか逆に同級生からイジメを受けていた。
生まれ落ちた環境も決して良い方では無く。父親は定職にも就かず酒に溺れ、母親は家事も碌にせずギャンブル三昧。家は築何十年のボロアパートで。貧乏。勉強も運動も下から数えた方が早く、背も低い。その上、野崎は不細工だった。
例えば、クラスで人気者の男子が、クラスで人気者の女子のリコーダーを拾ったとしよう。その場合、
「ありがとう〇〇君。どこに落ちてたの?」
と、なるが、野崎が拾った場合は、
「。。。え?盗んだでしょ!……変態……私のリコーダーに何したの?」
なんて事になるだろう。というか……
疑惑を彼がどれほど否定したとしても、次の日にはクラス中に噂は広まり、変態という新しいあだ名まで付けられ、また一つ。イジメがエスカレートするきっかけになってしまう。というかなった。野崎には、そういう暗い過去が歴としてある。良かれと思ってやった事でも、結果は良い方には転ばす、悪い方に転んでしまう事もある。ただ、野崎の場合はそうなってしまう可能性が非常に高かった。
クソ!
ちくしょう!
そんな目で俺を見るな!
俺が何したって言うんだよ!
人間という生き物は、悲しいことに学習する生き物だ。ほんの些細な負の感情1つ1つが、塵も積もれば山となり、どうせ俺なんか……どうせ上手く行かない……どうせ嫌われ者。なんていう、そんな捻くれた野崎という男の性格を作り上げた。そして、また捻くれた性格が、イジメのエスカレートに繋がり、負の連鎖は止まらない。加速する一方だ。
暗い少年時代を送った野崎。
三つ子の魂百までも。性格なんてものは、変えようと思って変わるもんじゃない。大人になったところでだ。上手くはいかない。仕事も、人間関係も、お金も、恋愛なんて論外だ。上手く行くはずもなく。さようなら。
悲しいかな。悲しい末路を辿った野崎研と言う男の人生。金で買った愛しか知らず。素人童貞のままこの世を去る。享年42歳。
愛とは何ぞや?恋とは何ぞや?女とは何ぞや?愛のあるセックスって一体何だよ?
一回くらい『大好きだよ』なんて言われて、エッチがしたかった。普通の女の子とエッチがしたかった。
少年には、そんな野崎の記憶がある。
ただ、死んだはずの自分が、何故、目覚めたのかわからない。自分は死んで、もう目覚めることは無いと思っていた。やっと……辛い人生が終わったのだ。良かった。安らかに眠れる。眠りたい。そう思っていたのに。目が覚めてしまった。
野崎の記憶を持つ少年には、女性に対しての免疫力が全くと言っていい。0だ。女性は、怖い生き物だ。偏見だ。嫌な顔をされるだけだ。やめてくれ。そんな目で見ないでくれ。早くどっかに行ってくれ。
少年の目には、女性はどんな風に映っているのか?説明しよう。血塗れである。先程の闘いにおいて、グリッドベアの返り血を大量に浴びた女性の顔面は、多少の血は拭き取ったにせよ、血塗れである。
少年は、女性と目を合わせられない。
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